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「生保」というと最近は「生活保護」の略称だったりしますが、こちらは「生命保険」です。保険会社(メーカー)、代理店(販社)だと言いづらいこと、言えないことを、分かりやすく書いていきたいと思います。新規加入や見直しの際にご参考にして頂ければ幸いです。また、取り上げて欲しいテーマがあればリクエストしてみて下さい。可能な限りお答えしていきます。

3年ごとに15万円もらえる女性のための入院保険って・・・」~オンナ60歳の慟哭~

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早いものでトモコさんとナオミさんは、30歳で医療(入院)保険に加入してから30年経ち、還暦を迎える歳になりました。

目ざとく通販で「3年ごとに15万円もらえる」女性専用の入院保険に通販にて加入したトモコさんと、ストイックで面白みのない女性特約を付加した終身型の入院保険に加入したナオミさんですが、還暦となった今、どのような状況になったのでしょうか。

まずトータルの保険料負担を見てみます。

トモコさん
A:(8,555円<当初15年>+10,222円<更新後15年>)×12ヶ月×15年=3,379,860円
B:15万円<3年ごとにもらえる>×10回=1,500,000円
A-B=1,879,860円<支払保険料総額-給付総額>

ナオミさん
8,306円×12ヶ月×30年=2,990,160円

トモコさんの実質負担が約187万円でナオミさんが約299万円で100万円以上の差が出ます。
保障内容もトモコさんが充実していました。
ここまでですと、どう引っ繰り返してもトモコさんの勝ちですね。

「フェミニーヌ」に加入すれば100万円を稼げます・・・そんな美味しい話があるのでしょうか?

さて、ここからが本番です。

女性の平均寿命は86歳ぐらいです。
60歳の時点でまだ15年以上の人生が想定され、その15年が本当の保険需要期です。
30歳から60歳まで1回も入院しないことは珍しくなく、60歳を超えてから入院の頻度が急カーブで上がっていきます。

でありますから、トモコさんは60歳以降も入院保険は欲しいはずです。
理論上、トモコさんが「稼いだ」100万円に手をつけず老後資金として取っておくことはありえますが、現実的にはどうでしょうか?

「子供のために」とか「自分へのご褒美」とか「地デジ対応大型TV」とか大義名分はたくさんありますよね。
そんな暮らしの中で、トモコさんは無駄遣いをせず、自分や家族などのために有意義に「稼いだ」100万円消費したとすれば、とにかく100万円のプラスがあった人生と断定しましょう。

翻ってナオミさんの方を見てみます。
ナオミさんの保障は一生涯なのですが、保険料の支払は60歳までで終わりです。
つまり、60歳以降の保険料負担はなしで入院保障が死ぬまで続きます

「3年ごとに15万円」のボーナスはありませんでしたが、60歳以降負担なしで一生涯入院保障と100万円の終身保険があるのは安心ですよね。

トモコさんが「フェニーヌ」を更新することは可能ですが85歳までの15年がリミットです。
微妙ですよね、平均寿命が86歳で85歳までというのは。
女性の場合90歳まで長生きされる方が珍しくない状況で、85歳までというと一番保険需要が高い時期に「何もない」ことになる恐れがありますが、トモコさんが60歳以降「フェミニーヌ」を継続した場合の保険料負担を見てみましょう。

・フェミニーヌ60歳~85歳までの保険料:17,258円
・15年間の支払い総額:3,106,440円(17,258円×12カ月×15年)
・実質負担額:2,356,440円(3,106,440円-750,000円)

60歳以降、年金生活になるかどうかという時期に、医療保険の負担だけで毎月17,258円というのは現実的ではありません。
それではナオミさんと同じようにアフラックの「レディース新EVER」がこの時点で、現在と同じ条件であったとした場合の保険料負担は・・・

・レディス新EVER60歳加入の保険料:12,341円
・15年間の支払い総額:2,221,380円(12,341円×12カ月×15年)

どちらにしても1万数千円の保険料負担になってしまいます。
トモコさんがこれまでの保障を維持するにしても、ナオミさんと同じ保障を得るにしても約200万円以上の負担が60歳から85歳までの間に発生します。
ナオミさんは60歳以降の負担はゼロです。

端的に申し上げれば、30歳から60歳までの期間でナオミさんはトモコさんに100万円負けていたのが、60歳から85歳までの15年間でトモコさんの負担が約200万円発生することにより逆転する格好になります。

死ぬまで毎月1万数千円負担するトモコさんと、全く負担のないナオミさんとでは大きな違いがあります。

30年後の想定ですので、画期的に安く内容が充実して医療保険が発売されることがあれば、トモコさんの負担はこれほどにはならないかもしれませんが、現在の延長線上で考えるとトモコさんの60歳以降は少々厳しい状況です。

また、60歳時点でのトモコさんの健康状態によっては自動更新の「フェミニーヌ」以外の保険に加入できないか、条件がつく可能性があります。

「レディス新EVER」のナオミさんは、30歳の加入以降にがんに罹ろうが糖尿病になろうが、保障は一生涯続きます。

結論としては、この想定においては60歳が運命の分かれ道です。
60歳以前にふたりとも亡くなった場合、トモコさんが約100万円「稼いだ」分得した上に死亡保障が500万円(トモコさん)と100万円(ナオミさん)と大きな差がつきますが、60歳を超えるとトモコさんは最悪無保険になるか、そうでなくとも負担が大きく、平均寿命まで生存したとすると「稼いだ」100万円をつぎ込んでもナオミさんの負担より重くなってしまいます。

ちなみに60歳までに亡くなる可能性は数%で10%以下です。
また女性は男性に比べて長生きですよね。
どちらを選ぶのかは貴女次第です。

 

 

なぜ今回取り上げた「フェミニーヌ」は通販専用なのか、と前回問題提起しました。
まともな生命保険営業マンは、上記のようなシミュレーションをしてしまう可能性があるからではないか、と思われます。
「60歳前後で亡くなれば得ですが、それ以上長生きすると大損ですよ」なんて正直に言ったら売れませんよね。

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