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メーカーではなくメイカーになろう

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久しぶりにワクワクするビジネス書を読みました。クリス・アンダーセン著「メイカーズ 21世紀の産業革命が始まる」です。

数年前にオルタナブロガーの谷川さんとたまたま駅ですれ違って、その時に前著「フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略」を頂いて以来、私はクリス・アンダーセンに注目しています。(谷川さん、すみません。読んだら次の人に回すのが「フリー」の趣旨とおききしましたが、面白すぎて自宅の本棚にキープしたままになってます。)

「フリー」は何度も読み返しました。無料とオープンソースをベースに収益化する視点が、今でもおもしろい本と思います。

最新作「メイカーズ」は、3Dプリンタやレーザーカッター等の新しい工作機械が「デスクトップ」に乗るようなサイズと価格帯になったことで、これから製造業のイノベーションが起きるだろうと予言しています。

オルタナブロガーの妹尾さんが「抱き込め!ユーザー、巻き込め!デベロッパー」で日本の自動車製造業の今後を考察しています。トヨタ、日産、ホンダ他の各社は言うまでも無く日本を代表する自動車メーカーですが、同時に様々な曲がり角にさしかかっています。

自動車メーカーが「メイカー」になるとどうなるか、この本で米国ローカルモーターズ社の事例が紹介されています。ローカルモーターズはアリゾナ州に実在する会社で「RALLY FIGHTER」という趣味性の高いオフロード車を販売しています。RALLY FIGHTERの特徴は、世界初のオープンソース自動車であることです。

デザインはクラウドソーシングされ、既成部品もほぼ同じように選ばれる。アイデアを特許で守らない。

アイデアを無料で公開することで、他者がその上にアイデアを積み上げ、全員で改善し続けられるようにしている。また、ほとんど在庫を持たず、買い手が頭金を払って製造日を予約したあとに、部品を買い付け、一式を準備する。

ローカルモーターズは「ウェブ上で自動車会社を作るにはどうすればいいか」という問いから始まりました。

資本集約型の世界的な自動車会社は、単一のモデルを何十万台も生産しディーラー網を通してそれを消費者に届けています。これに対して、ローカルモーターズ流の新しいやり方は以下のようになります。

ローカルモーターズは、軽量で安全性の高い車台を開発し、年間2,000台の生産で利益を上げる。オープンソースのコミュニティが生み出すデザインが、この車台の上に搭載される。コミュニティは世界中から集まる優秀でやる気のあるデザイナーたちに力を与え、革新的で洗練されたデザインを作り出す。社内のチームは価格に見合うターゲット層を特定する。コミュニティはイノベーションを形にする。デザインはサプライヤー網に送られ、サプライヤーは必要な部品をジャスト・イン・タイムで直接ローカルモーターズに送り届ける。ローカルモーターズの施設は、従来の自動車工場の100分の1の資本で20人のスタッフにより運営される。そこで自動車は1台1台組み立てられ、品質検査され、その場所で販売される。

RALLY FIGHTERのエンジンとトランスミッションは、BMWやGMから購入しています。車軸はフォード製、燃料キャップは三菱製です。性能や安全性にかかわる要素はプロが扱い、形やスタイルを決める部分はコミュニティがデザインします。無報酬で車の設計をするデザイナーなんているのかと言うと、車のデザイナーを志したものの不本意ながら他の業界でデザインの仕事をしている人がたくさんいるのだそうです。

そしてRALLY FIGHTERの一番の特徴は、最後の組み立てを専門メカニックの指導のもとに顧客自身が行なうことです。顧客は工場に6日間通って、自分の車を組み立てます。自動車を自分で組み立てるなんて日本では想像つかないことと思います。実際は既製品を組み立てるだけの作業で、それほど難しくないそうです。パソコンの自作のようなものでしょうか。

米国の法律では買い手が50%以上を自分で作る車は、製造者が安全性について充分な情報があるか、少なくともリスクを理解しているとみなされて、製造物責任や消費者保護の規制など、あらゆる種類の規制を免除されるのだそうです。衝突試験の必要はなく、エアバック装着の必要もありません。それでいて普通に公道を走ることができます。規制だらけの日本では絶対無理そうな話です。

ローカルモーターズは関連パーツなどの周辺エコシステムを立ち上げるイノベーションのプラットフォームであるところが、これまでのカスタムカーメーカーとの大きな違いだと著者は指摘しています。一方、すべての自動車が会社がローカルモーターズのようになるわけではないということも理解しています。

重要なのは、従来型製造業のサプライチェーンを利用して部品を調達することで、自動車のような生死にかかわる製品でもクラウドソーシングが可能になったことです。

この本の出版に合わせて著者が来日講演をしたこともあってか、日本の新聞やテレビは「3Dプリンターで国内工場でも中国に対抗できる、日本の製造業が復活する」的なトーンが見られます。はたして3Dプリンターで試作時間が短縮されれば、中国他に対して競争優位になるのでしょうか。

著者は本の中で米国内にあって中国に対抗できる工場を描いています。その工場は3DプリンターやNC工作機械が無人で24時間動き続ける工場です。つまり工作機械の値段は世界中同じであり、モノの値段に含まれる人件費の割合を限りなくゼロに近づけることができれば、国内工場は中国に対抗できるという話です。雇用が全くなくなるわけではありませんが、そこで必要とされるのは今の生産ラインにいる人と違うスキルの人になるでしょう。さらにその場合でも物流やサプライチェーンなど周辺機能が中国優位にあるので、それを無視できないとしています。どうやら従来型のメーカーの生産量が元に戻るような話ではなさそうです。

この本の趣旨は、工場設備、専門技術者、流通インフラ、資金調達といった従来型の製造業の必須機能を持たない個人が、クラウドソーシングを活用することで「メイカー」になるという点にあると思います。その事例として紹介されているレゴの武器パーツを製造販売しているブリックアームズ社の話は、強く印象に残りました。

メイカーの時代が来る予感がします。あなたは何を作りますか。

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