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夏目房之介の「で?」

ダヴィッド・プリュドム 訳 原正人『レベティコ』 サウザンブックス社

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まずは表紙を見てほしい。カッコいいでしょ? そう感じた人、そして音楽好きな人は、ぜひとも読んでほしい。これは傑作である。僕はここで描かれている1936年ギリシャの独裁も、そのスラムで展開されたギリシャのブルースと呼ばれるレベティコという音楽も知らない。が、まるで昔のフランス映画のようなドラマが、素晴らしい絵で繰り広げられ、そのやけっぱちなならず者たちによる「音楽」は、まったく知らないのに「聴こえてくる」のだ! ハシシの酔いのままに踊る場面のカッコよさ! 気だるく体の揺れ動くさまは十分に僕の身体の内部にも響く。名場面揃いの中でも、スタヴロスという人物が、暴力の真っただ中で自らの血と引き換えに音楽を聴かせる場面は痺れる。そんな自堕落でアナーキーな連中のところに、ある日アメリカのレコード会社が接触してくるが...。
訳者原正人は、十年近くこの作品を各社に持ち込んだが出版に至らず、ついにクラウドファンディングで出資を募って、サウザンブックスを立ち上げて出版に至った。この傑作の出版にどこも二の足を踏むほど状況は悪い。原のプロジェクトを支援したいと及ばずながら微々たる出資をした身として、今回の出版は喜ばしい。この挑戦がのちのち「成功」といわれる状況の変化に辿り着くことを祈る。
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