オルタナティブ・ブログ > 秋山大志のそれとりあえず作ってみようか。 >

あれこれ考えるよりも作ってしまった方が早いんじゃね?と思う、ギークなサラリーマンのアジャイルな日々。

簗和生農水相の「道路予算カット」発言をクリティカルシンキングする。それでも問題だと思う理由

»

「那須烏山市と那珂川町の令和8年度の道路予算については、大幅にカットをしました」

いや、堂々と言うなよ。簗和生農水相が、大臣になる前の5月、地元・栃木の自民党支部の懇親会でそう語っていたそうです。デイリー新潮が音声を入手したとして報じたのが9月30日。続きがこちら。

「自民党の議員に頼っていくらの予算が必要だというところに、多く回すのが当たり前の話ですから」
「那須烏山市については前年比で64%減、3分の1にしました。そして那珂川町は54%減にしています」
「命は守らねばなりませんから(略)河川の関係は触っていません。道路の、命に支障がないところを削減しています」

報道は「選挙で支援しなかった自治体への圧力」という構図で一斉に走りました。でも、週刊誌の記事をそのまま鵜呑みにするほどお人好しじゃないので、まず何が確かで何が怪しいのかを仕分けます。そのうえで、それでもアウトでしょ、という話をします。

最後は地元の練馬に飛びます。大江戸線の延伸です。話が飛びすぎ? いやいや、簗和生氏の件と同じ匂いがするんですよ。

先に結論:簗和生氏の「道路予算カット」発言をどう読むか

  • 自治体の道路予算が前年度より下がったのは、複数の報道でかなり固い。ただ、簗氏が下げたのか、支持しなかったから下げたのかは、本人の自慢以外に根拠がない
  • それでも「支持の有無で予算が変わる」と誇る発言はアウト。私にはどう聞いても政治的な脅しだった
  • 聞かれても答えない姿勢は、2021年のLGBT発言をめぐる国会質疑から続いている。説明責任を何だと思ってるのか
  • 同じ構図は地元にもある。練馬の大江戸線延伸でも、公金で進む運動を政治家が自分の手柄にしていないか、見ておく必要がある

簗和生氏の発言と経緯(5月24日〜10月2日)

  • 5月24日:自民党大田原支部の懇親会で、冒頭の発言(新潮の報道)
  • 9月18日:簗氏が農林水産大臣に就任
  • 9月30日:新潮が音声を報道。官房長官は「事実の有無も含めて関係省庁で調査中」
  • 10月1日:毎日新聞(TNC配信)が両自治体の予算額を報道
  • 10月2日:午前に農水省で簗氏の会見、国交大臣も会見。夕方に簗氏が再び取材に応じる

簗和生氏の予算カット発言とは? 報道は3つの別の話を束ねている

あの記事、性質の違う話が3つ、ごった煮になってます。

  • ① 配分額が前年度より下がった
  • ② それを簗氏が下げた
  • ③ 支持しなかったから下げた

①はかなり固い。毎日新聞(TNC配信)が、国の社会資本整備総合交付金(道路部分)について、那須烏山市は約6,535万円から約2,426万円へ約63%減、那珂川町は約4,934万円から約2,262万円へ約54%減と報じています。新潮も同じ数字を自治体への取材として出していて、簗氏が自分で言った「64%減」「54%減」ともほぼ一致します。本人の自慢と自治体の数字が合ってるんだから、下がったこと自体は疑いようがないでしょう。

②は、簗氏本人の自慢が唯一の根拠です。国交省は新潮の取材に「簗氏からの働きかけで配分額を変えた事実はない」と回答。簗氏も「われわれはそういうこと、できる立場にないでしょ。行政がやることだから」と答え、10月2日には「国交省への予算カットの依頼は意図的なものを伝えたことはない」と言っています。

国交省は、配分は「地方公共団体からの要望や事業の進捗状況、重点配分の対象の有無等を総合的に勘案して行っている」との説明です。要望額や進捗で下がっただけで、それを簗氏が自分の手柄みたいに語った、という線もあり得ます。それはそれでダサいけど。

③は、音声の中の本人の言葉しかありません。

国交大臣の「道路予算が削減された事実はない」をどう読むか

国交大臣は10月2日の会見でこう言いました。

「報道されているような、御指摘の発言のような形で、道路予算が削減された事実はないと報告を受けている」

9月30日は「調査中」だった政府が、10月2日には「事実はない」。これだけ見ると疑惑が晴れたっぽいですが、ちょっと待ってください。「報告を受けている」は、調べられる側の省庁からの伝聞です。身内の自己申告ですね。

