教育ICT環境整備のシャドウ・コスト
電子黒板や、一人一台のタブレット端末などの「教育ICT環境整備」に関して、ICT機器やソフトウェア、システム構築に係るイニシャルコストは目に見えて積算可能です。
保守メンテナンスなどのランニングコストは、ある程度、積算可能です。(後述します)
実は、目に見えない部分「シャドウ・コスト」がまだまだ隠れています。
文部科学省の「教育の情報化」サイトにおいて、
「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」
が公表されました。
これを読むと、ICT機器以外にも教室環境の改善のための予算確保と対策が必要なことが分かります。
遮光カーテン、照明器具の交換、照明スイッチ配線、机椅子、
その他、タブレット端末の充電のための電源設備など。
そもそも、電子黒板やタブレット端末の活用など全く想定していない校舎設計ですので、仕方がない事かもしれません。
近年、耐震化のための大規模改造工事や、統廃合も含めた小中一貫、中高一貫校による新校舎建築など、校舎そのものに大きく手を加える、または新たに建てることが各地で行われています。
人口減少、少子化に伴い、現在の学校数の維持が困難になることが明らかですから、統廃合による校舎改築や新築は、今後増加すると考えられます。
ここには、教室環境を現代〜未来志向に転換する機会(チャンス)が存在します。
しかしながら、多くの場合、建築設計や設備設計業者に教育ICTに関する知見が不足しているため、意匠にこだわるもののICT活用に配慮がない、または視点がずれた校舎建築が行われています。
教育委員会や、建築設計事務所の方へ、
これから設計に入る場合は、ぜひ教育ICTの専門家に知見を求めてください。(関係者の方、ご相談お待ちしています!)
個々の例を考えてみます。
「遮光カーテン」はパソコン教室や視聴覚室など「特別教室」には採用されても、普通教室に採用されないケースが一般的です。
工事完了後に、備品予算で別途入札し、調達される場合もありますが、教室数が多いため相応の予算を必要とします。
「電子黒板の反射防止フィルム」は、後貼りタイプで1台あたり数万円+貼り付け作業費が必要となります。
カーフィルムを貼った経験のある方は想像出来ると思いますが、気泡が出来ないように丁寧に貼りこむ作業が発生します。
最近になって、ようやく反射防止加工が施された電子黒板が販売されるようになりましたが、過去の製品に対応するには、これも相当の予算を必要とします。
「照明設備」は、後から交換することは非常に困難です。
「学校環境衛生基準」には、
(ア) 教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は、300 lx(ルクス)とする。また、教室及び黒板の照度は、500 lx 以上であることが望ましい。
(イ)教室及び黒板のそれぞれの最大照度と最小照度の比は、20:1を超えないこと。また、10:1 を超えないことが望ましい。
(ウ) コンピュータ教室等の机上の照度は、500~1000 lx 程度が望ましい。
(エ)テレビやコンピュータ等の画面の垂直面照度は、100~500 lx程度が望ましい。
と書かれています。
一人一台のタブレット端末が整備された教室=パソコン教室
と捉えると、今以上の照度を求めることが望ましいとなるでしょう。
「タブレット端末の充電のための電源設備」
各教室のコンセントは20アンペア程度の容量です。それを複数のコンセントで共有しています。
40台の端末を一斉に充電すると、ブレーカーが落ることもあり得ます。
さらに、複数教室で一斉に充電すると、そのフロア全体を管理するブレーカーが落るかもしれません。
グループ別計画充電が可能な保管庫は当然ですが、状況によっては、各分電盤内の増設工事やキューピクル式高圧受電装置内の増強工事が必要になります。
この辺りは、改築/新築工事で実現することが望ましい部分です。
校内にサーバが増えれば、専用電源と空調設備が必要になります。
電気代も高くなるのは当然です。
その他のシャドーコストとして挙げられるのは、
何と言っても「人件費」です。
一人一台環境では、タブレット端末が数百台規模で稼働します。※学校規模に準じます
ICT支援員が常駐していれば良いのですが、それでも1人で全教室の対応は出来ませんので、教師が対応せざる得なくなります。
これは、教師の職務でしょうか?
本来、維持管理コストとして積算すれば、どれほどの額になるのでしょうか。
学校に出入りの業者でICTに詳しい方なら、
「○○さん、ちょっと教えて!」「このトラブルなんとかなる?」
と声をかけられる経験はありませんか?
その際、対応費用は支払われません。
「予算無いんだよ、ごめんね。いつもありがとう」
「子どもたちのためですから、いいですよ。」
というやり取りが、当たり前のように行われています。
これも、正規のSE出張費や技術料で積算すると、どれだけの額になるのでしょうか。
民間企業では考えられないほど、シャドウ・コストが存在しているのです。
新規事業を実行に移す場合、事業計画書に盛り込んでいなければ、その担当者の能力そのものが疑われても仕方が無いほどに。
そのような、「絶対に知っておくべき本当の話」についてもガイドライン化され、建設的な協議を行えるようになることを願っています。