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男性育休は「制度」で増えない。では、何が変えるのか。

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経団連が2026年3月に更新した「仕事と育児との両立支援事例集----男性の家事・育児の促進に向けて」に、21社の取り組みが掲載されています。

データを見ると、変化の幅に驚かされます。

主なデータ
・キヤノン:男性育休取得率 1.9%(2011年)→ 47.7%(2022年)、平均62日
・サカタ製作所(製造業・従業員173名):2018年以降 取得率100%、平均62.8日
・大橋運輸(運送業):2021・2022年 取得率100%
・小野薬品工業:2016年の0%から2022年には65.2%へ

これだけ劇的に変わった企業に、共通する「秘訣」はあるのか。

あります。ただし、それは制度の話ではありませんでした。

取得率100%企業に共通する3つの構造

① 経営トップが「自分ごと」として言葉で発信している
サカタ製作所では社長自らが全社員に取得率向上を宣言し、大橋運輸では経営トップの「育児は夫婦で協力し合うもの」というメッセージが制度導入の起点になっています。小野薬品工業でも、経営トップが「お互いが尊重し合い、気持ちよく働ける職場」という言葉を発信しています。トップの言葉は、制度の有無よりも先に現場の空気を変えていました。

② 取得者の体験を「見える化」し、心理的安全性を作っている
キヤノンは育休取得者や所属組織へのインタビューを社内で定期配信し、座談会も開催。小野薬品工業は社内報に取得者の体験談と上司のインタビューを掲載。アイ・エム・シーユナイテッドでは取得者自身が書いたレポートを談話室に掲示しています。「取れた人がいる」という事実を可視化することで、「自分も取れる」という心理的安全性を作り出していました。

③ 管理職を「変革の実装者」として設計している
キヤノンは全ライン管理職を対象に年100回以上の集合研修を実施し、育休への理解と取得希望者への対応を学んでいます。サカタ製作所は管理職に育休の必要性を教育するとともに、業務を代替した社員には賞与の特別増額を行うという仕組みを設計しています。「現場のマネージャーが動けるか」が、制度と文化の橋渡しになっていました。

この構造が示すもの

マーサーで組織変革とデジタル戦略の支援をしている立場から言うと、この3つの要素はAI活用でも、DX推進でも、ダイバーシティ推進でも、まったく変わりません。

・経営層のコミットメントが「本物かどうか」が伝わらなければ、現場は動かない。
・変化の成功事例が見えなければ、人は踏み出せない。
・管理職が翻訳者・実装者として機能しなければ、制度は使われないまま終わる。

育休取得率は、単なる福利厚生の指標ではありません。その組織が「宣言したことを、現場レベルで本当に変えられるか」を測るリトマス試験紙の一つだと考えています。

逆に言えば、育休取得率が上がらない組織は、AIを導入しても、新しい評価制度を作っても、同じ理由で変わらない可能性があります。

変革は制度から始まらない。経営層の言葉と、管理職の行動と、現場の心理的安全性----この3つが揃って初めて、文化は変わります。

▼ 経団連「仕事と育児との両立支援事例集」(2026年3月更新)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/086_jirei.pdf

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