しかも「御指摘の発言のような形で」という修飾が付いてる。削減そのものがない、とは言ってないようにも読めます。簗氏が動かして下げた、という「形」を否定しているだけかもしれない。自治体の数字は実際に下がってるのに、そことどう両立するのか、説明はありません。

週刊誌の読み方として、頭に置いておきたいことがあります。見出しの「恫喝」「圧力疑惑」は評価であって事実じゃないこと。「恫喝と言われても仕方がない」は匿名の自民党関係者のコメントだということ。非公開の懇親会の音声がこのタイミングで外に出ていること(記事によれば2月の衆院選は保守分裂で、簗氏は無所属候補に負けて比例復活)。

ただ、出どころが怪しいからといって、発言そのものが消えるわけじゃありません。簗氏本人も、10月2日の夕方には「報道で書かれているので、そういう発言をしたのだと思う」と言っています(埼玉新聞)。じゃあ言ったんじゃん。

簗和生氏の発言がそれでも問題だと思う理由

本当に動かしていたなら、権限の濫用です。動かしていなかったなら、持ってもいない権限を支持者の前で誇ったことになる。国交省の配分の結果を見て、自分の手柄みたいに語った。どっちに転んでもまともな話じゃありません。

後者でも害はあります。聞いた支持者は「予算って、政治家に頼るかどうかで決まるものなんだ」と受け取る。公共事業の配分への信頼を、本人の口が壊してるんですよ。

いちばん引っかかるのは、「頼ってくる議員の地域に多く回すのが当たり前」を、原則として堂々と口にしていることです。本人は「誤解を招く言いぶりだった」と言いますが、じゃあ中身は誤解なのか。そこには一切触れません。言いぶりの問題にして逃げてるだけでしょ。

「命に支障がないところを削減」も、何様だよと思います。削る側が命の線引きをしている。新潮によれば、那珂川町では町道の工事が発注できない状態で、記事はその道を「命に関わる道」と書いています。

簗和生氏の発言は「政治的な脅し」に聞こえた

音声を読んで、いちばん強く残ったのは「頼る」と「回す」の距離でした。

刑法上の脅迫にあたるかどうかは、私が決めることじゃないので言いません。ただ、私にはどう聞いても政治的な脅しに聞こえました。しかも、聞かされたのは懇親会の支持者だけじゃないと思います。

  • 有権者:支援しなければ、自分の町の予算が削られる
  • 選挙区:支援しない自治体がどうなるか、見せしめとして伝わる
  • 業界団体:道路の予算を頼りにする建設・土木の事業者
  • 同じ有権者の付託を受けた他の政治家:首長や議員が別の候補を応援したら何が起きるか

自分を支持する側には「多く回すのが当たり前」、そうでない側には「前年比で3分の1にした」。この対比は、利益誘導とか集票とか基盤固めを通り越して、選挙区の有権者と、同じ付託を受けた政治家への威圧に聞こえます。

本人にそのつもりがあったとは言いません。でも、そう聞こえてしまう時点で、権限を持ってる人の言葉としてはアウトです。

簗和生氏の「答えない」姿勢は、2021年のLGBT発言から続いている

もうひとつ。今回の会見で簗氏が繰り返した「答えない」は、今回が初めてじゃありません。

2021年5月20日、LGBTなどの性的少数者をめぐる理解増進法案を議論した自民党の部会で、簗氏が「生物学的に自然に備わっている種の保存にあらがっている感じ」と述べたと、複数の出席者の証言として報じられました。2022年11月17日の参議院法務委員会で、当時文部科学副大臣だった簗氏に、石川大我議員がその報道を引いて事実かと聞いています。簗氏の答えはこうでした(国会会議録)。

「当該の会議は明示的にこれ非公開の形式で行われた会議でありまして、議事録といったものも公表されていないわけであります。(略)この非公開という会議の性質上、その内容等に関わることであったり、それに関連した質問についてはお答えすることは差し控えたいというふうに思います。」

