ゲーム業界を襲う世界的な激震。ソーシャルゲーム急成長のインパクト
不況に強いといわれた米国ビデオゲーム業界(日本で言うテレビゲーム。ディスプレイつき装置によるゲームに関連する業界)に激震が走っている。
・ 10月の米ゲーム関連売り上げは19%減 ゲーム機値下げの効果薄 (ITmedia, 2009/11/13)
この記事によると,10月の米国のビデオゲーム機器・ソフトの売り上げは19%減少して10億7000万ドルとなった。また家庭用ゲーム機の値下げにもかかわらずゲーム機売上は23%減少と全く歯止めがかからなかったと報道されている。
・ Video Game Industry Not So Recession Proof After All (ERTS, ATVI, TTWO) (Silicon Alley Insider, 2009/11/13)
こちらの記事では,エレクトロニックアーツ(ERTS),アクティビジョン(ATVI),テイク2(TTWO)の売上対前年比の推移がグラフ化されている。この3社は米国トップ3のゲームソフト・メーカーで,日本で言うとスクウェア・エニックス,コナミ,バンダイにあたる。
ゲームソフト業界は2008年前半までの急成長していたが,世界同時大不況と時を同じくして落ち込み始め,2009年はほぼ前年同期比を下回る結果となった。しかしこのチャートでは,2009年10月が前年同期比▲18%とさらに落ち込んだことで,不況の影響以外の本質的要因があるのではとSilicon Alley Insiderは問いかけている。
時を同じくして,業界最大手エレクトロニックアーツ(以下,EA社)社が11月9日に驚くべきアクションに出た。ソーシャルゲームで業界第2位のPlayfish社をオプションも含め約360億円で買収し,それとほぼ同時に社員の17%にあたる1500人を来年3月末までにリストラすると発表したのだ。
・ EA、ソーシャルゲームのPlayfishを3億ドル、プラス1億ドルのアーンアウトで買収 (TechCrunchJapan, 2009/11/10)
・ EA、従業員1500人を削減へ--ゲームタイトルも多数キャンセルに (GameSpot, 2009/11/10)
・ 米EA、ソーシャルゲームサービス3億ドル買収の衝撃 (日経IT+PLUS,2009/11/13)
もとよりEA社はM&Aで急成長し,昨年末にもリストラを断行するなど大胆な経営手法で知られる会社だ。上記日経記事からリチェルトCEOの言葉を転載しよう。
9日の買収発表と同時に発表されたEAの09年7~9月期決算は、純損失3億9100万ドルと振るわなかった。ジョン・リッチェルトCEOは、決算発表のなかで「パッケージソフトの年間販売は、北米で12%、欧州で13%減少する」と厳しく予想している。
一方で、携帯電話、アイテム課金型、月額課金型、広告型といった新たなデジタルビジネスについては、今後数年間 は年率20%かそれ以上で成長するとの予測を示し、「EAとしてのあり方を明快にしなければならない」と語った。 これらの新規市場が世界のゲーム産業に 占める割合は、「5年前には10%以下だと考えていたが、現在は35%と見積もっている」とも述べた。EAはこうした市場の変化を受け、大型タイトルを除 くゲームの開発を事実上凍結し、来年3月末までに世界で1500人のスタッフを削減するという。これにより年間1億ドルの経費を削減する。 (日経IT+PLUS記事より)
なお国内でも,スクウェア・エニックスが来年3月末までに全社員の10-15%を削減対象といるリストラを発表し,話題になっている。
・ スクウェア・エニックス、人員を1割削減--「組織を有機的に動かせるサイズに」 (CNET Japan, 2009/11/05)
EA社CEOの言葉にある通り,このゲーム業界の業績低迷は不況だけが原因ではないだろう。
ながびく不況の中で,ユーザーはゲーム機やソフトの購入を控え,そのかわりにFacebookやiPhone,GREEで無料ゲームを楽しみはじめた。確かにコンテンツの質は劣るが,そこには友人や同好人との体験共有という新鮮な楽しさがある。電車通勤や待ち時間などの苦痛も忘れさせてくれる。ツールやアバタは買うが毎月の携帯料金と比較すれば安いのであまり気にならない。そしていつの間にかそのソーシャルゲームが習慣となり,ビデオゲームのことを考える時間が少なくなってきたのだ。
