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AIがコンサルの入り口を奪う時代に、アクセンチュアはなぜ「エントリー層を増やす」のか――キャリアの入り口をめぐる研究とデータから考える

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「コンサル不要論」が広がっている。AIがリサーチ、資料作成、分析といったコンサルティングサービスの一部を代替できるようになったからだ。そんななか、日経クロステックの独占取材に応じたアクセンチュアのジュリー・スウィート会長兼CEOが語った戦略は、多くの人の予想と逆だったのではないか。

エントリーレベルの採用を増やし、人材への投資を続ける――。

AIが若手の仕事を奪うと誰もが言う時代に、あえて若手の入り口を広げる。一見すると逆張りに見えるこの判断を、本稿では学術研究とデータを交えながら読み解いてみたい。結論を先に言えば、この決断はAI時代の人材戦略の本質――「入り口を閉じる」のではなく「入り口を作り替える」――を体現していると私は考えている。

▼ 元記事(日本経済新聞)
米アクセンチュアCEO「エントリーレベルの採用増、人材に投資継続」

■ データが示す現実:AIは本当に「キャリアの入り口」を奪い始めている

まず、前提となる事実を押さえたい。「AIがエントリーレベルの仕事を奪う」という言説は、もはや推測ではなくデータで裏づけられつつある。

2025年8月、スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソン教授らの研究チームが発表した研究は、この分野で最も注目された実証分析だ。米国最大の給与計算会社ADPが持つ数百万人分のペイロールデータを分析した結果、生成AIの普及以降、AIの影響を最も受けやすい職種において、22〜25歳の若手労働者の雇用が相対的に13%減少したことが明らかになった。ソフトウェア開発職に至っては、22〜25歳の雇用が2022年のピークから約20%減少している。一方、同じ職種でも経験豊富な年長の労働者の雇用は安定的に推移、もしくは成長を続けていた。

Forbes: AI Kills Jobs, Stanford Study Finds, Especially For Young People

この研究にはもう一つ重要な示唆がある。雇用減少が起きているのは、AIが人間の仕事を「自動化(automate)」している職種であり、AIが人間を「補完・拡張(augment)」する形で使われている職種では影響が限定的だった、という点だ。つまり、AIの導入そのものが若手の雇用を奪うのではない。AIを「人の代わり」として使うか、「人の能力を拡張するもの」として使うかという、組織の設計思想が分岐点になっている。

研究チームは、若手が特に脆弱な理由として、AIが代替しやすいのは形式知――教育で得られる「本で学べる知識(book-learning)」――であり、長年の経験から得られる暗黙知は代替されにくい、という構造を挙げている。エントリーレベルの仕事の多くが形式知の適用で構成されている以上、若手への影響が集中するのは必然だった。

CNBC: AI adoption linked to 13% decline in jobs for young U.S. workers, Stanford study reveals

■ それでも「入り口を閉じる」ことが危険な理由:経験学習の構造

では、若手の仕事がAIに代替されるなら、エントリー採用を絞るのが合理的なのか。ここで立ち止まって考えたいのが、人材育成の古典的な知見である。

リーダーシップ研究で知られるロミンガー社の調査に由来する「70:20:10の法則」は、経営リーダーの成長に寄与した要素を、業務経験が70%、上司など他者からの薫陶が20%、研修が10%と整理した。この枠組みは経済産業省の「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」にも引用されており、人材育成の実務における共通言語になっている。

日本能率協会「人材育成の『70:20:10』の法則」

この法則が示すのは、シンプルだが重い事実だ。人は、仕事の経験からしか本質的には育たない。研修やeラーニングをどれだけ充実させても、それは成長の1割しか説明しない。

ここに、AI時代の育成のジレンマがある。これまで多くの組織で、若手は「作業」を通じて「経験」を積んできた。資料を作りながら構造化を学び、議事録を取りながら論点把握を学び、データを集計しながら数字の勘所を掴んできた。作業と経験は一体だった。その作業をAIが担うようになったとき、単に業務が効率化されるのではなく、育成の経路そのものが断たれる。

スタンフォード研究を報じたForbesの記事中で、ある専門家が端的に指摘している。「エントリーレベルの仕事は、常に未来のリーダーの実証の場(proving ground)だった。AIがその土台を消し去れば、企業は管理職とプロジェクトリーダーの一世代をまるごと失うリスクを負う」。

エントリー採用を絞るという判断は、短期のコスト最適には見える。しかし70:20:10の構造を踏まえれば、それは10年後の「判断できる中堅」、20年後の「経営を担うリーダー」のパイプラインを、いま自らの手で細らせる行為にほかならない。アクセンチュアの逆張りは、この時間軸のリスクを見抜いた上での投資だと読み解ける。

