【広報かるた】・【あ】案内状、出した直後に会見中止のお知らせ。当日会場でお詫びの待ち受け。
「広報会議」新春号に掲載された「広報かるた」(原企画「広報死亡かるた」改名)について、そのフレーズの面白さや珍妙さに笑ったり首を傾げたり泣いたり怒ったり、反応は様々だと思うが、正直個々の作品について何か言い足りない。なので、この自由気ままなブログを使ってしばらく、というか、最後まで連載をしてみたいと思う。【広報のタネ】シリーズと併読されることをお勧めしたい。
まずは、【あ】だ。
【あ】案内状、出した直後に会見中止のお知らせ。当日会場でお詫びの待ち受け。
あってはならないことだ。しかし、朝令暮改の激しい成長事業体では起こりうるし、現実に起きる。なぜこんなことになるのか。
ずばり、ステイクホルダーと言われる会見に関連する事業関係者と連絡調整が不十分だからだ。そのステイクホルダーとは、社長をはじめとした経営陣、事業部責任者、関連するパートナー企業、場合によってはユーザー企業の広報や事業責任者、国際またはグローバル企業なら本社組織。
そして、これらの確認は口頭ではなく、書面でやっておく必要がある。もちろん、メールでも良い。各々の意思決定が他の人にもわかるようになっていることが重要だ。堅苦しく言うと、民法の定義する第三者対抗要件などを意識するとよいだろう。言ったか言わないかは当事者の間では有効かもしれないが、他の人にそれを証明する手立てがない。その時に「ふふふ、メールでご了解いただけた通りですよ。」と少し暗黒な口調で仄めかすと、意思決定が覆されることはあまりない。
一番厄介なのは「私は聞いていない」という輩である。しかし、言っていないのであれば「聞いていない」わけである。その場合は、自分の詰めの甘さを大いに反省しておいた方がいい。
事前に言ったのに、「私は聞いていない」という人もいる。勘違いしないでほしい。彼らはバカなのではない。(稀にそういう人もいるかもしれないが、そういうときは自分の不運を呪って会見をキャンセルしよう。多少つらい思いをするだけで済む。貴方もクビにならない。)つまり、「私は聞いていない」の本当の意味は「今一つ納得していないからちゃんと説明してほしい」「もっと良くしたいので変更させてくれ」「もっと私の出番を作ってくれ」など、どちらかというと「嘆願」に近いものだと思っていた方がいい。その方が、前向きに理解して行動を起こせる。間違っても「私は聞いていない」と言ってきた人に「いいえ、言ったはずです!」とか、「でたぁー」などと切り返してはいけないのである。
なお、内部調整が終わっていないのに、会見までの日程が迫っているからといって案内状を「見切り発射」してはいけない。必ず意思決定を確定させたうえで案内状を出すこと。マスコミ関係者には直前の案内となって迷惑をかけることもあるが、案内状を出してからの手戻りを考えると、きちんと調整をした上で案内をすべきだ。ま、当たり前の話か。
案内状のタイミングだが、業績、人事、M&Aなど、上場企業が株価に影響を与えてしまう重要な内容を除き、所属記者クラブのルールに則るか、数日間のゆとりを持つことが望ましい。会社に依っては一週間ほどリードタイムを持つところもある。記者によっては、もっと早く案内をして欲しい、という人もいる。そこは普段のコミュニケーションを徹底して最適解を見つけてほしい。当日の案内だと記者は一様に「ナニゴトカ!」と発奮するし、一か月も前だと軽視されたりもする。ニュースの緊急性と重要性を検討して適切なタイミングで案内をする方が良い。
一方で、
IT業界のように変化の激しい世界に身を置いていると、準備していたはずの会見の内容が時流にそぐわなくなることがある。その時は、前述の意思決定プロセスに関係なく、会見はキャンセルしたほうが良い。不適切なタイミングで不適切な内容の会見をしてしまっては、評判を落とすことはあってもあげることはないからだ。その意思決定は広報がそのアンテナの高さを駆使してリードするべきだろう。
しかし、どんな事情があろうとも、どんなに計画通り進めたかったとしても、会見を中止すべき時は中止すべきである。案内状が出た後に中止の連絡を入れても、出席予定記者全員に中止のメッセージが届くとは限らない。可能な限り連絡したとしてもそれは100%にはならないのである。なので、当初案内状に記載していた会場に時間通り赴き、誰かが来てしまったら、誠意をもってお詫びし、お引き取りいただくのが望ましい。なお、これらはすべて広報で対応すべきである。間違っても正義感の強い社長などには出てきてもらわないことだ。事業のリーダーがそこにいたりすると、「なんだ、取材できるじゃないか」と妙に記者のやる気を醸成してしまう。これは広報が仕切るべき後始末なのである。
そして、後日、本当に準備が整ったら、今度こそ会見を行うのである。二度目は、必ずやることにしよう。もし万が一ここでも中止にしまった場合、貴方のニックネームが「おおかみ中年」になることを覚悟しなければならない。誰も助けになど来てくれなくなるのだ。
次回は【い】。