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ソフトウェアは私たちに幸福をもたらすことができるのか

世界の視点からWeb 2.0の先を見る

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 "The Future of Web 2.0"をテーマとしてJoi(伊藤穰一)がプロデュースした「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2006」に参加しました。

 Creative Commonsの強力な推進者Lawrence Lessig教授をはじめ、FirefoxをリリースしているMozilla CorporationのMitchell Baker CEO, TechnoratiのChief TechnologistのTantek Celik、Stupid Networkで有名なDavid Isenberg、ブラジル文化省のClaudio Pradoなど世界的なスピーカーを揃えてのカンファレンスです。

 まず、「なぜCONTEXTなのか?」をJoiが説明。これから、CONTENTではなくCONTEXTが重要になっていくと言います。そのココロは、情報の価値は、情報そのもの以上にそのCONTEXTによって決まるということ。たとえば、株価情報では同じ情報も15分経つと急激に価値が下がってしまいます。情報は必要な時、必要なシチュエーションつまりCONTEXTで存在してこそ価値が高いというわけです。また、Joiは、Web 1.0 → Bubble 1.0 → Web 2.0 → Bubble 2.0への流れについて言及しました。これは2010年を予測するにあたり面白い洞察だと思います(写真)。

 一番聴きたかったLessigの講演内容は、Creative Commonsの背景にある、現在のインターネットの危惧すべき事態についての説明。Lessig恒例の非常にテンポのよいプレゼンテーション。Lessigは、コンテンツのreuse, remix例のデモンストレーションを交えながらて持論を展開。行き過ぎてきている昨今のDRMを激しく攻撃しました(笑)。トラディショナルな著作権保護の立場の人にはかなり嫌なプレゼンだったに違いありません。最後にJoiが解説しながら流してくれた日本語のプロモーションビデオは、かなりソフトでしたが、Ressigのプレゼンは決してそんなソフトなトーンではありませんでした(笑)。私自身は、Creative Commonsについては理解しているつもりだったし、自分でも2003年から本家わらくるのブログのコンテンツはCreative Commonsにしているのですが、その文化に与えうる影響や、これまでのRead Only <RO> InternetとRead and Write <RW> Internetについて再認識しました。

 TantekのMicroformatsの話はわかりやすく、まだ日本では認知度が低いMicroformatsについて参加した人の多くが理解できたのではないかと感じました。Microformatsは、Web 2.0のキーワードの一つに挙げられるもので、実体はHTMLに埋め込み可能なデータの意味づけです。特定の部分に絞り込むことが特徴で、シンプル。メジャーなところでは、hCard(vCardのMicroformats版:名刺情報)、hCalendar(iCalendarのMicoroformats版:カレンダー情報)、rel-license(ライセンス情報)などがあります。Tantekは、講演の最後に日本語の翻訳を手伝ってほしいと訴えました。確かに、microformats.orgを確認してみたら、翻訳完了しているのはrel-licenseだけ、翻訳中なのが、rel-nofollow、rel-tag、XOXOの3つだけ。

 Joiの誘いで、講演後のDinnerにも参加させてもらいました。やはりface to faceも面白いものです。Lessigに直接「ソフトウェアベンダーとしてオープンソース以外にCreative Commonsに貢献する方法は何がよいと思うか?」と訊いてみたところ、「現在、CCはソフトウェアそのものよりも、音楽や動画などのコンテンツに注力していて、再利用や編集などを助けるようなソフトウェアは役に立つと思う」との答えでした。さらに、「CCの活動は大変だという話だったが、大変さにおいて国によって違いがあるか?」と訊いたら、「日本では予算の問題があって専任の人を置けない」ということでした。たとえば米国では寄付も多いし、台湾では政府の援助があるのだそうです。もっと違う文化的な側面などの話が出てくるかと思っていましたが、Creative Commons Japanの野田さんもその点を強調していたので、本当に大変なのでしょう。日本も知財立国を目指すのであれば既得権益ばかりを守るのではなく、知財の新たな可能性にも国が投資をしてもいいと考えますがどうでしょうか

 Michellとは、オープンソースのマーケティングについて話し合いました。Firefoxは、オープンソースには珍しくかなり意識的にプロフェッショナルなマーケティングをしていて、元マーケッターとしては、このあたりをどのように意識し、どのようにマネージしているのかは気になる点だったからです。

 Tantekは、これから日本でのMicroformats普及に力を入れたいと言っていました。うちの「c2talk」は、Calendar Scriptで、hCalenderもサポートできることをさりげなくアピールしましたが、現在公開されているカレンダーではhCalenderを読み込んで使っているものはまだないので、事例を作りたいところです。ところで、米国のTechnoratiは今何名で運営しているかと訊いたら30名とのことでした。なるほど、いまだに30名でやっているのはすばらしいことです。小さな組織というのは機敏だけれども、事業がスケールしてきてもその組織を小さく保つのは大きなチャレンジです。「Technorati自身もMicroformatsのPrincipleを踏襲しているんですね」と言ったらその通りと笑ってくれました。そして、Tantek曰く「Googleは、Machines Firstなんだよね」と(笑)。

 Claudioは、「ブラジルは国自体がRemixなんだ」と強調。Web 2.0以前から混ぜ合わさることになれているのだそうです(笑)。たとえば、ユダヤ教信者とイスラム教信者もブラジルでは仲が良く、結婚することも頻繁にあるのだと。昨今のイスラエルでの衝突でも、ブラジル国内ではユダヤ教信者とイスラム教信者が手を取り合って戦争反対のデモをしたのだそうです。

 あっと言う間に時間が過ぎ、余韻を残しながらDinnerは終了。

 それにしても惜しむらくは、これほどのスピーカーが揃った充実したカンファレンスにもかかわらず、参加者は会場の半分くらいだったことです。会場では「有料だから仕方ない」との声もありましたが、私の知人でも「知ってたら参加したのに!」という人がいたことから、残念ながら告知が十分でなかったのではないでしょうか。来年もまた開催を望むとともに、ぜひ広く告知してほしいものです。

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