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消費税増税で日本の自殺が増えた論の大間違い

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安倍政権の消費税増税決断前に、反増税キャンペーンがTwitteなどでありました。そこでの主張の一つに「1997年の消費税増税が、日本の自殺者を増やした」というものがあります。その妥当性を検証してみます。


そもそも、本当に自殺が増えたのか?について:

統計データはおもしろい! -相関図でわかる経済・文化・世相・社会情勢のウラ側の著者、本川 裕氏のサイトでその実像が語られています。結論のチャートを先に引用します。実は、長期的に見て日本の自殺率は下がっています。そして、バブル景気の時期に特に下がりましたが、今は1960年代から1980年代にかけての成長期並に戻っただけなのです。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2758.html

図録▽自殺は本当に増えているのか via kwout

消費税増税が自殺を増やした論者が引用するのは上の、チャートではなく以下のチャートです。上は、人口あたりに直し、また年齢構成の影響を補正した標準化自殺率データです。

単純な、自殺者では確かに増えていて、戦後最高の自殺者数が下がらずに1998年以降続いている状態です。消費税増税が自殺者を増やした論者は1997年から続く条件が消費税5%ということを以って消費税増税が自殺者を増やしたと主張しています。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2758.html

図録▽自殺は本当に増えているのか via kwout

しかし、これには大きな問題があります。自殺者総数なので、人口が増えると増える指標からです。そこで人口10万人あたりに直したのが以下のチャートです。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2758.html

図録▽自殺は本当に増えているのか via kwout

しかし、これにも問題があります。同じ人口でも年齢構成で「自殺率」が大きく変わるためです。10歳未満でほとんど自殺が無いのに対して、中高年は非常に自殺が多くなります。日本の年齢別自殺率推移チャートを見ると、年齢構成が変わると率が変わりそうだと分かるでしょう。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2740.html

図録▽失業者数・自殺者数の推移(月次、年次) via kwout

10代の自殺が社会問題になったりしますが、数としては圧倒的に低く、次に低いのが20代、その次が30代で40代が続きます。一番高いのは長らく50代でしたが、ここ数年は下がり、60代、70代以上と同じような数になっています。古い統計はありませんが、高齢化が自殺率を上げる傾向が理解いただけけるでしょう。

そして、その傾向を補正して時代ごとの自殺傾向を比較可能にしたのが、以下の標準化自殺率チャートです。(再掲)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2758.html

図録▽自殺は本当に増えているのか via kwout

これで、やっと過去との推移が高齢化要因を除外して比較できるようになりました。するとわかりますが、実は1998年以降の今は、戦後の高度成長期状態並みの「普通」な状態にあると分かります。1994年オリンピックに向けて日本が大きく変わり自殺率も下がったのですがそんな希望の成長期と今とで自殺の傾向は同じなのです。むしろ、1990年頃から1997年にかけてのバブル期とその名残の時代に一時的に自殺率が低い、より幸福な時代があって、それが終わったのだということが分かるでしょう。

それでも、戦後から豊かさを実感し始められる時期よりは低い自殺率が続いています。

データで見ると、そもそも自殺率が上がった理由を探すこと自体が間違い:

そもそも、1998年からの自殺率上昇が特別な現象だという認識が間違っているのでその、理由探しも大間違いになっています。消費税増税に理由を見つける人々は、データを読み理解する能力に欠けているだけでなく、問題設定からして間違っています。

一時的に自殺率が下がったのななぜかと、問題設定を変えるとそれはバブル景気という幸福な時代の一時的な現象だった、そう素直に分かることでしょう。反原発で、論理性を書いた論説がはびこり、その流れでいろいろな俗説が世間にあふれています。その流れで反消費税のデマがはびこっています。

自己の主張を通そうと人を驚かすようなグラフを出す人も増えています。TwitterやFacebookなどで似た主張の人だけで群れて「教義」を先鋭化させている人々の注意が必要です。

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