一方でこうも言っています。

「私はこれまで、あらゆる公の場において、御指摘のようなそういった発言をしたことは一切ありません。」

よく読むと、否定は「あらゆる公の場において」と限定付きです。問題の非公開の会合で何を言ったかは、肯定も否定もしてません。石川議員が「言っていないなら言っていないと言えばいい」と迫っても、答えは変わりませんでした。うまいこと逃げてますよね。

9月18日の農水相の就任会見でも、同じ件を聞かれて「私が文部科学省で副大臣をやっているときにも、国会の答弁で申し上げておりますけれども、これは党において、非公開の形式で行われた会議であります」と同じ理由を繰り返しています。

そして10月2日の農水省の会見。最初の質問はこうでした。

「選挙に協力しなかったから予算をカットするというような、政治家の利益誘導と取れる行動については、やっていいことだというふうにはお考えでしょうか。」

簗氏の答えは、これです。

「農林水産政策の所管外の話については、回答は控えたいと思います。」

所管外w 農林水産大臣が、予算の配分を使った利益誘導がいいか悪いかを聞かれて、所管外。じゃあ所管は何なんですかね。

その後も「大臣就任前の、一議員としての活動に関する事柄については、大臣としてコメントは控えたい」という趣旨の回答が続き、産経は約20回と報じています。壊れたレコードか。それが夕方には、「そういう発言をしたのだと思う」「誤解を招くような言いぶりだった」です。午前中の会見は何だったんでしょう。

非公開の会合の中身を明かさないというルールがあるのは分かります。大臣が所管外の質問を控える慣行があるのも分かります。憲法63条は、国務大臣に国会への出席義務を定めていますが、個々の質問に答えろとまでは書いていません。答えないこと自体は、違法じゃないでしょう。

それでも私は、簗氏は国会や国民の知る権利、説明責任を軽視していると思います。

  • 答えない理由が場面ごとに変わっている。2022年は「非公開の会議だから」、9月は「党のルールだから」、10月は「所管外」「大臣就任前の一議員の活動だから」。理由は違っても、結論はいつも「答えない」です
  • 一般論の質問にも答えない。「選挙に協力しなかったから予算をカットする行動は、やっていいことか」は、特定の発言じゃなくて、政治家としての原則を聞いています。これを「所管外」で退けるのは、国民が一番知りたいところから全力で逃げてるのと同じです
  • 午前は答えず、夕方には認める。聞かれた場では答えず、別の場で認める。説明が誰のためにあるのか分かりません

公職にある人が公の場で説明するのは、親切じゃなくて責務です。国会の質問は、国民に代わって聞いているものです。そこで答えないのは、聞いた議員だけじゃなく、その先にいる私たちに「答えない」ということでもあります。ふざけた話です。

道路族とは? 「持ってくる政治」の功罪

ここまで読んで、「政治家が地元に予算を持ってくるのは悪いことなの?」と思った人もいると思います。

日本の政治では、力のある政治家が地元に道路や鉄道を持ってくるのが、長く「力量」として評価されてきました。そういう政治家はよく「道路族」と呼ばれます。

国会会議録を見ると、この言葉の使われ方はバラバラです。麻生太郎氏は2018年に「道路族と言われる方からえらい勢いでやられましたから」と道路特定財源の見直しを振り返っています。野党議員は「国会議員、道路族のかなり重要な立場だというふうに仄聞しておりますので」と批判の文脈で使い、与党の鈴木貴子議員は「道路族中村先生、堀井先生...」と仲間内の呼び名で使っています。蔑称にも通称にもなる言葉なので、「道路族だから悪者」と決めつけるのは雑すぎます。

支持と配分の関係を調べた研究もあります。Catalinacらの2020年の論文は、1980〜2000年の約3,300市町村のデータで、自民党の当選者への支持の順位が高い自治体ほど大きな見返りを得ていたことを示しました。四半世紀前までのデータですが、「そういうことが実際にあった」と研究で示されているのは事実です。やっぱりな、って話ですよ。

二階俊博氏と紀伊半島の高速道路:批判と感謝の両方がある

分かりやすい例が、和歌山の二階俊博氏です。1983年の初出馬から、紀伊半島一周の高速道路を訴えてきたと報じられています。評価は割れていて、2013年のSAPIO(NEWSポストセブン)は、「二階バイパス」と呼ばれる道路の予算が、自民党の政権復帰後に7倍の78億円になったと批判的に報じました。

