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AI投資は増えるのに、なぜ成果は出ないのか――アクセンチュア「Pulse of Change」調査が突きつける「オペレーティングモデルの空白」

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経営幹部の86%が、2026年にAI投資を増やす計画を持っている。78%がAIを売上成長の推進要因とみなしている。ところが、全社規模で持続的なAI効果が出ていると答えられるのは、わずか32%――。

Forbesが紹介したアクセンチュアの最新「Pulse of Change」調査は、AIをめぐる経営の楽観と組織の現実のギャップを、これ以上ないほど明瞭な数字で示した。本稿では、この調査を入り口に、「なぜ投資と成果が比例しないのか」という問いを、調査の詳細データと関連する研究知見を交えて掘り下げてみたい。

▼ 元記事
Forbes JAPAN「AI投資急増も組織は追いつかず──アクセンチュア最新調査が示す現実」
Accenture「Pulse of Change」

■ 調査の概要:経営層3,650人と従業員3,350人の「二重調査」

まず、この調査の設計自体が興味深い。アクセンチュアは2025年11月から12月にかけて、2つの補完的なグローバル調査を実施した。一つは、年間売上5億ドル超の大企業のC-suite経営幹部3,650人への調査(20業種・20カ国)。もう一つは、同規模の企業で働く非経営層の従業員3,350人への調査だ。

経営層だけに聞くのではなく、同じ組織で働く従業員側にも聞く。この設計だからこそ、「経営の認識」と「現場の実感」のギャップが定量的に浮かび上がる。そしてこのギャップこそが、調査の最大の発見だった。

■ 数字が示す3つの断層

調査結果を整理すると、3つの断層が見えてくる。

第一の断層は、「投資」と「構造変革」の間にある。経営幹部の86%がAI投資の拡大を計画し、市場の調整局面(AIバブル崩壊のような事態)が起きても投資を増やし続けると答えるリーダーが多数を占める。一方で、AIに合わせてプロセスを作り直していると答えたのは約5分の1。アクセンチュアの別レポートによれば、エンドツーエンドのプロセスをAI中心に再設計している組織は21%にとどまる。そして、役割(ロール)をAI中心に再設計しているのは10人に1人未満。カネは投じられているが、仕事の構造は旧来のまま――これが第一の断層だ。

Accenture「From early impact to enduring advantage」(PDF)

第二の断層は、「経営の認識」と「従業員の実感」の間にある。従業員側の調査結果は、経営層の楽観に冷や水を浴びせる内容だ。リーダーは自分たちが明確にコミュニケーションしていると考えているが、それに強く同意した従業員はわずか18%。半数以上の従業員が「質の悪いAI出力によって時間を無駄にした」と報告している。企業が多額の研修投資をしているにもかかわらず、「研修が役割の変化に備えさせてくれた」と答えた従業員は40%。そして、AIによる仕事の変革の設計に「自分が関与している」と感じる従業員は、わずか20%にすぎない。

CHRO Association「Accenture's Pulse of Change: AI Confidence Meets Reality Gaps」

第三の断層は、「投資の熱量」と「投資の規律」の間にある。意外なことに、ROIをAI投資の主要な動機として挙げた経営幹部は12%にとどまった。多くのリーダーはAIを「リターンにかかわらず戦略的必然」と位置づけている。この熱量は変革の推進力になる一方で、「何のために、どの業務で、どんな価値を出すのか」という規律なき投資は、成果の測定も検証もできないまま膨張するリスクをはらむ。

■ 「非効率の自動化」という罠

Forbes記事のなかで、アクセンチュアのマネージングディレクター、トム・ブラス氏の言葉が本質を突いている。

「非効率なプロセスにAIを適用しているだけなら、非効率を自動化しているにすぎない」

これは、DXの時代から繰り返されてきた教訓のAI版だと言える。紙の帳票をそのままPDF化しても業務は変わらなかったように、旧来のプロセスにAIを乗せても、生まれるのは「速くなった非効率」だけだ。

アクセンチュアはこの調査の含意として、AIの価値を決めるのは個別のユースケースではなく、その周辺構造――データ、ワークフロー、ガバナンス、人の役割設計――だと指摘し、これを「AIオペレーティングモデル」と呼ぶ。そして先行企業に共通する原則を4つ挙げている。

