55の罠を読むより「使い倒す」方法、あるいは失敗は起きる前に話せるという事実
発売後2週間で早くも重版になった「プロジェクトを失敗させる55の罠」ですが、分厚くて読むの大変ですよね(白川史上最も分厚い475ページ)。
読書が好きな人は是非一度通読してほしい。そのほうが得られるものは絶対に大きい。
だがそうじゃない人、忙しい人、いまプロジェクトで疲弊している人も多いことだろう。
そういう方々にも学んでもらう為に、「罠カードを使ったワークショップ」を開発した。
★罠カードとは?
「プロジェクトを失敗させる55の罠」を書き終えたのは25年の8月で、発売は26年の8月。出版まで1年も待つことになった。ゲラチェックなど著者としての仕事は多少あるが、ぶっちゃけ待ってる間、暇だった。
そんな時にウチの社員が「カードにしたら面白いんじゃないか?」というアイディアをくれた。ちょうどその時に「全社員で1泊2日の合宿をして、何か会社にとって役に立つモノを作ろう!」というハッカソンを開催していたので、生成AIを使ってプロトタイプを作ったのが始まりだ。

その後遊び方を考えてトライアルを重ねたり、プロにデザインしてもらったりして、カードが完成した。秋葉原の同人カードゲームの印刷屋さんに行ったのとか、面白かったですね。
最終的に出来上がったカードがこれ。

表にタイトルとイラスト。裏に100文字解説。
(https://blogs.itmedia.co.jp/magic/2026/09/post_152.html に掲載した解説と同じ文章)
なお、現時点では非売品。カードだけ持ってても、上手にワークショップをファシリテーションしないと意味がないから。(買いたい、という要望多数なので、そのうち発売するかもしれない)
★リスク分析のやり方を25年ぶりに改めた
それと同時に、実際のプロジェクトでもこのカードを使い始めた。
元々ウチの会社の方法論(CambridgeRAD)にはアメリカ伝来のリスク分析方法が含まれていて、僕は入社以来25年、プロジェクトでずっとその方法でリスク対策をしてきた。本にも掲載した。
だが一緒に仕事をするお客さんを交えて罠カードを使ったリスク分析をやるうちに、元々の方法論よりもこちらの方がずっと良いことが分かってきた。
やり方はとてもシンプル。
①いまやっているフェーズ前後のカードを選んで並べる。
(例えば要求定義が佳境に入った段階でやるリスク分析であれば、「罠28 機能要求を漏らす」から「罠38 見積大ハズシ」あたりを選ぶ。15枚くらいあっても選べる)
②参加者が懸念している罠に投票
一人2枚くらい付箋を持って、心配な罠(すでに問題が発生しているとか、今後ハマりそうな罠)に投票する。
罠カードの裏に罠の説明書きが書いてあるのだが、それを熟読して選ぶというよりは、タイトルだけで直感的に選んでOK。
タイトルだけ見ても意味がわからないのは55個中5個くらいあるので、それだけ口頭で補足することが多い。

③票が集まった罠について話す
・なぜ心配なのか
・具体的にどのような兆候があるのか
・本当に対策が必要な深刻な状況か
・どんな対策を打つか?
プロジェクトには様々な立場のメンバーがいる。ベテラン/若手、業務部門/IT部門、社内/社外・・・。
だから懸念する罠が食い違うのが自然だし、どちらが正解という訳ではない。
大事なのは、異なる立場から見たリスクを把握できることだ。以前のプロジェクトであったやりとりを紹介しよう。
若手メンバー
「罠15 制度や習慣をスクラップしない、を選びました。というのは・・今回の制度改定について、地方の営業所にいる同期に聞いてみたんですよ。そしたら制度が変わること自体を知らない。影響を説明したら、自分の顧客への影響を心配してました。このまま突っ走って大丈夫ですかね?」
プロジェクトマネージャー
「あれだけ社内周知したのに、そのレベルか。、。やっぱりこちらから出向いて、説明会開かないとダメか・・」
なお、時間制約がなければ、1票しか入っていない罠についても軽く触れたほうがいい。その人しか見えていないが、いざリスクが顕在化した時にインパクトが大きい罠もあるからだ。
④対策のTodo化
リスク対策会議の振り返りとして、議論で出てきた具体的なアクションをみんなで確認する。
「〇〇部長に相談しにいく」かもしれないし「ベンダーさんに〇〇の要望を出す」かもしれない。
こんな感じで、要は「この罠、ウチのプロジェクトではどうかな?」と話すだけ。
なんだけど、ベテランやPMには見えていなかったリスクが意外と発見できたりする。非常に深い議論になることもある。
もう一度言うが、「正解を当てるゲーム」ではない。懸念を共有したり、深掘りしながらプロジェクト状況への理解を深めることが、プロジェクトのリスクを下げ、成功率を上げるのだ。
この方式でリスク分析をするメリットを整理すると、
・盲点だったリスクに気づきやすい
・本当に重要なリスクに集中して、対策を議論できる
・様々な立場のプロジェクトメンバーから、プロジェクト遂行上の懸念点を引き出せる
・ベテランから若手にナレッジを渡しやすい
こんなところだろうか。やれば効果を実感できる。
これに大きな手応えを感じたので、元々の方法論をスッパリと捨てることにした(教科書にも書いちゃったけど)。55の罠を使った方式の方が実際に役に立つからだ。
★罠ワークショップとは?
そして、僕らケンブリッジと一緒にプロジェクトをやっている人たちだけに留めるのがもったいなくなってきた。もっと多くの人々がこれを通じて学んだほうがいい。それが罠ワークショップだ。