一方、2024年に二階氏が次の衆院選に出ないと表明したとき、紀伊民報は地元の首長の声を伝えています。すさみ町長は防災や高速道路の整備への助言に触れ、田辺市長は、二階氏が現場から関係機関に直接電話をかける素早さを評価しました。

紀伊半島南部の国道42号が大雨で通行止めになりやすいという事情もあります。ここは本当に必要な道だったんでしょう。

なので二階氏を悪役にする気はありません。批判と感謝の両方が出る、典型的な「地元利益代表型」の政治家です。地域に必要なインフラを国に訴えて予算を取ってくるのは、選挙区の議員の仕事です。

ただ、「私に力を与えてくれれば道を作る」と「支持しないなら取り上げる」は別物です。前者は必要性を説明して実現を約束する話。後者は、予算を罰に使えると示す話。簗氏は完全に後者ですよね。

とはいえ、どちらも「予算は政治家の力の産物だ」という同じ前提の表と裏です。だから「持ってくる」側も、透明じゃないといけないと思っています。身近な例を見てみます。

大江戸線延伸(練馬)に政治家はどこまで関わっているのか

練馬では、都営大江戸線を光が丘から大泉学園町まで延ばす計画が、長年動いています。新駅は(仮称)土支田、大泉町、大泉学園町の3つ。ちなみにうちの最寄りは(仮称)土支田駅になるはずですが、便利になる気が1ミリもしません。

ここで言いたいのは、延伸が必要かとか、採算が合うかという話じゃありません。公金が入っている活動に、政治家がどこまで関わっていて、それを自分の手柄にしたり、選挙に使ったりしていないか。簗氏の件と同じ筋だと感じています。

大江戸線延伸促進期成同盟と基金:公金はどこに入っているのか

延伸の地元運動の中心が「大江戸線延伸促進期成同盟」です。昭和63年の設立で、構成は「地域住民・区議会・区」。会長は区長で、2026年には吉田区長が新会長になりました。区の補助金も出ていて、令和4年度は約295万円、令和6年度は「補助金等」で約344万円。使い道は会議と、練馬まつりや地区祭での啓発活動が中心です。額は大した話じゃありません。

桁が違うのは基金のほうです。

区は延伸推進基金を積み立てていて、財源は一般財源、つまり税金。基金は平成23年に設置され、令和2年3月には目標額の50億円を積み立て終えています。ところが同盟の延伸ニュース第31号(2026年夏)によると、令和7年度に累計125億円、令和8年度にさらに30億円を積み増して累計155億円の計画です。目標の3倍ですよ。

区の寄付メニューにも、令和8年度から「大江戸線延伸の実現に向けて応援したい!」が加わりました。税金に加えて、区民の寄付まで集める形です。

期成同盟の役員に政治家はいるのか

区のサイトに、延伸ニュースのバックナンバーが全部載っています。そこに、同盟の役員体制が出てきます。

  • 副会長に「練馬区議会議長」が入っている。平成20年12月、平成25年1月、平成26年の各号で、その時々の議長が名前付きで載っています。議長という役職が、副会長の席に就く形です
  • 顧問は議員。練馬区関連の衆議院議員、練馬区選出の都議会議員、練馬区議会議員。顧問として、都議や衆議院議員の名前が並んだ号もあります
  • 同盟とは別に、「区議会大江戸線延伸および沿線地域まちづくり促進議員連盟」という組織もある(会長は区議)。平成21〜27年ごろの号に載っています
  • 2016年の延伸促進大会には、区選出の衆議院議員や都議会議員が来賓で出て、約1,200人が参加しました

つまり同盟は、役員の席に区議会議長と国・都・区の議員が組み込まれています。現在の役員名簿は見当たりませんが、このあと出てくるポスターの区議は、本人の議会報告のプロフィールに「大江戸線延伸促進期成同盟 副会長」と書いています。

「大江戸線延伸確定」のポスターは本当か

それなのに、街を歩くと議員の顔が見えます。地元の自民党の広報板に、こういうポスターが貼ってあります。練馬区議会議長を務めたことのある区議の顔写真入りです。別の支部の広報板にも同じデザインが貼ってありました。

