「精神病患者が病院を管理している」
Visual Basicの生みの親のAlan Cooperの2冊目の著書の書名は「The Inmates are Running the Asylum」である。直訳すると「精神病患者が病院を管理している」となる。これでは何の本かさっぱり分からないので、日本では書名が「コンピュータは、むずかしすぎて使えない! 」に変えられて翻訳され、中国では書名が「交互設計之路」と翻訳されている。
この本は、ソフトウェア製品(広義的にデジタル製品全般)の使い勝手を劇的に向上させるAlan Coope独自のソフトウェア設計手法をサンプルを交えてその基本法則、導入方法、効果などについて語っている本である。
ソフトウェア設計手法といっても、エンジニアリング的なソフトウェア設計とは違い、設計対象は使用者の使い勝手に関わるユーザインターフェースの振る舞いになっている。また、単純に見栄えをよくするUIデザインとも違うのである。
私は偶然のきっかけで、この本の中国語版の第1版を購入したが、何をいようとしているか暫くは捕らえられなかった。ある日暇で捲ってみたら、事例に挙げた旅客機の乗客の前のタッチパネルの設計画面を見かけた。なかなかのできだなと思っていた。しかし、著者はこれに対して設計し直そうとしたのである。
あれ、これは素晴らしいUIではないか?これを改良してもどれだけ効果があるだろうか。好奇心に引かれて興味津津で読み続けた。
まさか私がここで大きなショックを受けたのである。一般的なソフトウェア設計手法では到底できない素晴らしいものができあがったのである。
この事例は、私がこの本の中国語版第2版を翻訳するきっかけになったと言えよう。
さて、原著の書名をどうして「精神病患者が病院を管理している」としたかというと、Alan Cooperはソフトウェア開発者を精神病患者に喩え、ソフトウェアプロジェクトを病院に喩えたのである(ソフトウェア開発者にとっては耳の痛い話だが)。ほとんどのソフトウェアの開発の主導権が開発者に握られ、ユーザの使い勝手よりも開発者にとって一番やりやすい方法で作られている開発現場を変えるべきだというのがAlan Cooperの主張である。