AIブームと2017年ノーベル経済学賞が教えてくれたこと
2017年のノーベル経済学賞はリチャード・セイラーに授与されました、セイラー氏は専門分野である行動経済学での功績が認められての受賞です。ノーベル賞受賞で注目が高まる行動経済学とAIに共通するキーワード、それは『意思決定』です
行動経済学と意思決定
これまで長い間経済学は「人間は意思決定の際に合理的判断を行う」という前提でいろんな理論を組み立ててきました。
これに対して「人間っていつも合理的とはいえないよね、その前提だけで作られた理論には限界があるんじゃない?」というのが行動経済学の主張です。
「日曜日にやるバーベキューの食材を買いに行ったが、はらぺこだったので買いすぎてしまった」
「買った株が値下がりした、売り時だとみんな言うが値上がりを期待して持っておく。値上がりすると思うんだったら買い足せばと言われたが、こんな値下がりしてる株怖くて買い足すわけがない」
こういう一見合理的にみえない判断って普段の生活の中でしばしば目にすると思います。「人間のこういう行動も考慮して経済の理論を考えるべきなんじゃないか?」というのが行動経済学の主張です。
2002年にノーベル経済学賞を受賞し、行動経済学の始祖の一人といわれるカーネマンの専門は心理学です。行動経済学は心理学の知見を経済学に取り入れることで生まれ、発展してきました。
AIと意思決定
ひと昔前のAIのアプローチでは「人間が意思決定を行う際考えている論理をプログラムにしてAIを実現しよう」というのが主流だった時代がありました。
しかし人間の意思決定には、うまくやり方を説明できないけどこなしている(=論理的に説明できないのでプログラム化出来ない)ものが多く存在します。
「写真に写っているのが猫か犬かを見分ける」
「手書きの数字を判別する」
どちらも人間は簡単に出来ますが、どうやってやってるか説明しろと言われても難しいですよね。こういう論理では説明できないけど人間が過去の経験を元に上手にこなしている意思決定をコンピューターにやらせるのために考えられたのが機械学習です。(過去ブログ : 機械学習概要)
機械学習には色々な手法がありますが、今脚光を浴びているのがディープラーニングという手法です。色々な分野で従来の手法では実現できなかった高い精度を達成して注目をあびており、現在のAIブームをささえています。(過去ブログ :ディープラーニング概要)
ディープラーニングの元になっている仕組みは脳の研究から生まれました、脳の仕組みを簡単なモデルで作ってみる"神経回路モデル"がそのルーツです。ディープラーニングは脳科学の知見をコンピューターサイエンスに取り入れ発展させた成果であると言えるでしょう。
行動経済学とAIが教えてくれたこと
経済学に心理学の知見を取り入れることで生まれた行動経済学、コンピューターサイエンスに脳科学の知見を取り入れることで生まれたディープラーニング、この2つは異なる分野の知見の融合が生む可能性を示唆してくると同時に、単純な合理性と従来型の論理的なアプローチだけではカバーできない人間の意思決定の奥深さを私たちに再認識させてくれます。
筆者は今後も様々な分野の知見が融合することで、われわれがよりよい意思決定をすることを助けてくれる理論が発展することを期待しています。例えば今回紹介した行動経済学とAIの知見の融合は、大きな可能性を秘めていると感じていますので、今後掘り下げていきたいと思います。
参考図書
行動経済学の逆襲 リチャード・セイラー
https://goo.gl/rUoHZP
ノーベル賞受賞のリチャード・セイラーによる行動経済学の本です。とても分かりやすいので行動経済学って何だ?と思ってる方にお勧めです。
ゲーム理論による社会科学の統合 ハーバート・ギンタス
https://goo.gl/x5yyJ5
ゲーム理論を軸にした行動科学(経済学、社会学、心理学など)理論の統合の可能性について記した本です。かなり骨太ですが異なる分野の融合による可能性について考えるきっかけを与えてくれます。