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夏目房之介の「で?」

バリ日記(8)

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3月30日

7時半起床。午前中、モンキーフォレストまで出て、みやげなどを買い、HISの支店でリコンファームをする。これまでリコンファームはホテルに任せて、自分でやるのは今回が初めて。昔はデンパサールまで行っていたのだが、最近はHISで代行してくれる。楽だなー。手数料は・・・・いくらだっけな。安かった。それにスタッフの女の子がすごく可愛かった。僕の携帯を確認して「お客様、プリペイドカードが切れています」と教えてくれた。受信はできるのだけど、かけると何かインドネシア語で言ってたのは、そのことだったのね。

Photo_2 帰りに、水田のど真ん中をえんえんと行くと、ポツンと建っているレストラン「サリ・オルガニック」で昼食。オーガニック系の店も増えていて、欧米の、いかにもそれらしいナチュラル系の客が多い。ここから畦道を通って宿に帰ろうととして迷い、またまたインディ・ジョーンズと化し、自転車抱えて渓谷斜面を登ったり、ひどい目に会いながら帰った。

夜は、マニック一家と成瀬さん、京子さんと、マス村の大規模なオダラン祭に参加。これがまた、物凄い人出。5つの寺を回って、そのたびお祈りと、お坊さんからの聖水をいただくのだが、えんえんと、満員電車状態のすし詰めで待つ。入り口が狭いので、信じられない押し合いへしあいで移動する。みんな家族総出で、小さい赤ちゃん連れもいれば、老人もいるのに、なぜか寺の中に入るとそれぞれまた家族単位にまとまり、誰もケガたりする様子もない。不思議なくらい穏やかに待ち、おだやかに移動するのだ。こんな状態を東京で経験したらイライラするなというほうが無理だが、ナゼか、頭がぼんやりして、そういう気持ちにあまりならない。そのかわりムチャクチャ疲れた。

Photo  バリの正装をした日本人三人で記念写真。
左端の人はバリの偉い古老のように見えるが、レッキとした日本人(成瀬さん)である。

3月31日

昨夜、成瀬さんに、いくつか書いた書や絵をあげようと思って、5つ回った寺の二つ目かどこかに置き忘れてしまった。成瀬さんは「まあ、ご奉納ということで・・・・」と笑っていたので、そういうことにした。バリの神様は読めないだろうけど、ちなみに、こんな書を書いておりました。

Photo_2  「夜聴鳥啼」
まぁまぁ、といったことかな。

昼は、ニュピ用に買っておいた即席ミーゴレン(やきそば)を食べてみる。意外に旨い。調子にのってカップラーメンも食べてしまう。食後、昼寝。雷の音で目覚め、おきて気持ちいスコールを眺めて過ごす。

考える力が著しく低下しており、今何時だから、あと何時までに何をしてどこへ行こうとかいう段取り的思考が消えうせる。つか、ま、どうでもよくなっちゃうんだよねー。夕方からマニックの車で成瀬さん宅に遊びに行く。夕食を、隣のレストランからとり(イタめし)、だらだらと話す。何というのか、こんな風にいろんな話をできるっていうのも、意外にバリじゃないとなかなかしないもんである。
成瀬さんは40歳を過ぎてバリに来て、帰りたくなくなって、突如バリに移住してしまった人なのだが、僕は、30過ぎにバリで深い経験をしたのに、一度も住みたいと思ったことがない。最初からここが伝統的共同体の密度の高い土地であることはわかっていたので、自分がそんな窮屈な世界に入れるとも思わなかったし、入ればイヤなことが沢山あるという確信があった。だから観光客としての束の間のバリを楽しむスタンスを固持してきたのだ。その違いはどこにあったんだろう、というような話をしたり、インドネシアと近代社会の問題を語ったり、そこから飛んで日本の近代と戦後の関係について話したり・・・・。しまいには、今僕が向き合っているマンガや大衆文化を大学という場で扱うことの意味について話したり、ほんとに様々な面白い話をした。成瀬さんの人となりもあるのだけど、楽しい夜だった。

4月1日

もう、明日は帰国の途につく。
調べてみたら、バリにきてから両替した円と、カードで使った分も含めても、せいぜい5万円ほどだった。ほんとに飛行機代以外、ほとんど使わないなー。いちばん高い買い物って、結局おみやげだったりする。あ、あと携帯かな。

般若心経を、かなり好き勝手な字体で書いてみた。

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昼、マニックの知り合いのマッサージさんを頼む。1時間で15万ルピー。

昔、英子と次男を連れてバリに来たときに行った美術館PURI LUKISANに寄る。次男が登った木を探したが、見当たらなかった。

Photo 美術館の庭。ここが好きで、昔は毎回来てたな。昔は谷を渡る苔むした石橋がよかったのだが、今は駐車場にするので埋め立てて工事中だった。ロータス・カフェにも寄ってのんびりお茶する。

ポンドック・クチルに寄って、まゆみさんに挨拶し、自転車を返す。

夜、マニックに誘われて雨の中、車でサヤン村のワルンに行きナシ・チャンプルを食べる。場所は、超高級ホテルのアマンダリとフォーシーズンズの通りの、両ホテルから中間にあるふつうの民家。看板もなく、台所ではかまどの炭で料理している。マニックお気に入りの店。

Photo_5  マニックは、僕がこういうところを喜ぶのを知っていて連れてきてくれたのだ。ありがとう。旨かったよ。

バリの夜も、今日までかと思うと、なごり惜しい。宿に着くと雨がやみ、月が顔を出した。

 風を梳く 椰子の葉櫛に 蛍かな

4月2日

午前中、だらだらと歩いてモンキーフォレストまで行き、またプルパに会う。
彼の店の隣のレストランで昼食。こんな暑い島で、シベリアン・ハスキーを飼っている。鎖につながれているが、まだ子供みたいで、遊びたそうにしているので、店員に聞いて少し遊ぶ。バリの犬は、基本番犬なので、うっかり手を出すと危険なのだが、こいつは明らかにペットなのだ。すごい喜んで飛び掛ったり、甘噛みしたりしてくる。店員はハラハラしていたが、ハスキーは人懐こい犬だし、僕は慣れているので平気。というか、ひさしぶりに大好きな大型犬と 遊べて満足。でも、何せ寒いところの犬だから、毛が猛烈に抜けていた。かわいそうになー。

Photo_4

昨日まとめておいた荷物を点検する。同宿のジェロームとポーさんが挨拶にくる。「また会えるかどうかは誰もわからないが、楽しかった」というような話をして、少しセンチメンタルな気分になる。旅独特の感情だ。毎朝のように朝食の席で英語で一生懸命話した、この瞑想好きのスピリチュアルで礼儀正しいオランダ人は、でも冗談も好きで、いい同宿者だった。タイ北部に住むという彼の、山焼き時期の体験など、面白かったな。

夕方、少し昼寝をして、予定の時間より15分早く迎えにきたマニック(時間より早くくるバリ人なんて、いるんだね)とともに空港へ。帰りは、結局2時間遅れの飛行機でしんどかったけど、いい旅であった。

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