第一に、抽象的なユースケースではなく、実際のワークフローから始めること。第二に、データ・プラットフォーム・ガバナンスを横断する「AIスパイン(背骨)」を構築すること。第三に、ガバナンスを後付けのコンプライアンスではなく、アーキテクチャの一部として設計すること。エージェント型AIが「提案するAI」から「行動するAI」へ進化するなか、権限の範囲設定、監査可能性、意思決定権の明確化を、ワークフローとエージェントの設計自体に埋め込む必要がある。第四に、人を主役に置き、誰がどの意思決定を所有し、例外をどう処理し、人とAIが仕事を分担する世界で成果をどう測るかを定義した上で、AI支援の仕事を設計することだ。

■ 事例が示す「オペレーティングモデルの力」:BBVA

この4原則が絵空事でないことは、事例が示している。アクセンチュアのレポートで紹介されているスペインの金融大手BBVAは、データの統一、ワークフローの再設計、ガバナンスの強化、役割の再構築をセットで実行した結果、ローン承認にかかる時間が数日から数時間へと短縮され、パーソナライゼーションが向上し、予測型デジタルチャネルが数百万人の新規顧客を獲得したという。

レポートの言葉を借りれば、「ブレークスルーはより良いアルゴリズムからではなく、それを活かせるオペレーティングモデルから生まれた」。技術の優劣ではなく、組織設計の優劣が成果を分ける。この調査が6,000件のAIプロジェクトの経験から導いた結論は、極めて明快だ。

■ 「スキリングだけでは足りない」:人と組織の側の再設計

この調査で私が最も重要だと考えるのは、AI価値実現の最大の障壁が、技術でもデータでもなく「従業員との整合(alignment with employees)」だと明言された点だ。

前述の通り、研修を受けても「準備ができた」と感じる従業員は40%にとどまる。アクセンチュア自身が「スキリングだけでは準備は整わない(skilling alone is failing to build readiness)」と結論づけている。理由は明白で、従業員に欠けているのはスキルだけではなく、「自分の役割がどう変わるのか」という見通しと、「その変化の設計に自分が関与している」という当事者性だからだ。変革の設計に関与していると感じる従業員が20%しかいない状態で、研修だけを積み増しても、不安は解消されない。

この構図は、マーサーのGlobal Talent Trends 2026が示したデータとも整合する。同調査では、AIによる雇用喪失への不安を抱く従業員が2024年の28%から40%へ急増し、従業員の62%が「経営者はAIの感情的影響を過小評価している」と感じる一方、AI導入戦略でこうした影響を考慮しているHRリーダーは19%にとどまった。アクセンチュアとマーサー、異なる調査が同じ断層を指している。経営の楽観と、従業員の不安。そのあいだを埋める設計が、決定的に欠けているのだ。

Mercer「Global Talent Trends」

■ 現場からの示唆:AXは「ツール選定」ではなく「オペレーティングモデル再設計」である

マーサーでAX(AIトランスフォーメーション)の組織変革を支援する立場から言えば、この調査結果は現場の肌感覚と完全に一致する。

AI導入の議論は、ほぼ例外なく「どのツールを入れるか」から始まる。しかし、成果を分けるのはその先だ。どの業務プロセスを、AIを前提にゼロから設計し直すのか。人とAIの役割分担をどう定義し、意思決定の所有権と例外処理のルールをどこに置くのか。HITL(Human-in-the-Loop)のガバナンスをワークフローにどう埋め込むのか。そして、役割が変わる従業員に、その変化をどう伝え、移行をどう支援し、新しい仕事での成果をどう測るのか。

これらはすべて、テクノロジーの問いではなく、組織設計と人材マネジメントの問いである。ターゲットオペレーティングモデルの設計、ワークフォースプランニング、チェンジマネジメント――AXの成否は、この「人と組織の側の設計」にどれだけの熱量を投じられるかで決まる。

投資額では、もう差がつかない。86%が投資を増やす世界では、投資そのものは競争優位にならないからだ。差がつくのは、10人に1人しかやっていない「役割の再設計」であり、5社に1社しかやっていない「プロセスの作り直し」であり、20%の従業員しか感じていない「変革への関与」を組織全体に広げられるかどうかだ。

AI活用の本質は、効率化ではなく、人と組織の変革にある。アクセンチュアの調査は、その命題を3,650人の経営者と3,350人の従業員の声で裏づけた。2026年に問われているのは、AIをスケールさせるかどうかではない。AIが機能する組織を、設計できるかどうかである。

▼ 参考文献・リンク
Forbes JAPAN「AI投資急増も組織は追いつかず──アクセンチュア最新調査が示す現実」
Forbes「Accenture Survey Finds AI Investment Surging, But Operating Models Lag」(原文)
Accenture「Pulse of Change」
Accenture「From early impact to enduring advantage」(PDF)
CHRO Association「Accenture's Pulse of Change: AI Confidence Meets Reality Gaps」
Mercer「Global Talent Trends」

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