教育の情報化は、誰のために。
教育の情報化の基本的な取り組みは、地方の教育委員会による整備事業(PC教室や校内LAN環境、電子黒板の導入など)が中心です。
これとは別に、国が主体となって推進する事業も、大なり小なり繰り返されてきました。
古くは
「100校プロジェクト(ネットワーク利用環境提供事業)」(1994年〜1997年 通商産業省・文部科学省)や、
「学校インターネット事業1、2、3」(1999年〜2001年 総務省・文部科学省)
最近では
「フューチャースクール推進事業」(2010年〜2013年 総務省)
「学びのイノベーション事業」(2011年〜2014年 文部科学省)
など。
平成26年4月11日
文部科学省が平成23年度〜平成25年度の3カ年にわたり実証研究を進めてきた「学びのイノベーション事業」に関する
が公表されました。
全8章、327頁。
その中で、関わりを持っている分野1、2、6、7、8章を中心に考察したことについて、書いていきます。
総務省のフューチャースクール推進事業に採択された学校に「相乗り」するカタチで、この事業はスタートしました。
実証校では、双方の省庁に対する報告資料の作成や公開授業の実施等々、大変な労力と時間を割きながら、教育の情報化の未来に貢献しようと熱心に取り組まれてきました。(私が見てきた学校は、そうでした)
授業実践や研究に励まれた先生方、地域協議会関係者の方、学識経験者・研究者の方、関係企業の方
そして、現場を支えてきたICT支援員の方々
多くの熱意と努力の積み重ねの上で完遂された事業であり、その集大成的報告書の重みを感じずにはいられません。
私自身は、現地ICT支援員の上司(前職)として関わってきました。
また、親交のある各地の先生方の授業を見に行ったり、様子を教えていただく機会も多く、その度に発見があり、多いに学ばせていただきました。
本事業に端を発し、自治体独自で事業推進したケースもありました。
この4年間で、行政の中でも教育の情報化の在り方は大きな転換点に立ったことを肌で感じてきました。
最近は、電子黒板や学習者用端末、デジタル教科書(指導者用)が活用されるシーンも珍しくなくなり、現場の先生からは、「操作研修よりも、効果的な活用事例を教えて!」という要望が増え、
より具体的な授業法を求め、改善しようという「教師の変化」も実感しています。
本報告書では、教科、学年、校種別の効果的な指導法や課題についても網羅的に記され、
今後の指針の1つとして大変参考になる内容になっています。
指導案検討や授業設計の考察、ICT支援の現場でも、多いに活用されるものだと想像しています。
私の現在の仕事である「教育ICTデザイナー」としての視点では、全体設計を目指す以上、課題として提言されている内容は、その解決策を探り、提示してく必要があり、ここを考えることが、本報告書のもう一つの読み方となりました。
特に、「第8章 今後の推進方策」に書かれている今後の課題については、深刻に受け止めています。
この10数年、同様の課題に直面し続けています。
なぜなのでしょうか?
ある方は
「教育の情報化は、教育現場が欲した事を発端としたというよりも、産業界の要請を外発動機として事業設計され推進されてきた部分は否めない」
と語られました。
キッカケとしてそうであっても、改善を繰り返すことで活用されやすく、日々の助けとなる環境に進化できれば、結果的には望ましい整備となるはずです。
しかしながら、本事業に限らず、教育情報化事業の多くの現場では同様の課題が山積し続けています。
なぜなのでしょうか?
いったい誰のための整備なのでしょうか?
今後、学習者用端末やデジタル教科書を中心とした、一人一台環境の整備を推進するのであればなおさら、
関係者はその解決策を探る為に、立場を超えて議論すべきです。
教師の立場で考えてみましょう。
なぜ、教員のICT活用指導力が向上しないのか?
向上させる事も必要だとは思いますが、
そろそろ、「向上せずとも活用出来る教育ICT環境」を考えるべきではないのでしょうか?
電子黒板は普及期に入っていますが、一般家庭にも企業などにも存在しない
「特殊なツール」
です。
授業支援システムも当たり前のように整備されますが、操作手順を覚えるためには、それなりの研修を必要とします。
デジタル教科書は、メーカーによって機能やインターフェースが様々です。
教科で異なるメーカー(教科書発行会社)の製品を採用します。
そのため、国語と算数のデジタル教科書で操作方法が異なることはよくある話です。
ただでさえ多忙な教師に研修時間を捻出させるのは、実は相当難儀なことです。
結果、不慣れなICTツール、操作が煩雑なシステムの活用は億劫になっていきます。
当然のことです。
子どもの立場で考えてみます。
少子高齢化、人口減少、世帯数減少が見えている日本では、
今の子どもたちが15年〜20年後の未来に、自らの職を得て、結婚し、家庭を築く。
社会を生き抜いていくためには、情報活用能力が欠かせない武器となることは、
「21世紀型能力」「キー・コンピテンシー」というキーワードで語られ、提言されている通りです。
現在の学習指導要領、教育課程を紐解いたとき、
義務教育の9年間で、全ての児童生徒が、発達段階に応じた情報教育を受け、情報活用能力を身につけるための、学習時間の確保が可能でしょうか?
私は、不可能だと思います。
教師の熱意や創意工夫のなかで試行錯誤されているのが現状です。
多くの子どもは、家庭にあるPCや、保護者のスマホなどを利用することで、自然と操作法を身につけています。
ここで注意しなければならないのは、
「情報の科学的な理解」や、情報モラルや法令を含む「情報社会に参画する態度」を指導できる機会がどれだけあるのか?
という点です。
子どもたちは、善悪の判断なく旺盛な好奇心に基づいた行動をとります。
その結果、犯罪の被害者はおろか加害者となるケースや、SNSへの不適切な投稿により、ネット上で一生消せないかもしれない爪痕を残してしまうケースが生じています。
環境整備もさることながら、学校や家庭で指導育成出来る「手だて」が必要だと考えます。
その上で、子どもたちが本来もっている「創造性」を伸び伸びと発揮出来る場を与えてやれたら、どんなに素敵なことでしょうか。
この事業やフューチャースクールが計画された4年前を振り返ってみました。
平成21年(2009年)夏、iPadはこの世に存在しませんでした。
iPadは2010年1月に発表されました。
ソフトバンクの孫正義社長は「光の道構想」を掲げ、当時の政府へIT立国を提言していました。
DiTT デジタル教科書教材協議会 が発足したのは、2010年5月です。
子どもたちに一人一台のタブレット端末を!
デジタル教科書を実現して、教育革命を!
のようなスローガンとビジョンに満ちた時だったと記憶しています。
求めたのは誰だったのか?時代だったのか?
各地域、各学校で、これまで繰り返されてきた教育ICT環境整備にしても、
情報端末やシステムの整備が目的となり、
「授業」「子どもたちの学び」
が、環境に合わせなければならない不条理が生じ続けています。
結果「使いづらい」「使われない」「活用法が見いだせない」、、、
本報告書を裏読みすると、そう解釈することも出来ます。
子どもたちは日々成長していきます。
この報告書が示す事柄を丁寧に理解し
現場目線で、活用し続けられる教育情報化事業をデザインしていきたいと、改めて確認しています。
※本ブログは、個人ブログ「教育ICTデザイナー 田中康平のブログ」2014年4月14日の記事の一部を修正しています。