■ グローバルデータが示す「もう一つの危機」:若手の不安と組織の無策

もう一つ、見逃せないデータがある。マーサーのGlobal Talent Trends 2026(世界約12,000人のビジネスリーダー・HR担当者・従業員・投資家を対象とした調査)によれば、AIによる雇用喪失への不安を抱く従業員は2024年の28%から40%へと急増した。「時代遅れになることへの恐怖(FOBO: Fear of Becoming Obsolete)」が、組織のパフォーマンスを蝕み始めている。

さらに深刻なのは、従業員の62%が「経営者はAIの感情的影響を過小評価している」と感じている一方で、AI導入戦略においてこうした影響を考慮しているHRリーダーはわずか19%にとどまる、というギャップだ。

Mercer Global Talent Trends

この構図をエントリー層に当てはめると、事態の深刻さがより鮮明になる。キャリアの入り口に立つ若手こそ、FOBOの最前線にいる。「自分が最初に担うはずだった仕事は、もうAIがやっている」という現実を前に、何を学び、どう成長すればよいのかが見えない。企業がエントリー採用を絞れば、この不安は「そもそも入り口すらない」という絶望に変わる。

だからこそ、スウィートCEOの「エントリーレベルの採用増、人材に投資継続」というメッセージは、単なる採用計画の話ではない。それは労働市場と自社の従業員に対する、「私たちはAIの時代においても人の成長に賭ける」という戦略的な意思表示なのだ。

■ ただし、従来のままの「入り口」ではない:経験曲線の前倒し設計

誤解してはならないのは、これが「従来型のエントリー採用を維持する」という話ではない点だ。

AIが作業を担う時代に若手を採るなら、育成の中身を根本から組み替える必要がある。作業の反復で覚えさせる従来型のOJTは、その前提となる「作業」自体が消えていくからだ。求められるのは、AIを使いこなすことを前提に、より早い段階で「判断」と「顧客との対話」に踏み込ませる設計――いわば、若手の経験曲線を人為的に前倒しする育成モデルである。

スタンフォード研究の知見をここに重ねると、方向性はさらに明確になる。AIが「自動化」として使われる職場では若手の雇用が減り、「拡張」として使われる職場では影響が限定的だった。つまり、エントリー層を活かせるかどうかは、AIを若手の代替として設計するか、若手の能力拡張装置として設計するかにかかっている。

具体的には、次のような問いに答える育成の再設計が必要になるだろう。

若手がAIエージェントに作業を委任し、その品質を評価・修正する経験を、入社初年度からどう積ませるか。従来なら5年目に初めて任された「顧客の前での議論」を、AIによる準備支援を前提に2年目から任せられないか。作業がなくなった分の時間を、70:20:10でいう「薫陶」――上司や先輩との対話、フィードバック、振り返り――にどう再配分するか。

これは私が一貫して主張してきたことでもあるが、AI活用の本質は効率化ではなく、人と組織の変革にある。エントリー層の問題は、その最も先鋭的な現れだと思う。

■ おわりに:「入り口を閉じる」のか、「入り口を作り替える」のか

スタンフォードの研究データは、AIがキャリアの入り口を侵食し始めているという現実を突きつけた。しかしそのデータは同時に、影響の大きさが「AIの使い方の設計」によって大きく変わることも示している。

エントリー層の採用を絞る企業は、目先のコストを最適化する代わりに、次世代の判断人材のパイプラインと、経験学習の土壌を失う。エントリー層への投資を続ける企業は、短期のコストを負う代わりに、AIを前提とした新しい育成モデルを構築する時間と機会を手に入れる。

アクセンチュアの決断は、後者に賭けるという宣言だ。そしてこの分岐――入り口を閉じるのか、入り口を作り替えるのか――こそが、AI時代に伸びる組織と衰える組織を分けていくのだと思う。

なお、アクセンチュアをめぐっては、市場がAIによるコンサル代替をどう織り込むかという観点から株価の動きについても以前考察した。あわせてお読みいただけると、市場の視点と人材戦略の視点の両面から、この問題を立体的に捉えられると思う。

アクセンチュアの株価下落とAIによるコンサル代替について(筆者ブログ)

▼ 参考文献・リンク
日本経済新聞「米アクセンチュアCEO『エントリーレベルの採用増、人材に投資継続』」
Forbes「AI Kills Jobs, Stanford Study Finds, Especially For Young People」(Brynjolfsson, Chandar & Chen, Stanford University, 2025)
CNBC「AI adoption linked to 13% decline in jobs for young U.S. workers, Stanford study reveals」
日本能率協会「人材育成の『70:20:10』の法則」
Mercer「Global Talent Trends」

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