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IT、特にコンサルに携わる方々を癒すメッセージを、ついでに趣味のダーツ話も交えて・・

最近のトラブルプロジェクトの兆候

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長いことトラブルプロジェクトに多数関わってきました。

トラブルというとすごく悲観的に聞こえますけれど、

世の中、統計的にはそもそも半分以上のプロジェクトが順調じゃありません。

QCD(品質・予算・納期)の少なくともどれかが計画通りでない状態・結果が実は多いのです。

それの改善、再建を助ける仕事を長くやってきましたが、例えば10年前、20年前に比べると、最近のトラブルプロジェクトの状態は特徴が変わってきています(弊社小職分析。ただしITプロジェクトに限定して統計)。

    最近 10年前 20年前
   
Q 品質 予算や納期遵守のためなら多少軽視可 予算や納期遵守のためなら多少軽視可 必達が当然(プロジェクトの大前提)
   
C 予算 厳守が目標(プロジェクトの大前提) 納期のためならリプランやむなし 品質のためならリプランやむなし
   
D 納期 予算超過を最小化できるならリプラン可 必達が当然(プロジェクトの大前提) 品質のためならリプランやむなし
         

20年前は経営計画上そのITプロジェクトの成功が企業の発展に非常に重要との認識で、計画が十分練り込まれてなかったことが追って判明したとしても、目標とする品質の達成を最重要視し、予算や納期はいろいろ試行の上で帳尻をあわせて再調整、品質必達のためならリプランを繰り返してでもプロジェクト完了を目指していたように思います。結果、予算超過、納期延長が多数発生した記憶があります。

・品質達成、納期遵守のためなら、優秀な人材確保への支出を惜しまない

・どうしても納期が守れないなら、経営会議でEXCUSE(注1)を考えプロジェクト継続

(注1):言い訳のこと

次に10年前頃をふりかえると、品質重視で予算軽視はおかしいという気運となり、品質が軽視(というと言い過ぎなのですが)され始め、納期遵守や予算超過を最低限に抑えるためなら、品質は妥協(注2)してプロジェクトを完了させる案件が増えたように思います。

・20年前と異なり、納期遵守は経営計画上非常に重要となり、予算→品質の順に妥協

・予算都合で品質達成目標がコントロールされるので、人材への納期プレッシャーが最大化

(注2):ここではあえて妥結ではなく妥協と表現します。

そして最近、さらに状況が変化したように思います。

今、どこの企業もBudget Conscious(予算重視)、予算のためなら品質も納期もどんどん妥協します。トラブルプロジェクトの場合、品質必達や納期遵守をプライドとして応援人材が投入されることになりますが、予算重視のためいわゆる報酬が以前と比べて希望を叶えるレベルからほど遠くなってきています。ただし、これは20年前に横行した、「火消屋なんだから報酬が高いのは当然」という、応援メンバー優位の図式が次第に改められている結果でもあり、プロジェクト側に100%の非があるわけでは決してありません。要は、プロジェクトを定期的に、中立的に診てQCDのバランス調整をすべきだったところをやらなかったツケが今になって回ってきたと私は思っています。

結果、優秀な人材はできるだけ高い報酬、できるだけ長い契約をくれる案件に回っていきますので、人材配置が全体的に予算都合で局所的に(本来の適正配置とは異なる様子に)偏っていったように思います。

・一度くらいの納期リプラン≒予算リプランは当たり前

・品質の着地点はプロジェクト開始後経過をみて順次調整すればいいという風潮が強まる

これは、プロジェクトを承認するマネジメントにも大きな責任があます。

十分な勝算を試算することもなく、第3者の客観的レビューを仰ぐこともせず、自前で理屈をこねくり回して計画やストーリーを正当化して、プロジェクト開始を強行することに大きな問題があります。プロジェクトに関わる人材はその乱暴さに振り回されることになるわけです。

弊社は「火消屋」を標ぼうしていますので、トラブルプロジェクトの支援を多数毎年ご拝命して職務にあたっていますが、20年前、10年前に比べて、明らかな変化を感じてもいます。

1.後から応援メンバーとして参画するにも関わらずマネジメントや現場からのリスペクトが薄くなってきた。

2.何をしに来たかを基本合意して現場に入っているのに、「何でも屋」のように目の前の火中の栗拾いに依頼を強引にシフトしようとする(全面拒否はしていません。程度問題)

3.応援メンバーの多くが現場支援に降臨させられ過ぎて、マネジメントの現状分析・意思決定の支援機会が失われていく(多忙を理由に現場の上層ですべき議論ができない)

私達は国際救助隊とは異なり、一度に複数のクライアント(プロジェクト)をご支援する必要が起きうるため(苦笑)、きわめて合理的に各プロジェクトへメンバーを展開し、ミッションとロールを速やかに定義してプロジェクト再建をご支援しているつもりです。上述のように状況の変化や優先順位について、もともとの当事者様の気持ちや期待・希望と、後から支援者として火の粉を嫌がらずに飛び込んでいく我々のような存在がうまく融合して、プロジェクト再建が果たせていけることを心から祈念しています。決して報酬フォーカスではありません。

ただ、支援者に課せられる環境は必ず「Over Work」なので、部下の健康管理、ひいては部下の家族とのプライベート環境の歪防止の観点からも、我々が「なぜトラブルと言われる状況になっているのか」を語る声には、しっかり耳を傾けてご理解とご協力をいただきたいものです。

もっと言えば、私たちが火消屋稼業から足を洗える日が来たら、それが何より「火消屋」にとっての喜び=最終目標達成であることも付け加えておきます。

なお、20年前でも今でも同じ、プロジェクトをトラブル状態に至らしめるBad Factorが何か、あらためて下記に整理しておきます。

1. 緻密な計画なしに、経営者サイド、マネジメントサイドから強引に、プロジェクト計画を歪めて(例:予算削減、工期短縮、等)プロジェクトが開始、あるいはリスタートされた

2. 緩い契約で体制構築してプロジェクト運営を開始してしまったため、「ここでみんなで踏ん張ろう」的な正念場において各社各人がEXCUSEを並べ、協力体制が維持できなくなる

3. プロジェクト管理の3種の神器である「進捗管理」「品質管理」「課題管理」をリードするマネジメント・リーダーシップが不足し、躓きや傷をきちんと癒せないまま、次第にプロジェクトがドツボにはまっていく

4. 必要スキル&量の見積もり・コントロールが甘く、不要な人材を配置換え・卒業させることもままならず、不足人材を補給するルートも確保されてない中で、悪い意味での「Best Effort」でプロジェクトを推進し続けてしまう

今年もたくさんのプロジェクトに関わっていますが、大きなトラブルに見舞われるプロジェクトには、必ず「絶対エース」的なリード・プレイヤーは存在します。そういう人がいないとトラブルプロジェクトであることに気づけないからです。しかしその方々だけでプロジェクトは再建できません。なぜなら、例えばスポーツの世界で、一人の絶対エースだけの努力だけでそのチームが優勝することが極めて難しいのと同様、エースとは別のマネジメントメンバー、サポートメンバーが客観的な目も持ち合わせて、プロジェクトに関わる全ての人材の総和としての、より高い価値創出能力およびQCD遵守意識への醸成を意識したコントロールができない状態になっているからなのです。

プロジェクトは自然に任せていると必ずトラブル状態に向かいます。そのためにプロジェクトマネジメントが重要なのです。私のような存在が「もうイラネ」と言われる日まで、どうにか頑張って、各プロジェクトメンバーが不幸な稼働状況に長らく苛まれないように、もうしばらく、微力を尽くしていきたいと思います。

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