「大江戸線延伸 新駅予定地周辺地区まちづくり 基本構想の調整に入る!」
「大江戸線延伸確定 工事着工を加速」

ポスターのどこにも、同盟や区の名前は出てきません。でも、デザインが同盟の看板とそっくりなんですよ。

新駅の予定地には、同盟の看板が立っています。「大江戸線新駅 駅前広場予定地です」「わたしたちはみなさんとともに早期延伸に向けて取組んでいます」、下には「練馬区 大江戸線延伸促進期成同盟」。そこに描かれているのが、虹と、目が付いて拳を握った電車のキャラクター「えんしん君」です(同盟の延伸ニュースの表紙にも出てくる、表記は「Ⓒ2011 練馬区ねり丸」)。議員のポスターの虹と電車は、これと同じです。

しかもこの区議は、同盟の副会長です。本人の議会報告(2023年3月号)のプロフィールに書いてあります。区議会議長も2期務めた元議長で、「平成15年区議会に送っていただき以来、20年間地下鉄大江戸線延伸を議会、区政で取り上げてまいりました」とも書いています。延伸にずっと取り組んできた議員なのは、本人の言うとおりなんでしょう。

その議員が、同盟の副会長として、同盟の看板と同じ虹とえんしん君で、自分のポスターを作っている。同盟の看板と見分けがつかないのは、偶然じゃなさそうです。

党の広報板に議員が自分のポスターを貼るのは、普通の政治活動です(選挙ポスターと公職選挙法の抜け穴については前に書きました)。区議が地元の事業を応援するのも仕事のうち。それでも気になることが3つあります。

一つ目は「確定」。

同盟の看板は「早期延伸に向けて取組んでいます」です。区の公式ページに書いてあるのも「実現に向けて大きく前進しました」で、「確定」とは書いていません。同じデザインで、同盟より強い言葉を使ってるわけです。

しかもこの言葉は最近のものじゃありません。同じ「大江戸線延伸確定 工事着工を加速」が、本人の議会報告の2023年3月号にも載っています。都が延伸を検討する組織を立ち上げたのが、その2〜3月です。報告の本文には「いよいよ大きく前進することになりました」とあるのに、見出しは「確定」。

東京都は事業化に向けた事業計画案を検討している段階だと報じられています。「工事着工」の時期も、区のページにはありません。3年以上前から「確定」と言っていて、いまも区の公式ページに「確定」の文字はありません。確定してるなら、確定した証拠を見せてほしいんですが。

二つ目は、ポスターには本人が何をしたのか書いていないこと。書いてあるのは事業の進み具合と、議員の顔と名前だけです。議会報告のほうには「20年間、議会で取り上げてきた」とありますが、ポスターを見る人はそこまで読みません。顔と「確定」「加速」が並んでれば、「この人が進めてくれてるんだ」と受け取ります。

三つ目は、区や同盟のPRと、議員個人の党のポスターが、見た目で区別できないこと。

区のねり丸のデザインには使用取扱要綱があって、区長が認めたものだけを使え、「政治・宗教・思想等の活動に利用するおそれがあるとき」は使用できないと書いてあります。えんしん君がこの要綱の対象なのか、ポスターに許諾があるのかは、私には分かりません。違反だと言いたいわけじゃない。区に聞けば一発で分かる話です。

ただ、道を歩いてこれを見た人は、区や同盟のお知らせだと思うかもしれません。公の事業のPRの顔つきで、議員の顔と名前が出ているわけです。

延伸の費用は、区が税金で積み立てている基金と、都の補助が前提です。まちづくりも区の事業です。税金で進む事業の進み具合を、議員が党のポスターで、自分の顔と一緒に見せる。手柄アピールとして、これ以上ないくらい分かりやすい形です。個人を攻撃したいわけじゃありません。構造の話です。

地元の利害関係者と、選挙

同盟の推進会議には、練馬産業連合会、東京商工会議所練馬支部、商店街連合会、法人会、農協、町会連合会が並んでいます。選挙のとき議員が頭を下げて回る相手と、かなり重なって見えます。延伸の運動に関わることで、こういう団体に顔と名前を覚えてもらえる。しかも、費用の一部は公金です。

加えて、都の検討資料では、延伸の採算の前提に「練馬区による沿線まちづくり」、つまり駅周辺の開発が入っています。開発が進めば、土地の所有者や事業者が得をします。それ自体は都市開発では当たり前のことです。

