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ザッポス伝説、その舞台裏にあるドラマとロジック、エモーション

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ザッポスは、僕が最も敬愛する企業だ。
 
以前も、名著「ザッポスの奇跡」に触発され、4回にわたり、ザッポス経営のすばらしさをさまざまな切り口で記事にした。

ザッポス「顧客にWOW!をお届けする」奇跡の経営,その本質を探る (2009/12) 
ザッポス「顧客感動サービス」の経済合理性を徹底分析する (2009/12) 
アマゾンが800億かけても買収したかった「ザッポスの奇跡」 (2009/12) 
驚きの反常識!ザッポス流マーケティングの真髄とは (2009/12) 
 
今回ご紹介するのは、そのザッポス率いるC.E.O、トニーシェイ氏自らの手による自伝風経営書「ザッポス伝説」だ。すでにAmazon書評にも絶賛の嵐があるように、カジュアルなタッチで書かれてはいるが、真実のみが持つ迫力に満ちた内容になっている。


 
特に、幼少期から大学時代、最初の創業を経て、いかにザッポスの着想が生まれてきたか。そして、度重なる試練と、それを乗り越える強い信念なくして、奇跡の経営を体現するザッポスは誕生していなかったことなど、心から共感できる点が多かった。
 
 
■ ザッポスが生まれた背景
 
トニーシェイ氏は、いたずら好きのチャーミングな性格をしているが、反面、非常にクレバーでロジカルな思考の持ち主だ。彼は、さまざまな原体験を振り返り、そこで得た教訓を生かし、徐々にザッポス的アイディアを築きあげている。

多くの経営者がそうである通り、お金を儲けること、事業を拡大することを目的として経営するものの、さまざまな成功や失敗、紆余曲折から学びを得て、人生の目的はお金ではなく、幸せになることに気がついていく。

彼にとっての幸せは、何かを創り、それを育て、それが人々を幸せにすること。志を同じくする仲間とともに情熱をかたむけ、わくわくするような時間を共有することだ。ただし「幸せ」をロジカルに分析し、三つのフレームワークとしてまとめているところなど、日本人には少ないシステム発想の持ち主であることがわかる。そして、トニーシェイ氏は、ザッポスに関わるすべての人々、社員、顧客、株主、取引先にいたるまで、ひとりひとりの幸せをデリバーする、"Delivering Happiness" を経営理念に掲げ、それを建前ではなく本気で推進していく。

  

その結果、伝説の企業文化、顧客サービスを生み出し、わずか創業10年で年商10億ドルを超すオンライン・シューズストアに成長。フォーチュン誌「最も勢いのある100社」「最も働きがいのある100社」に選定されるまでになった。しかし、その背景には、穏やかなトニーシェイ氏の表情からは測り知ることのできない困難と、それを乗り越える深い信念があった。 


■ ザッポス伝説、その舞台裏を探る

ここで、シビアな見方をしてみたい。ザッポスが公開した財務内容(元記事参考スライド)によると、2008年、2007年の売上高および純利益は以下の通りだ。(トニーシェイ氏がブログやスライドで公開している売上高(元ブログ記事)は「商品取扱高(Gross Merchandise Sales)」であり、ここで記する「売上高(Net Revenues)」とは異なる点に注意したい)

  • 2008年 売上高 635百万ドル 純利益 11百万ドル (純利益率 1.7%)
  • 2007年 売上高 527百万ドル 純利益 2百万ドル (純利益率 0.3%)

超拡大戦略を取るAmazonでも純利益率は3%強。国内有数のファッション系ショッピングサイトZOZOTOWNを運営するスタートトゥディ社の純利益率は13%(商品取扱高に対する純利益率でも5.6%)ことを考えると、現時点までのザッポスは非常に薄い利幅で経営してきた企業であることがわかる。
 
それを9億ドル前後(相当の株式交換)、PER(株価収益率)80倍で買収するAmazonの太っ腹も驚くべきと言えるだろう。しかも経営陣はそのまま残り、独立企業として運営することを認めているのだ。この事実を持って、多くのメディアは、買収ではなくザッポスの勝利と報道した。


■ ザッポスは、何に投資しているのか?
 
