「起業する!」行動に移してから18ヶ月の体験記
「起業する!」
そう思い立ち、行動に移してから18ヶ月が経過した。
設立した会社は、昨年10月に第1期の決算を終え、2期目に突入。
少しづつではあるが受注も増え、売上も安定してきている。
最近やっと、過去を振り返る余裕が出てきた。
とにかくひたすら行動してきた18ヶ月。
どのように過ごしてきたのか、記しておきたい。
そして、これから「起業」を考えている方の参考になれば嬉しい限りである。
〜平成25年9月「退職を決意する」
12年と8ヶ月勤めた会社。退職することを決意した。
数年前から考えていたことで、ずっとタイミングを計っていた。
上司に辞意を伝え、翌日「退職届け」を提出。
あっけないほど簡単に受理され、それから二日後には会社を去った。
正確には、有給休暇を消化する日々が訪れた。
書類の上では、約1ヶ月後に退職となった。
辞意を伝える頃には、起業することを想定してはいたが、その時期や形は明確に決めていなかった。
ハッキリしていたのは
「自分だから出来ること。自分の強みを生かして社会に貢献できる仕事をしたい。そのためには起業し、自由に活動する。」
ということだった。
思わぬ時間を得た。
元来、暇になったり、気を抜くと、ミスをする質だ。
間髪入れず、様々な情報を集め、動き始めた。
先ずは、起業の方法、形態、必要な書類や手続き、費用など、本やネットの情報を読み漁った。
そうこうしているうちに「創業補助金(創業促進補助金)」という起業家支援事業のことを耳にした。
早速、地元の事務局に連絡し、内容や要項、手続き方法などのレクチャーを受けた。
条件を満たす起業家が、事業計画等の書類を作成し応募する。
採択されると、販路開拓や設備費等の補助=返済不要の資金提供を受けることができるという、(独)中小企業基盤整備機構による事業だ。(※H25年度補正予算。現在は終了)
元々、起業するつもりだったので、事業計画書を書く予定でいたが、補助金を申請するにあたって「第三者へ説明するための事業計画書」を書く必要に迫られた。
今思うと、これが大きな意味を持っていた。
自分自身で描く事業計画書は、どうしても数字の見積もりや計画自体が甘くなる。
第三者に説明するためには根拠が必要となり、事業計画書以外にも、事業概要を説明する資料やそのサマリー版、経歴や自身の強みを示すための資料、数字の裏付けとなる市場動向やマーケティング資料などを準備することになった。
その過程の中で、様々な想いや考えを出し、そして削ぎ落としていった。
ビジョンが明確になった。(後に社是「子どもたちの未来のために、今なにができるか」となる)
事務局には中小企業診断士の先生が常駐している。経過報告に行き、その都度、事業計画書などの添削をお願いした。
その際に「起業家は、ビジョンが大切だ!苦しい時にそれが支えてくれる」と言われた。
当時はあまりピンと来ていなかったが、今はこの言葉を噛み締めている。
〜平成25年10月「会社設立に邁進する」
前の会社を正式に退職した。
そこからは、補助金申請手続きと並行して「会社設立」に邁進した。
当初、事業規模から考え、個人事業でスタートし後に法人化する、いわゆる「法人成り」をイメージしていたが、ビジョンをクリアにし事業計画を詰めていく過程で、最初から株式会社を設立することに決めた。
理由はいくつかあるが、一番は法人顧客との取引のためだ。
個人事業でも契約できなくはないと思うが、法人対法人の方が契約し易いケースが多い。
会社の規模は違っても法人同士であることは変わらず、対等な取引も可能になる。
対外的な信頼度も、法人またはその代表の方が高い。
というわけで、株式会社の設立作業がスタートした。
法人設立には、順序がある。
1)会社の概要を決める(商号、事業内容、所在地など)
商号が決まると、会社印や銀行印などの印鑑を作る。
※ネットで検索すると安価に作れる印鑑店が見つかる。
2)定款を作り、公証役場で公証人の承認を得る
収入印紙:4万円、認証手数料:5万円、謄本交付手数料:2千円が必要となる。
3)出資する。資本金を金融機関へ振り込む。
我が社は一人株主なので、私個人の出資のみ。(貯金してくれていた妻には、頭が上がらない。)
4)法務局で、法人登記を申請する
登録免許税:15万円が必要となる(資本金の額に応じて事なる)
その他に、登記簿謄本(全部事項証明書)や印鑑登録、印鑑証明等々で手数料が必要となる。
5)登記が終わると、税務署や役所、社会保険事務所などで事業所開設の手続きを行う
大まかには、この5つに沿って動いていく。
全て自分でやった。
