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機械はデジタル化した。人は?----ものづくり産業のDXが"効率化どまり"になる構造的理由

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日本のものづくり産業のDXは、なぜ「変革」にまで至らないのか。

設備は更新された。IoTセンサーが貼られた。AIカメラが導入された。それでも現場の人は「何が変わったのかよくわからない」と言う。そういう声を、クライアント企業でも幾度となく聞いてきました。

この問いに、データで答えてくれる調査が出ました。

JILPT(労働政策研究・研修機構)が2026年3月に公表した「ものづくり産業の人材育成・処遇とデジタル化に関する調査」(製造業3,366社対象)です。

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■ データが示す「設備先行・人材後回し」の構造

近年、特に資源を投入している取り組みとして、「設備投資の増強」を挙げた企業は63%。一方、「人材育成・能力開発の強化」は28%、「デジタル技術の導入」は27%にとどまります。

設備への投資が、人材育成の2倍以上----この数字に、日本製造業のDXの本質的な問題が凝縮されています。

さらに規模別に見ると、デジタル技術活用に向けた人材育成を実施している企業は大企業ほど多く、50人以下の中小企業では取り組みが薄い。製造業の99%以上を占める中小企業においてこそ、人材への投資が手薄なのです。

この構造は、2025年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)の指摘とも重なります。デジタル技術の導入に際して約2.5割の企業が新たな人材確保を行わず導入部署の既存人材のみで対応しており、製造業の6割以上の事業所が「指導する人材が不足している」と回答しています。

2025年版ものづくり白書(概要)

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■ 日本全体で見ても同じ構造が

この問題はものづくり産業だけではありません。

IPA「DX動向2025」によれば、日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しており、これは米独と比べて著しく高い水準です。

▼ IPA「DX動向2025 AI時代のデジタル人材育成」

PwC Japanの調査では、DXの成果を「期待通り以上」と回答した割合は38%にとどまり、デジタル人材育成においては15%に過ぎません。2024年と比較して大きな進展は見られず、新技術の広がりがDXの成果やデジタル人材育成に十分結び付いていない実態が浮き彫りになっています。

PwC「2025年DX意識調査―ITモダナイゼーション編―」

つまり、ツールへの投資は続いているのに、使いこなす人への投資が追いついていない。これが「日本版DX停滞」の本質です。

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■ グローバルでも同じ問いが突き付けられている

この問いは、日本固有の現象ではありません。マーサーのGlobal Talent Trends 2026(世界約12,000人のビジネスリーダー・HR担当者・従業員・投資家を対象)も、同様の警告を発しています。

多くの企業がAIの価値を十分に引き出せていない根本的な理由は、「意図的な仕事の再設計」という要素が欠けているためです。多くの組織は、古い仕事の進め方を技術で置き換えているだけで、仕事そのものを変革できていない。AIがスキル要件を劇的に変化させるにつれ、リスキリングと人材の再配置が必要になっています。適切に対処されなければ、これは人材不足を深刻化させ、組織のレジリエンスとパフォーマンスを脅かすことになります。

そして投資家もこの問題を直視しています。投資家の77%が、AIの教育・訓練を通じて従業員を支援することにコミットしている企業に投資する可能性が高いと回答しています。設備とツールへの投資だけでは、もはや市場からの評価を得られなくなってきているのです。

Mercer Global Talent Trends 2026

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■ なぜ「人への投資」は後回しにされるのか

マーサーで人事・組織変革とデジタル戦略の支援をしている立場から言えば、この構造にはいくつかの理由があります。

第一に、設備投資はROIが見えやすい。機械を入れれば生産量が増える。でも人材育成のROIは時間がかかり、測定も難しい。

第二に、「今の人で回す」圧力。中小製造業ほど日常業務が逼迫していて、人を育てる時間が取れない。JILPT調査でも、デジタル人材育成の実施率が規模と正比例している事実がこれを示しています。

第三に、変革のイメージが描けていない。DXで「何をする人」が必要なのかが不明確なまま、ツールだけが先行する。

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■ 変革の鍵は「人と仕事の再設計」にある

マーサーGlobal Talent Trendsが示す方向性は明確です。AIだけでは不十分であり、組織は人間中心の原則に基づいてワークを再設計し、人間とAIの動的な協働文化と継続的なアップスキリング・リスキリングの文化を育む必要があります。

ものづくりの文脈で言えば、これは「ベテランの技能をどうデータ化するか」「デジタルツールを使って若手をどう早期戦力化するか」「現場のOJTをどう再設計するか」という問いに置き換えられます。

JILPT調査では、人材育成に積極的に取り組む企業ほど、経営面・人事面の双方で効果を実感している結果も出ています。設備だけでなく人への投資が、確実に組織のパフォーマンスに跳ね返ってくるという証拠です。

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■ 問いを変えることが変革の起点になる

「どのデジタルツールを導入するか」ではなく、「このツールが入ることで、人はより人らしい仕事に集中できるか」。

「設備投資をどう回収するか」ではなく、「この投資で、現場の人の仕事はどう変わるか」。

AI活用の本質は、人と組織の変革にあります。その問いは、ハイテク産業だけでなく、日本のものづくりの現場でも、まったく同じです。

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▼ 元調査(JILPT)
https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/documents/265.pdf

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