・ Asian virtual goods market is seven times bigger than U.S. (VentureBeat, 2009/10/30)
この記事によると,アジアのバーチャルグッズ市場が米国の7倍約70億ドル規模になっているとのこと。リードしているのは日本のGREE,モバゲー,韓国のCyworldなど。そしてこのバーチャルグッズこそ,原価ゼロの奇跡のようなビジネスモデルとして注目されている新しいゲームの収益源だ。
ちなみに米国の2008年度ビデオゲーム・ソフト総売上は117億ドル。それに対して米国バーチャルグッスの売上はすでに10億ドルに達しており,ビデオゲーム売上2009年の落ち込みをカバーする計算になる。
・ 世界中から注目が集まる,日本携帯サイトのビジネスモデル (筆者記事,2009/10/23)
ハードウェア台数も俯瞰しておこう。下図の通り,最新のゲーム専用機統計によると,Wii 56百万台,XBOX360 33百万台,PS3 26百万台。ポータブル系では NintendoDS 113百万台,PSP 52百万台だ。それに対して携帯電話は4,000百万台レベル。絶好調のiPhone/iPod touchは発売3年で50百万台を超え,2012年にはスマートフォンだけで500百万台を超えると予想されている。またPCベース上にもFacebookとMyspaceだけで400百万人を超える巨大なゲーム・プラットフォームができあがっている。
【 出所: VGCharts :http://www.vgchartz.com/ 】
これらのデータは米国のみならず,世界的な流れとして本格的なゲーム業界再編がはじまることを示唆している。ゲーム業界の「ゲームのルール」が変わりつつあるのだ。
- ゲームの主役は,「スタンドアローン型」から「ネットワーク型」へ
- ゲームのインフラは,「家庭用専用機」から「汎用モバイル機(携帯,スマートフォン等)」へ
- ゲームの収益は,「パッケージ販売」から「バーチャルグッズ販売+広告収入」へ
- ゲームの価値は,「コンテンツ・クオリティ」から「ソーシャル・エンターテインメント」へ
最も重要な変化は,ソーシャルゲーム(複数プレイヤーが協力・競争してすすめるゲーム)を前提としているために,複数デバイスにまたがるクロス・プラットフォームが必要になってくることだ。
そのため,ハードウェア・メーカー(任天堂,ソニー,Microsoft)から,その上位層で複数ハードウェアをつなぐクロス・プラットフォーム企業(Facebook,Google,Apple,MicrosoftとIT界最強企業による競合が予想される)にゲーム業界の覇権が移る可能性が高い。またそのプラットフォーム上での中間サービス(少額課金,モバイル位置連動広告,バーチャルグッズ流通,クロス・ゲーム開発ツール,クロス・コミュニケーション・ツール等)が新たなビジネスとして創出されるはずだ。
今月に入り,独立系ソーシャルゲーム主要メーカーであるZynga,Playdom,RockYou!がそろって大規模な資金調達を実施した。各社ともクロス・プラットフォーム,そして日本を含むワールドワイドな展開を睨んでのことだろう。またFaceobookも世界初の海外法人として日本支社設立を発表しており,来年1月から本格的な日本上陸がはじまる。
Facebookを発信源とするソーシャルゲームの波は,iPhone,Androidに飛び火し,ゲーム業界,携帯業界,コンピュータ業界を巻き込む巨大なうねりとなって,国内外の産業に大きなインパクトをもたらすだろう。そして永らくガラパゴス状態だった日本のIT産業にとって良い刺激となり,特に若くて才能ある少人数のベンチャー企業がワールドワイドに展開する絶好のチャンスとなるだろう。
【追記】
XBOX360は有料サービスXBOX LiveでFacebookやTwitterなどに,PS3もFacebookにアクセスできるサービスを開始した。ただし現時点ではコミュニティ接続のみで,XBOXやPS3上でFacebookソーシャルゲームを楽しめるわけではないようだ。
・ Xbox 360 Twitter, Last.fm and Zune Video Go Live Today (GIZMODE, 2009/11/17)
・ Facebook Integration With PS3 Becomes Official (All Facebook, 2009/11/17)
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