起業関連の本やネット上に詳しい手続き方法が紹介されている。
それらを参考にしながら、作成する書類、書かれている文言を丁寧に読み進めれば、わからない内容ではない。
逆に言えば、この内容がわからないようでは、契約書やその他業務上必要な書類の内容を理解できないに等しいと思う。
私は、自分でやることで、会社という存在や法人という位置付けの理解も深まったと思っている。
なにより自分の会社に愛着を感じるようになった。
産みの苦しみとでも言うべきか。
全ての手続きが完了し、晴れて株式会社の代表取締役=経営者としてのスタートを切ることになる。
我が社の設立日は11月1日。
前職を退職後、10日余りで設立させた。
そう言うと、大抵の人が驚く。
事前の準備がしっかりしていれば、迅速な手続きは可能だ。これは仕事と同じこと。
商号や事業概要などは予め決めておく。
定款を作ったら、事前に公証役場へFAXし事前確認を依頼することでスムーズな認証が可能となる。
法務局の手続きについても電話等で確認を済ませ、迅速に進めていく。
会社設立は誰でも出来ること。決められた通りにやるだけ。
とにかく無駄な時間をかけたくなかった。
ゴールはここにあらず。
ここからが新しい道の始まりとなる。
〜平成25年11月「第1期のスタート!」
11月1日。我が社の第1期がスタートした。
当然、仕事を受注し売上を増やし、利益を得ていかなければならない。
我が社の事業の一つはコンサルティング業だ。
事業の目的に共感し、早々に契約してくれたお客様がいた。
第1号の契約。とにかく嬉しかった。
会社員時代も営業として様々な仕事を受注してきたが、そのどれよりも嬉しかった。
手応えが違った。
今でも契約を継続していただいている。心から感謝している。
その後も、幾つかの契約をいただいた。
しかし、その多くは期間限定のリサーチや案件対応コンサル、人材育成など。
当然どの業務も最大限取り組むが、業務完了=売上げもそこまで。
当時の月の売上げ額をみると、我ながらよくやってたな〜と驚く。
事業計画でも、事業開始後の半年間は販路開拓、顧客獲得をメインにしていたため、予想の範囲ではあった。
売上が増えないと当然、手持ち資金が減る。
分かってはいても、これはこれで不安になる。
「大丈夫だ、きっと大丈夫だ、自分を信じろ」と言い聞かせながら、耐えることを覚え始めた時期だ。
〜平成26年1月「創業補助金が採択される」
会社設立と並行して進めてきた「創業補助金」は、申請作業を終え、採択されるのを待っていた。
12月に内示が出て、1月に正式に交付決定通知が下りた。
これを活動資金に充てた。
我が社を知ってもらうために、佐賀(会社の所在地)から全国各地へ出かけ、多くの人に会い、話して回った。
我が社のもう一つの事業である「子ども向けICT活用スクール(塾)」の機材購入にも充てた。
元は税金だ。
その使途は定められ、事業のために支出した証拠書類(見積書や領収書など)を保存・整理し、様々な報告書を作成しなければならない。当然のことだが、煩雑な事務処理が待っている。
それを差し引いても、起業したての時期に手持ち資金が増えたことは大きかった。
公募型事業とはいえ、「絶対に採択される!」と決意して申請した。
そのために、事業計画書や業務内容を吟味し、精査し、中身のあるものとして書けたことは意味があった。
毎月、事業計画の進捗と実業を重ね、違う場合は修正方法を考えていくこともできた。
〜平成26年4月「遊園地で入社式」
4月、社員を1名採用した。
教育関連企業である我が社の入社式は、地元の遊園地で行った。
社長も社員も、とにかく楽しく遊ぶ、はしゃぐ。
子供の気持ちが分からなければ、仕事ができない会社である。
社員を雇用したため、雇用に関する手続きを行う。
当然、給与を支払う。
サラリーマン時代の給料日は「お金をもらう日」
経営者の給料日は「お金を支払う日」
給料日に対する考え方が 180度変わった。そして、人を雇うという責任も増した。
〜平成26年7月「キャッシュフローに悩む」
とある案件を受注した。
我が社にとっては大きな仕事だ。当然、経費もかかる。
売り上げに計上できるのは9月以降。入金は10月以降。
その間の資金繰りを考えなければならない。
黒字でも、受注残があっても、手元資金が¥0になると「倒産」する。
数ヶ月先まで計算していくと、マイナスになる月がある。何もしなければ倒産だ。
売り上げを増やすのは当然だが、いつ現金として入ってくるのか、ここが一番重要だ。
キャッシュフローは企業の生命線。
すぐに入金となるような仕事はない。
不足分はどうするか。まだ何も成し得ていない。
潰すなんて絶対に嫌だ!