現在、ザッポスの商品取扱い高は10億ドル超だが、それを支える社員は2000名を超えている。例えば、比較的業態の近いZOZOTOWNを運営するスタートトゥディ社の場合、商品取扱い高で370億円、売上高で171億円で、社員数は270名あまり。ザッポスよりはるかに軽量な組織で運営されている。この厚い人件費こそ、利幅の薄さの要因となっているものだ。
 
では、ザッポスは何に経営資源を集中しているのか?それはシンプルに顧客サービスなのだ。社員2000名のうち、1200名が配送担当、500名がコンタクトセンター(以下 CSと略)に従業。MDやシステム担当、営業、教育、管理などその他部門の社員は300名にすぎない。1700名もの社員を配送とCSに配置するのは、それこそがザッポスの「Wow!」を生み出すコアコンピタンスと位置づけているからだ。
 
彼らが提供する感動体験のポイントは二つ。ひとつはスーパー配送システムによる「Wow!」で、そのベースは次の3つから成り立っている。

  • 年中無休24時間の配送体制
  • 運送会社UPSのワールドポートハブから15分の位置にある巨大倉庫
  • 顧客を驚かせる(リピート顧客を対象とした)翌日配達へのアップグレード

巨大な米国では、コマースの商品配達は5-7日かかるのが普通だ。それをザッポスの場合、例えば東海外エリア(8時間配達)だと、深夜に注文して、翌朝起きると靴が届いているのだ。それもWebサイトには特別オプションとしている「翌日配達」を、リピート客には無料でアップグレードしてあげるという手の込みようだ。そもそも配送料無料、返品可能で返送配送料も無料というスペシャルサービスに加えてだ。
 
以前、Amazonが、もう一方の雄、ダイパーズを買収した記事において、彼らの超合理的な倉庫システムを紹介したが、ザッポスもその倉庫ロボットを利用していることで知られている。つまり単なる人海戦術ではなく、あらゆる手段を使って「Wow!」を創出するための弛まぬ努力をしていることがわかる。

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そして、もうひとつの「Wow!」が、言わずと知れた感動のカスタマーサービスだ。総勢500名の精鋭オペレーターが、顧客からの電話を待ち、一期一会の感動を演出していく。驚くべきは、電話からの注文は5%に過ぎないこと。一般的に考えて、95%ネットから注文を受けているeコマース企業で、500名の電話サポート部隊を擁し、しかも教育システムやブランディングの中核に据えている企業が、ザッポスのほかに世界中のどこにあるのだろうか。
 
「ザッポスの奇跡」でこの事実を知った僕は、彼が24才の時に得たリンク・イクスチェンジ社の売却マネーをバックに、資金余裕を持ちながら信念を貫いた、つまり多くの人々にはまねのできない離れ業だと思っていた。

しかし実態は少し異なっていた。かろうじて黒字化する2006年まで、ザッポスは5年間も赤字を垂れ流した。資金不足はトニーシェイ氏が自宅以外の資産を売却してきわどく繋ぎ、出資したベンチャーキャビタル、セコイアが派遣する取締役と闘いながら、彼の信念を貫き通した結果だったのだ。
 
興味深いことは、Amazonが評価したのはザッポスの収益力ではない(収益力で計算できる株価では全くない)点だ。セコイア取締役の言うことを聞けば、より収益性は高いが普通の会社になり、遥かに安い株価となったはずだ。Amazonが驚異的な高額で評価したのは彼らの収益力ではなく、企業文化、卓越した顧客サービスとブランド力、教育システム、リーダーシップ、そしてビジネスモデルとしてのハピネスだろう。

皮肉なことに、それらはトニーシェイがセコイアと対決して貫き通したもの。そして、結果的に、トニーシェイはセコイアにもサプライズと感動をプレゼントすることになったのだ。
 
 
■ トニーシェイが語る、ザッポス・ブランディング

なぜ、そこまでトニーシェイは「Wow!」にこだわるのか。ひとつは「Wow!」がシンプルに顧客と社員のハピネスに直結するからだ。ただし、その背景には、新世代マーケッターとして、明確な独自理論も持っていることを忘れてはいけない。「ザッポス伝説」から、印象深い言葉を抽出して紹介したい。

