AIエージェント時代の組織デザイン 第3回 10年後、「人事部」という名前は消えるか?CHROはAIエージェントのCEOになる。
先に、今回も言い切ってしまいます。
CHRO(Chief Human Resources Officer)という肩書きは、あと10年で古い概念になると。
「Human Resources」----つまり"人"だけを対象とする責任者では、もう組織は設計できなくなるからです。
CHROは、「人の責任者」から「働くこと(Work)の責任者」へ。すなわち、Chief Work Officer(CWO)への進化です。
第1回では人材マネジメントが「ジョブ → スキル → パーソナリティ」へ進化する話を、第2回では評価・等級・報酬の前提が崩れる話を書きました。最終回の今回は、その変革の司令塔----人事機能そのものの再定義について考えます。
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▫️ データが示す地殻変動----経営幹部の98%が組織設計を変える
まず、これが遠い未来の話ではないことを、データで確認しておきます。
マーサーのグローバル人材動向調査2026(世界約12,000人の経営幹部・HRリーダー・従業員・投資家を対象)によれば、経営幹部の98%が、今後2年間で組織設計の変更を計画しています。日本でも96%。もはや「変えるかどうか」を議論している企業は、ほぼ存在しません。
そして注目すべきはこの数字です。経営幹部の4人に1人(28%)が、「AIエージェントと人材を1つの機能に統合する」組織変更を計画している。
AIエージェントを人材と同じ機能に統合する----これはツール導入の話ではありません。「AIを誰が、どの組織で、人材と一体でマネジメントするのか」という、組織アーキテクチャの問いです。そしてこの問いに答える部門は、いまの企業には存在しません。IT部門は技術を見ますが、仕事と人は見ない。人事部門は人を見ますが、AIは見ない。
この空白こそが、人事の次の10年を決めるフロンティアです。
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▫️ 「人」を管理する時代は終わる
海外では、CHROではなくCWO(Chief Work Officer)という肩書きを使う企業が少しずつ現れ始めています。背景にあるのは、「人を管理する」という発想から「仕事そのものをデザインする」という発想への転換です。
日本でも兆しはあります。SansanはCTOとCHROを統合した体制を採用し、メルカリでもTechnologyとPeopleを一体で考える組織運営が進んでいます。テクノロジーと人事は、もはや別々に考えるものではなくなりました。
なぜか。仕事の遂行主体が、人だけではなくなったからです。
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▫️ AIエージェントは「第3のワークフォース」である
従来、企業のワークフォースは二層でした。正社員などの内部人材と、派遣・業務委託などの外部人材です。
そこに今、第三のカテゴリーが加わりました。AIエージェント----いわば「デジタルレイバー」です。
営業をするAI。採用スクリーニングをするAI。分析するAI。契約書をレビューするAI。議事録を書くAI。これらはすでにツールの域を超え、「労働力」として機能し始めています。
つまり企業のワークフォースは、内部人材・外部人材・AIエージェントの三層構造になる。そして三層になった瞬間、根本的な問いが生まれます。
この三層を、統合して設計する責任者は誰なのか?
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▫️ 要員計画は「Human」から「Total」へ----採用計画とエージェント配備計画が同じテーブルに載る
これまでのStrategic Workforce Planning(SWP)は、何人採用するか、どのスキルを育成するか、どこを外注するか----つまり「人」の計画でした。
しかしAIエージェントが労働力になると、計画の問いが変わります。「この仕事はAIに任せる」「ここは人が判断する」「ここは人とAIが協働する」という、仕事単位の設計が必要になる。
象徴的に言えば、「来期、何人採用するか」と「来期、何体のエージェントを配備するか」が、同じテーブルで議論される時代が来るのです。
このとき、要員計画の単位すら変わります。FTE(人数)ではなく、「ワークユニット(仕事量)」で労働力を測る。人とデジタルレイバーを統合したポートフォリオとして、最適な労働力構成を設計する。SWPは、Human Workforce PlanningからTotal Workforce Planningへ進化します。
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▫️ CHROの新しい職務記述書----それは「AI企業のCEO」に似ている
だから、CHROの仕事も変わります。人を採用し、育成し、評価する。それだけではありません。
AIエージェントを何体、どこに配備するのか。どこまで権限委譲するのか。人とAIの責任分界をどう設計するのか。AIエージェントの品質とパフォーマンスをどう管理するのか。
さらに具体的に言えば、AIエージェントには「ライフサイクル管理」が必要になります。どのエージェントを導入するか(採用)。業務にどう組み込み立ち上げるか(オンボーディング)。期待通りのパフォーマンスを出しているか(評価)。陳腐化したらどう入れ替えるか(退役)。
お気づきでしょうか。これは、人事が人に対して行ってきたプロセスそのものです。採用・オンボーディング・評価・代謝----人事の方法論は、デジタルレイバーのマネジメントにほぼそのまま拡張できる。だからこそ、この仕事の担い手は人事なのです。
人とAIからなる数千、数万の労働力を統合設計し、その品質と倫理に責任を持つ----CHROの新しい職務記述書は、まるでAI企業のCEOのようになっていきます。
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▫️ 人事部は「Work Design Office」へ----4つの新機能
では、部門としての人事は何をする組織になるのか。私は、次の4つが新しいコア機能になると考えています。
第一に、人+デジタルレイバーの統合要員計画。採用計画とエージェント配備計画を一体で設計し、労働力ポートフォリオ全体を描く機能です。
第二に、AIエージェントのライフサイクル管理。エージェントの採用からオンボーディング、評価、廃止までを、人事プロセスとして設計・運用する機能。人事制度の対象が「人」から「労働力全体」へ広がります。
第三に、意思決定権マップの設計と維持。「どの意思決定を、誰(人/AI)が、どのレベルまで担うか」を定義し、組織設計・権限規程・等級制度の共通基盤として更新し続ける機能です。
第四に、AI倫理・ガバナンスの運営。活用ルール、リスク管理、説明責任の枠組みを整備する機能。この変革を自部門で先行実践できる人事こそが、全社変革をリードできます。
人だけを見る組織から、人・AI・ロボット・外部人材のすべてを統合し、最も企業価値が高まる「働き方の形」を設計する組織へ。2035年頃には、「人事部」という名称すら「Work Design Office」のような名前に変わっているかもしれません。
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▫️ おわりに----Human Resourcesから、Work Designへ
人的資本経営では「Human Capital」という言葉が使われています。しかし、AIエージェントが当たり前になる未来では、企業価値を生むのはHumanだけではありません。
だから私は、次の10年で人事はHuman ResourcesからWorkforceへ、さらにWork Designへと進化すると考えています。
CHROは、人の責任者ではない。人とAIが協働する組織全体を設計する、Chief Work Officerになる。
そしてこれは、人事という機能の縮小ではなく、史上最大の拡張です。人事は「コストセンターの管理部門」から、「労働力全体のアーキテクト」へ。企業価値の設計者そのものになる----それが、AIエージェント時代の人事の姿ではないでしょうか。
シリーズ3回にわたり、AIエージェント時代の組織デザインを考えてきました。パーソナリティ、制度、そして人事機能そのもの。このテーマは今後も、講演やクライアントとの実践を通じて深めていきます。ご意見・ご議論、ぜひお寄せください。
▼ 参考:マーサー グローバル人材動向調査(Global Talent Trends)
https://www.mercer.com/insights/people-strategy/future-of-work/global-talent-trends/