中間管理職が危ない【中堅崩壊】
野田稔著「中堅崩壊-ミドルマネジメント再生への提言」を読みました。
著者は、大企業の人事担当役員などから「ミドルマネジメントが疲弊している」「弱体化している」といった意見を多くきくようになりました。弱体化の内容は以下のようなものです。
- プレーに忙殺されていて、マネジメントが疎かになっている
- 忙しいことで仕事をしている気分になっている
- 変革するどころか、一番保守的である
- 現場の変化を嗅ぎ取る嗅覚が落ちている
- 問題解決能力が欠如している
- 部下に対する厳しさが足りない
- 部下とのコミュニケーションができていない
- 経験の場が少なかったこともあり、部下のモデルにならない
- 鬱が増えている
著者はミドル層を35-47歳と定義し、さらに35-41歳をミドル前期、42-47歳をミドル後期と分けています。この本のテーマになっているのは、ミドル前期です。1988年から1994年頃に入社した、いわゆるバルブ入社組です。
この層の特徴として、プレーイングマネージャ化して仕事に余裕がなくなった多重責務者であることが挙げられます。また、企業に余裕がなくなって研修やOJTを受ける機会が少なかったこと、その後の採用抑制で教えるべき部下がいなくて、学びのプロセスが不十分だったことがあります。
当ブログでは就職氷河期世代が正社員になれなかったことについて何度か書いていますが、その上のバブル入社の世代も後輩が入社して来なかったためにたいへんな状況になっています。
私はこれまで、さまざまな会社でリーダーシップ研修や動機付けの研修を行ってきた。
当然、研修では受講生のそれまでの職務経験を重視する。対象者は年齢的には30歳代後半から40歳代前半が多いのだが、これまでのリーダーシップ体験を質問すると、30%近くの人が、今までに一人も部下を持ったことがないと答える。それにもかかわらず、研修後には10人を超える部下を持たなければならない。これでは研修プログラムもうまく回せない。
著者に研修を依頼する企業が、昇進に時間がかかる大企業と思われることを差し引いても、30歳代後半で部下を持った経験がない人が3割もいる、というのは驚きです。私が会社員だった時は、30歳代前半ですでに最大20名の部下がいました。中には自分より年上の部下もいて、どのようにマネジメントすればいいのか悩んだこともありました。今から思えば未熟で恥ずかしくなるようなマネジメントでしたが、非常に貴重な経験であり、その経験と反省は後々生かされたと思っています。
新入社員が入ってこない結果として、ミドル前期層は、社内をローテーション異動して広く学ぶのではなく、特定の部署で塩漬けになって、狭い分野のスペシャリストになってしまいました。
たとえばヨーロッパにおいては、スペシャリストは褒め言葉ではない。かつて、この言葉のイメージをきいたことがあるが、彼らにとってスペシャリストとは「一つのことしかできない人間」という印象だそうだ。まさに単能工を意味するといえよう。「釘を打たせたら日本一かもしれないが、決して棟梁にはなれない」というわけである。エキスパートは、その道の達人であるので、スペシャリストの上位概念といえるが、これもまだ褒め言葉とは言えない。彼らが人に言われて一番うれしい言葉が、プロフェッショナルだ。
プロフェッショナルには、まさに「自立的、自己完結的に、価値を創造できる人」という意味がある。当然、多能工でなければならないし、その上にリーダーシップやマーケティングの才、企画力や人間力など、多数の能力が必要になる。
日本の企業も、専門化を叫んだときに、多分、プロフェッショナルを育てようとしたのだと思うが、その定義も方法論も間違えた。専門性をただ高めようとして、塩漬けの単能工をたくさん作ってしまったわけだ。
ミドルが「挑戦」や「イノベーション」をできない原因として、短期業績に重きを置きすぎた成果主義について言及しています。
90年代初頭に、米国で多数のコンサルティングファームや投資銀行をインタビューして回ったことがある。当時私は、さまざまな企業の評価制度を調べていたので、インタビューに際しては、「評価表を見せてほしい」と頼んでいた。ところが、「客観的な評価指標はない」と答えるファームがほとんどであった。「指標なしで、どうやって評価するのですか?」と聞くと、「主観だ」というのが答えだった。