※罠ワークショップのチラシ。縦に3つ折りするものなのでこの表示だとアレだが、言いたいことは伝わるかと思う。
★なぜワークショップが有効か。
それは、普段はあまり話さないプロジェクトの失敗談、リスク、懸念について会話するだけで、プロジェクトの成功率が上がるからだ。
会話を通じて疑似体験する。
リスクについてのアンテナが高くなる。
共通言語を持つことで、モヤッとした懸念について会話できるようになる。
リスクは本質的に厄介なもので、特効薬がないからこそ、チームで認識を合わせることでしか、防げないのだ。
参加者の特性に応じて、主に2種類のワークを開発した。
一つは上記で詳しく説明した、進行中のプロジェクトを題材に、「いま実はひっそりと発生している課題」を見つけるためのワークショップ。もちろんこれから始めるプロジェクトでもOK。
もう一つ、参加者が同じプロジェクトで仕事をしていない時にやるワークショップも開発した。
バラバラな会社、部署の人が集っても、学ぶことはたくさんある(むしろ様々なバックグラウンドの人が集まっているからこそ学べることもある)。
こちらはゲーム形式なので、もう少し砕けた雰囲気で進行する。半分遊びながら半分真面目に、プロジェクトの失敗について語り合う。
他部門のベテランから基調な体験談を聞けたり、他社事例から自社の組織的な特徴を発見したり。
生々しい事例からプロジェクトの勘所を共有する勉強会やプロジェクトリスクの対処法を学ぶ研修としての効果もある。(僕をはじめとしたケンブリッジのコンサルタントがファシリテーターを務めるので、同じ会社の人だけで議論しているのとは違った観点を提供できるから)
※どんなゲームなのかは内緒。個人的にボードゲーム、カードゲームが好きなので色々発案して考えたんだけど、結局はシンプルなゲームに落ち着きました。
僕個人としては、上記のリスク分析ワークショップよりも、こっちの方が好きかな。楽しいから。結構笑い声が聞こえる。
そして、誰かの過去の炎上プロジェクト、苦労話を聞いていると、その人のことが前より少し好きになる。シンパシーが湧くし、仕事への思いみたいなものが垣間見えるから。
★参加者の感想
まずほぼ全ての参加者が「面白いのに、めちゃくちゃためになる!」という感想を語ってくれます。
そして「来週、プロジェクトメンバーともう一回やる」「ウチの部署特有の罠を見出して議論したい」のように、即行動してくれる人が多いのも、ファシリテーターとしては嬉しいポイント。
ある参加者が最後にポツリと語った一言も印象に残っている。
「罠、というネーミングがいいと思います。プロジェクトが失敗すると、どうしても犯人探しみたいなことをしてしまう。でもこのワークショップは"プロジェクトには元々罠が仕掛けられている。難しいよね"という前提があって、それでもプロジェクトを成功させるために何ができるか?という前向きな話ができる」
僕自身はそこまで意識していなかったけれども、そのとおりかもしれない。犯人なんかいなくても、そもそも難しいのがプロジェクトだから。
★興味がある方へ
当面、ワークショップは1回20万円です。参加者が3人でも15人でも何時間でも同じ金額(面倒だから)。
事前に30分ほど、ワークショップの参加者や目的、確保できる時間を確認させていただきます。
ケンブリッジの連絡フォーム経由でアクセスしてください。
https://pages.ctp.co.jp/contact.html
(白川のメールアドレスに連絡いただいても、あんまり見ないと思います)