ただ、誰の土地が、どれだけ得をするのか。その人たちは、駅の位置や都市計画の決定にどう関わったのか。私の最初の感覚は「沿線の利用者より、地権者の利益が絡んでるんじゃないの?」でした。見るべき場所は分かっています。都市計画の変更履歴、用途地域、地価、そして同盟や推進会議の収支と役員です。

簗氏の件と、同じ筋だと思う

簗氏は、公金(国の交付金)の配分を、自分の力の結果として支持者の前で語りました。大江戸線の件では、税金で進む事業の進み具合を、区議が「確定」「加速」という言葉と自分の顔で見せています。スケールもやり方も全然違います。

ただ、公金が動く場所で、政治家が「自分の仕事だ」と見せて、地元の支持を固めるという点は同じ筋です。簗氏は「奪う」側の話で、こちらは「与える」側の話。表と裏です。

前に書いた福岡県議会の件もそうでした。議会ポストをめぐる金銭授受疑惑と、県議の海外視察費の問題です。視察費は、100万円以下なら競争入札なしで契約できるので、上限ギリギリで契約して、あとから増額していく。約100万円が1,025万円になった例もありました。

あれは「議員自身のための公金」の話で、構図は違います。それでも、公金が動く場所に議員がいて、中身が外から見えにくいという匂いは共通しています。

地元の政治家を見極めるには:結局、決めるのは有権者です

ここまで簗氏の発言から練馬のポスターまで見てきましたが、いちばん言いたいのは、誰が悪いという話じゃありません。大事なのは、有権者が選挙でしっかり判断することです。

公共事業は、政治家が支持者に配る褒美じゃありません。支持しなかった地域から取り上げる罰でもありません。必要なら必要だと説明して、誰が得をして誰が払うのかを見えるようにする。そして、聞かれたら答える。それが政治家の側の最低限です。でも、それを守らせられるのは、最終的には投票する私たちしかいません。

なので、読者の皆さんの地元でも、同じようなことが起きていないか、見てみてください。難しいことじゃありません。

  • 道路や駅、施設の整備が、「○○議員のおかげ」という形で語られていないか
  • 町で見かけるポスターや看板が、役所や協議会のお知らせと見分けがつかない作りになっていないか。「確定」「加速」といった言葉の根拠は何か
  • 期成同盟や協議会のような団体に、誰が役員で入っていて、公金はいくら、何に使われているか
  • 議員に聞いたとき、ちゃんと答えが返ってくるか。「所管外」「お答えを控える」で終わっていないか

議会の議事録や役所の公開資料を読めば分かることも多いです。今回の調べ物も、ほとんどは役所のサイトにあるものでした。ググれば出てきます。

もうひとつ。政治家を選ぶとき、もう少し大きな視点で選んだ方がいいと思っています。

地元の利益が大事なのは、もちろんです。道も駅も、あった方がいい。ただ、「うちの地元に何を持ってきてくれるか」だけで選ぶと、その政治家個人の力と、その人との関係に、地元の将来が左右されてしまいます。その人が引退したら、落選したら、あるいは今回の簗氏の発言のように「支持しなかったから」で配分が変わるとしたら。属人的な活動に依存した地元は、脆いです。

一方で、日本全体を盛り上げて、国力を上げようとする政治家を選べば、時間はかかっても、長期的には地元も潤います。短期の地元利益を取り合う政治より、全体のパイを大きくする政治の方が、長く続くメリットが大きい。持続可能性という意味でも、そう思っています。

ブログなんで、意見は意見として書きました。反論があれば歓迎します。


※参照:デイリー新潮/毎日新聞(TNC配信)/時事ドットコム/埼玉新聞/産経新聞/国交大臣会見(10月2日)/参議院法務委員会 2022年11月17日/Catalinac, Bueno de Mesquita & Smith (2020)/NEWSポストセブン(2013年6月)/紀伊民報(2024年3月)/東京都 大江戸線延伸にかかる庁内検討プロジェクトチーム 現在の検討状況(令和7年10月)/練馬区「都営大江戸線延伸」/大江戸線延伸ニュース バックナンバー/ねり丸デザイン等使用取扱要綱/令和6年度主要事業成果報告書。道路族の用例は国会会議録検索システムで確認しました。

※報道をクリティカルシンキングしながら一次資料に当たる話は練馬のキツネとエキノコックスの件で、練馬区と付き合った話は盗難自転車の撤去費用の件で書いています。

Comment(0)