私がびっくりして、「主観で評価したら不公平にならないですか?」と聞くと、おおむね次のような答えが返ってきた。
「確かに、一人で評価すればその危険はある。だから複数の人間が行う。複数の主観で判断する。研ぎ澄まされた主観は、出来の悪い客観評価より数段納得性が高い。若い社員にとって、パートナークラスの幹部はスターのような存在だ。いずれは『ああなりたい』というロールモデルになっている。その人たちに、『お前はダメだ』と言われたら、それはやっぱりダメなのだ。(略)」
一流のコンサルティング会社だからできることかもしれませんが、興味深いやり方です。
著者は、企業がミドル層に改革を求めても、「改革のための努力」が数値であらわせないために、評価されるミドル層のモチベーションが上がらないと述べています。企業がミドル層にビジネス創造を求めるなら、ビジネス創造に関わる行動を正しく評価すべきである、というのが著者の主張です。
この本は、ミドル&ジュニア層1,000人アンケートや、ミドル層の活性化に向けてさまざまな戦略を実行している企業の例、エクセレントミドルとして参考にすべき個人の例など、豊富な内容になっています。
中でも読むべきは、第3章の「丹波宇一郎会長が考えるミドル問題の本質」です。
伊藤忠商事の丹羽会長と言えば、数ヶ月前に「入社して最初の10年は泥のように働け」発言でネットを騒がせたことで有名です。
「最初の10年は泥のように働け」の部分だけが一人歩きして反感を持たれたようですが、実はその後に「次の10年は徹底的に勉強してもらう」と続いていたことはご存知でしょうか。私がこの話をきいた時、「伊藤忠商事は新入社員を20年単位で考えてくれるいい会社だな」と思って、感心したくらいです。
私は他の大手商社の方を知っていますが、その商社の社員は若い時から年齢不相応な難易度の高いハードな仕事をやっています。それを乗り越えて経験を積むことで、ミドル層になる頃には子会社の経営ができるくらいのレベルになっています。「泥のように働いて、徹底的に勉強する」ことは、自分自身のために必要なことです。
丹波 ビジネスパーソンの成長期を20代~34歳、35~44歳、そして45~55歳ぐらいというふうに、おおよそ10年刻みで分けて考えています。このうち35歳から44歳がミドル層なわけです。そこで優秀なミドルになるためには、その前の10年間、20代から34歳の間の過ごし方が極めて重要になる。この期間は、社会人としての生活の基盤をつくる時代なのです。あまり頭でっかちになってもいけないし、かといって足腰だけ丈夫になってもいけない。
しかしながら、基盤をつくるということは、やっぱり汗を流して体を使って、体で覚えなければいけないものです。ゴルフと同じです。理論だけ覚えても、実際にスイングするとOBばかりということはよくあるものです。ミドルの時代に優秀ではないということは、基盤づくりのところで手抜きしたということを意味すると思います。
野田 なるほど、そのとおりですね。
丹波 早く成功して、早くお金を稼いで、早く高いポジションにつくにはどうしたらいいかと考えて、すぐハウツーものに飛びつく。我慢強く自らの身体で物事を覚え込むという大切な過程が、疎かにされてきた。それがこの10年、あるいは15年の反省だと思うのです。
私は、常々、人は20代にどれだけ経験を積んだかで、それ以降の成長のベクトルの傾きが決まってしまうと考えています。30代になってからあわてて始めても、急成長するのは難しいのです。それと同じことを言っていると思います。
この本は「中堅崩壊」という派手なタイトルになっていますが、中身は地味です。副題の「ミドルマネジメント再生への提言」の方が適切です。
では、著者の言うミドルマネジメント再生への提言とは何でしょうか。創造するミドルのためのあらたなキーワードとして著者が挙げるのが、「社内プロジェティスタ」です。
プロジェティスタとは何なのか、次回に続きます。
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