教育ICT環境をデザインする
「IKEA」
北欧デザインの洗練された家具や雑貨に加え、客の動線/視線を計算し楽しませてくれるディスプレイや、買い物後のランチから軽食まで、ムダなく効率的に配置され、商品のほとんどが納得の価格で提供されています。
ここで買い物をしたことがある人ならば、カスタマー目線の購買体験を提供するために、トータルな店舗設計が施されていることに気付くことでしょう。
「あぁ、設計=デザインするって、こういうことか」
ピックアップ~支払い後のホットドックを食べながら、いつも感心します。
最近、どんな仕事しているの? と聞かれると、「教育ICTコンサルティングをメインに、新聞記者や研修講師をやったり、幼稚園児に先生って呼ばれたり――」と答えつつ、一言で言い表せないことにしっくりこない、表現できないもどかしさを感じていました。
そんな心と頭で悩み、考えつつ、IKEAで感じたことから「これだな」というモノを見つけました。
職業=「教育ICTデザイナー」です。
広義でとらえた設計=デザイン
空間、設備、環境、活用、体験......
教育ICT導入の事業設計、監理、運用設計/計画、コーチング、研修企画、ICT活用支援、教育系メーカーの新製品開発アドバイザーまで。教育ICT導入の全体に関与し、最適な環境をデザインする。これが私の職業です。
これまでにもいくつか同様の職種が定義されてきました。代表格は「教育CIO補佐官」です。教育行政の中に配置され、教育CIO=教育長(主な例)を補佐する実務の要職と位置付けられています。
平成19年度末に文部科学省より公表された「学校のICT化のサポート体制の在り方に関する検討会」報告書で初めてその言葉が公になり、「教育CIO 」「教育CIO補佐官」「ICT支援員」について、その役割と人材像、育成のための研修プランなどが例示されました。
それから6年が過ぎた現在、「教育CIO補佐官」が活躍し、素晴らしい教育ICT環境を構築した! という話を聞くことはほとんどありません。
なぜなのか?
昨今の教育ICT環境について、大きな展示会の話題などが報道でも取り上げられる機会が増えたので、読者のみなさんもイメージはお持ちだと思います。電子黒板やデジタル教科書(指導者用)は普及・活用期に入っています。国による実証研究が進んでいた児童・生徒1人1台のタブレット端末整備も、自治体主導で導入するケースが増えてきました。
これまで、パソコン教室で40台のPCを整備していたころとは状況が一変し、数百~数千台のタブレット端末の選定、ネットワークインフラの設計構築、クラウド活用の検討など、高い専門性と知見が求められる内容に変化してきました。
端的に言うと、行政職員や教職員で対応できる範囲をはるかに超えています。
ならば、外部人材のITスペシャリストやPMに委託すればよいと考えるところですが、これには2つの課題があります。
1つは外部に委託する、または人材登用する過去事例が少なく、予算化が難しい点。もう1つは、外部委託したとしても教育現場の知識や学校文化の理解不足により、授業で活用しづらい環境になってしまう点です。
教育現場のICT化では、ハードやシステムの導入が主となり、授業活用が従となる逆転現象がしばしば見られます。これは、大なり小なり各地で繰り返されてきた現実の1つでもあります。
また、1人1台のような大規模整備では事業設計が非常に重要になります。学校特有の端末稼働想定を甘く見積もると大変です。「運用でカバーする」といった対処療法ではごまかしきれず、露見したトラブルが報道されてしまうようなことに繋がってしまいます。
「教育CIO補佐官」として活躍出来る人材には、ICT技術に関する網羅的な知識と、教育現場特有の活用法や学校文化の理解が求められるのです。「よりよい授業」を支えるためのICT環境を実現することは、実はとても難しいことなのです。
「教育CIO補佐官」が活躍していないもう1つの理由として、「教育CIO補佐官を指導・育成できる人材がいない」ことも挙げられます。
企業内の文教担当者でも、教育行政や学習指導要領、教員文化などを理解し業務に励んでいる人は相当少ないと思います。逆側から見ると、教育関係者でICT技術について網羅的に理解している人も相当少ないと思います。実は、人材不足な業界でもあるのです。
私の業務の1つに、「コーチング」があります。対象は、教育関係企業担当者、教育行政担当者です。
教育情報化のビジョンを掲げ、各論と目標を定め、実施計画を立て、予算獲得のための資料を作成することで、教育CIO~CIO補佐官~実務担当者まで、各ポジションでの思考を模擬体験してもらいます。
「だれでも・いつでも使えるのか?」
「児童・生徒のどういうチカラを伸ばすために整備するのか?」
ということを頭に置きながら、座学やワークショップ、プレゼンなどの演習を繰り返していきます。このような取り組みが、将来「教育CIO補佐官」として活躍してくれる人材育成に繋がる事を願っています。
課題は多く、解決策を模索する日々ですが、「教育ICTデザイナー」の視点で広く取り上げていきたいと思います。
みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。