この何年もザッポス成長の一番の原動力となっているのがリピート顧客とクチコミです。広告にはほとんど費用をかけず、その費用をカスタマーサービスと顧客体験に投資し、私たちに変わって顧客にクチコミでマーケティングしてもらおうというのが私たちの哲学なのです。(中略)

マーケティングまたはブランディングについてのカンファレンスに出席し、消費者は毎日何千もの広告メッセージにさらされていると企業が語るのを聞くと、個人的にはおかしな話だと思ってしまいます。というのもたいてい企業と広告会社の間で、どうすれば彼らのメッセージが目立つか、数多くのディスカッションがされているからです。(中略)

一般に、マーケティング部門がマーケティングROIを計算する際、顧客の生涯価値を一定にして考えます。私たちは顧客の生涯価値を流動的なものと見なしており、あらゆるやりとりを通じて顧客の心の中に私たちのブランドとのポジティブな絆をつくりだせれば、顧客の生涯価値は向上できると考えています。(中略)

マーケティング担当者が陥りがちなもうひとつの落とし穴は、本来ならエンゲージメントや信頼を築くことに集中すべき時に、いかに話題性を持つかを考えることに集中しすぎることです。(中略)

私たちは電話にて一本ずつ対応し、顧客のひとりひとりと生涯続く関係を築こうとしているのです。(中略) 平均的に見て、私たちの顧客は一生のうちどこかの時点で少なくとも一度は私たちに電話をかけてくることを知っているので、私たちはその機会を使っていつまでも記憶に残る思い出を生み出すように心がける必要があるのです。

彼らは、感動体験の創出に関しては、社員の個性にまかせ、ほぼ何でもできると言って良いほどの裁量権を担当者個人に与えている。また対応時間に制限を設けることもない。もちろん売上のノルマもない。しかしその理由は、コンタクトセンターの目標は「顧客とパーソナルかつエモーションな繋がりを築くこと」「Wowのサービスを提供すること」にあるからであり、売上などの目標はその阻害要因になるからだ。
 
例えばマーチャンダイジング部門では売上や利益がシビアに目標管理されているし、コンタクトセンターにもあらゆる指標(対応回数や前月比、顧客の平均待機時間、総売上額、オペレータ一1人あたりの売上額など)が掲示されている。つまり、気づきのための情報を共有するという意味では、徹底した指標重視タイプの側面も持っている点に注意したい。
 
また、労務管理には「80対20の法則」、つまり「フロアにいる80%の人が顧客対応にあたり、後の20%の人がそれ以外の活動に従事している」という計算のもとに労務スケジュールが組まれており、それが計測されている。したがって、自分がサボるとチームメンバーの負荷が増えることになるため、自律的に優先度を一人ひとりが考える仕組みを採用している。これらの合理的システム化がザッポス経営の背景にあり、その上で、個人個人が仕事を心から楽しむ環境を提供している点を忘れてはいけないだろう。
 
 
■ 今、ザッポスが最も大切にしているもの
 
ザッポスが最も大切にしているもの。それは、カルチャー(企業文化)、それが醸成するブランド(顧客の感動体験)、それを永続的に続けるためのパイプライン(後継者の育成)だ。

トニーシェイ氏は、「ビジネスモデルとしてのハピネス」という理想を貫き通し、カルチャー、ブランドを創り上げた。そして最後の仕事が、パイプラインと呼ばれる社内教育によるザッポスDNAのシステム化。つまり、彼がいなくても成長していくザッポスづくりだ。

お金ではなく、影響力でもない。顧客価値や企業文化、その背景にある「人々の幸せ」を最上とする企業が、ザッポスのDNAを引き継いで世界中に増えていけば、きっと良い世の中になっていくだろう。僕たちループスも、そんな一社として成長していきたい。



 

【追記】
「ザッポス伝説」を監修をされた本荘修二氏が、明日19時からのUst番組「Looops.TV」に出演されます。二週間ぶりに僕も登場し、生のお話を交えながらザッポスを語りつくしたいと思ってます。ご興味ある方は、ぜひご覧ください。

 

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