社是を口にしながら、マイナスの気持ちをプラスに持っていく。
金融機関からの借り入れも検討したが、融資の審査や手続きなどで時間がかかる上、融資が保証されるわけではない。
当座をしのぐため、 とりあえず経営者(私)が会社に貸し付ける形(短期貸付)をとった。
経営していく中では、そういうこともあると知った。
〜平成26年10月「第1期決算」
会社設立後、初めての決算を迎えた。
シビアに吟味したつもりの事業計画ではあったが、若干下回る形となった。
自分の中だけで書いた事業計画書であれば、もっと甘く見積もって、大きく乖離しただろう。
補助金申請というきっかけがあったにせよ、事業計画を他人へ説明する経験は大切だったと痛感した。
起業する人は、事業計画を第三者に説明して「予期せぬツッコミをもらう」経験をしてほしい。
必ず後に生きてくるはずだ。
〜平成26年11月「第2期のスタート!」
前期からの受注残や、コンサルティング契約の継続もあり、2期目は順調にスタートした。
12月に入ると、新規の契約も増え、単月黒字が続くようになった。
昨対で500%とか。それだけ1期目の最初の売上が少なかった証拠でもある。
この辺りで、初めて肩の力が抜けた。
周りが見えるようになった。
そうすると、打ち合わせ時の会話や応対がスムーズになった気がした。
不思議なことで、仕事の相談も増え、受注件数も増えた。
これまで、がむしゃらにリキんでいたことに気がついた。
〜平成27年2月「次へのステップ」
預金が減るという状況を脱し、月末の記帳が楽しみになってきた。
これも、お客様に支えられてのこと。
仕事の質を高め、お客様に貢献し、長くお付き合いしていただけるよう取り組んで行きたい。
しかし、一つの事業だけでは、いつ傾くか分からない。
事業の柱をもう一本増やし、安定した経営を目指したいと思っている。
平成26年5月からトライしている事業がある。
投資的な意味合いが大きかったが、徐々に形になってきている。
地域や市場全体でポジションを築き、良い形で普及するモデルを確立していきたい。
できると信じて行動する。見直す。改善する。
強い気持ちで臨んでいる。
本来はロジカルな思考を好む方だが、実業には気合や根性、そして「覚悟」が必要だと知った。
ただし、独りよがりにならずに、外の評価も得ながら進めていきたい。
〜起業してから
「良かったこと」
起業を決意してから今日まで、毎日ワクワクしている。
以前より確実に働いているが、経営者なので即断即決できる。無駄がなくなった。
無駄のように見えることも、活かせるようになった。
人の輪が格段に広がった。視野も広がった。
「悪かったこと」
忙しくなった(嬉しいことでもある、、、)
毎日、お金のこと、事業のこと、その他様々なことを考えている。(頭から離れないと言ってもよい)
家族に負担をかけている。
サラリーマン時代は、収入は安定していた。反面、様々なストレスを抱えていた。
今は、数年先まで読めない不安定さはある。反面、余計なストレスが減り、充実度が増した。
お客様や、友人知人、多くの方に支えられていると実感している。
もちろん、家族には本当に支えられている。
感謝しかない。
そういう気持ちを持ち続けられているのも、良いことなのかもしれない。
誰かの本に書いてあったが、
起業が目的ではなく、知り得た課題を解決することを目的として起業した会社は、世の中に求められ、成功するかもしれないそうだ。
起業後に知ったのだが、「我が社はそうかな」と良い意味で楽観的に受け止めている。
シビアな話を避けて通れないことも確かだ。そういうストレスからは今後も逃れられないだろう。
しかし、得るものも大きく、会社も社員も、そして自分自身も成長していることを実感できる。
生き残れるかどうかは自分次第。
自分の足で立ち、駆け回り、社会の役に立ちたい。
私は「起業して良かった」と思っている。
きっと明日も、ワクワクして目がさめるだろう。