松本正彦『劇画バカたち!!』
松本正彦『劇画バカたち』(青林工藝舎)が出た!
連載で飛び飛びに読んでたけど、通して読んでなかったので、読みたかったのだ。
夕べ、寝る前に少しづつ読もうと思って読み始め、止まらなくなって3時まで読んで完読してしまった。おかげで今日は眠くてしょうがない。面白いのだ。
辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』と同じ時代を自伝的に描いているのだが、辰巳があくまで辰巳自身を中心にした、自己の輪郭のはっきりした自伝風なのに対し、主人公で自分であるはずの松本は、まるで俯瞰視点のように引いていて、周辺の人物をまんべんなくからめて当時の関係や雰囲気を描こうとしている。独特の繊細な視角から淡々と描写される。
日の丸文庫で「影」が出て、自分達の考えるマンガ(やがて「劇画」という形をとる)が評判になってゆく過程の若者たちの熱、にもかかわらず貧困の中で家族にまともに見られないマンガ家たちの屈折、そして強烈な東京への憧れ。生活感のある描写が説得力を持つ。
後半、東京進出した直後の国分寺のアパートで再会する、先に着いていたさいとう・たかをと、後からきた松本と辰巳の微妙な齟齬を、松本がとりなそうとする場面などに、松本のスタンスがよくあらわれている。
コマの割り方がこまかく、演出はじわじわと進み、今のマンガとはだいぶ違う。連載であるにもかかわらず、連載のはじめと終わりの引きの構成などが作られていないので、ずるずると読んでしまう。でも、連載時の扉も入れて本にしてほしかった気もする(扉はまとめて巻末についている)。
また、さいとう・たかをの巻末インタビュー「松本氏のこと」が、率直でとてもいい。自分は最初からプロの仕事としてマンガを考えたし、そういう風にしか描けないが、松本や辰巳は自分が描きたいから描くという作家たちで、それがすごくうらやましかったという。だからこそ、彼らにはそういう作品を描いてほしかったと。
マンガ好き、マンガ研究者必読の本がまた増えた。