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Web2.0時代の企業広報・コミュニケーションと情報活用を再考する

フラット化と階層化におけるコミュニケーション

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 昨今、ソフトウェアの開発現場ではアジャイル開発が指向されるように、組織においてもフラット化がネットワーク時代のスピード経営に適していると考えられている。実際には、大企業の構造改革やスリム化への思惑も絡んで評価されている面もあるだろう。確かに組織がフラットになれば、階層が減って中継者がいなくなってコミュニケーションロスも減る。その結果、スピーディに組織がマネジメントできると考えられているのだろう。

フラット化がよくて、階層組織はダメなのか?

ビジネスを成長させたいならノーだ。未来永劫に十人二十人規模の企業がいいというのなら、フラットな組織で何の問題もないだろう。実際そういう企業はいくらでもある。また、階層を最低限に抑えたフラットな組織でないと成立しない場合もある。法律事務所やコンサルティングファームでのパートナー制はいい例だろう。

 ここで、企業の起業と成長を下敷きにフラットな組織と階層化を考えてみたい。

ある企業家が新しいビジネスを興そうとしているとしよう。創業当初は、一人で何もかもやる。事務所探しから始まって、備品の購入やOA機器の発注設置、請求書の発行・支払。そして、肝心の営業、受注業務、発送と何から何までやらねばならない。せいぜいパートナーと少数のアシスタントを雇うぐらいだ。組織運営どころではない。いやがうえでもフラットな運営だ。

統制範囲の限界

このようにして始めたビジネスも拡大して10人を超えて、さらに軌道に乗って取引先を拡大していくと、そのうち営業リーダーが必要になってくる。これを「統制範囲の限界」という。「統制範囲の限界」を超えるというのは、平たくいえば社長一人ではみんなの面倒は見切れないということだ。

そして、課制ができ、部制ができと、組織は拡大成長し会社組織に階層構造が生まれる。加えて、機能分化が必要となって、販促支援担当や総務や経理などのスタッフ機能が必要になる。営業所が複数になれば、このスタッフ部門は自動的にご本社様に昇格する。

実感(リアリティ)を持った日常マネジメント

ここでもう一歩踏み込んで、「面倒が見切れなくなる」ということはどういうことか考えてみたい。 私がかつてサラリーマン時代に本社スタッフ部門の課長職であったとき、それぞれ担当領域の異なる十名ちょっとの直下の部下がいた。彼らの業務内容、キャリアプランなど考え、自己申告制度に基づく面接も相当の時間を要する。もちろん一人数分という訳にはいかない。一日3人ずつで一週間のスケジュールはほぼ占領されてしまうことになる。これが倍の30人規模となったら限界を超えてただろう。日常の業務活動における部下との係り合い方は、普段からこちらの考えていることを理解してもらい、部下の考えを聞き、どう理解しているかを確認し、示唆を与え、個人個人の期待成果を計算することだった。これができないと実感(リアリティ)をもったマネジメントができないと感じていたからだ。

さらに、自分が部長職となった際、最大4人の課長がついてくれたが、課長に任せるという仕事のやり方に変わる。任せる以上は仕方がないのだが、我慢の時間が激増したのは想定外だった。課長を育てるということをしない限り自分の仕事も楽にならないし、仕事の質の向上も新しいチャレンジもできないので、忍耐というは業務だと理解した。しかしながら、実感(リアリティ)を持ったマネジメントができるか否かの境界線が、「統制範囲の限界」であったということには変わりなかった。

実感を伴えるコミュニケーション範囲の限界

これをもっと正確にいうと、「統制範囲の限界」とは、「実感を伴えるコミュニケーション範囲の限界」だと言い換えることができる。現実から寸分も遊離しないコミュニケーション範囲といってもいいかもしれない。

フラットな組織でも階層化された組織でも、リーダーの統制範囲の限界のなかで確実なコミュニケーションを行うということが重要であって、この限界を超えて無理をしてフラット化したり、役職を増やして階層化していくとマネジメントと組織は形骸化して機能不全となる。微妙な解釈や対応の違いが、気づかぬうちにブルウィップ効果(*1)のように拡大して、組織としての機能低下を起こしていく。

組織の形態にかかわらず、そのパフォーマンスが低下してきたとき、それを是正改善するためには組織の動き方を調整しなければならないが、まずは、実感(リアリティ)の伴ったコミュニケーションが実現されているかを問うことが重要だ。

(*1) ブルウィップ効果(bullwhip effect)とは、店頭での需要の情報が、流通の川上つまりメーカーサイドに伝わるに従って変動幅(誤差)が増幅する現象。鞭(ムチ)の柄を少し振るだけでも、鞭の先端は大きく早く振れていく現象をたとえに表現した。

 

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