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リーダーは明確な目標を示せ。 現実的でなくても、正確でなくても、明確であればそれでいい。

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【書評】最高のリーダー、マネージャーがいつも考えているたったひとつのこと

 うちの部長が「面白く参考となる良い本だ」と評価した本書を読んでの感想は、この本も読み手によって理解が相当ブレるのではないかということ。

 僕がまず思ったのは、読者がまず理解しておかなければならないことは、この本がアメリカのリーダー、マネージャーを数多くインタビューした結果をもとにたどり着いた結論を書いているということ。 雇用流動性の高いアメリカでのケーススタディであるので、パフォーマンスの良い人を如何に活用し、また定着させるか、を常に考えている企業側。 そして、いつレイオフされるかわからないので、将来の安定のために常に自分のスキルアップとキャリア形成を考え行動している従業員という環境であるということを忘れてはならないと思う。 逆に言えば、その会社やそのポジションでパフォーマンスを発揮できない=自分の強みを生かせない人の居場所は無いというい環境が前提となっているということである。

 本書では、まずリーダーとマネージャーの違いを定義しているが、これは我々が日本でよく教わったり、聞いたりして、広く認識されているリーダー、マネージャーとはやや異なっているように思う。 リーダーはその組織(会社または事業を担うひとつの組織など)のトップのイメージである。 また、マネージャーはどちらかと言えば、プロ野球チームの監督に近いイメージである。

 本書でのリーダーの定義は、概ね以下である。
リーダーは人々に明確な未来の目標を示さなくてはならない。 人々は先の見えないことを不安に思うものである。 人々の不安を取り除くのは明確さである。 明確さは不安の解毒薬である。 リーダーは未来をあざやかに - 行動、ことば、映像、写真、ヒーロー、数字など通して - どこに向かっているかを明確に示すことが必要である。 目標への到達の要素である強み、これも示す必要があるが、この強みは現実を反映していなくてもいい。 正確である必要はない。 明確であればそれでいい。
「すぐれたリーダーシップを支える才能は楽観主義と自我である。」
 まさに、トップが示すダイレクション、ビジョンである。 明確な目標を掲げている日本の代表的なリーダーと言えば、ソフトバンクの孫正義社長が思い浮かぶが、まさにこのリーダーの定義にあっているようだ。

 次に本書でのマネージャーの定義だが、概ね以下である。
マネージャーは、部下一人ひとりの個性の違いに注目し、部下の才能を業績に結びつけるための一番の方法を見つける。 そして、マネージャ―自身の最も大切な目標は、部下一人ひとりの成功であることを伝え、信じてもらい、その実現のための環境をどう整えるかに、最大の好奇心を持たなくてはならない。 マネージャーには教育本能が必要である。
そして、その基本的スタンスは、「弱みの克服」ではなく、いかにその人固有の「強みを伸ばす」かということである。 一人ひとりの強みを見極め、チェスの駒のように最適な仕事にアサインする。
ただし、その大前提として本書ではマネージャーの基本スキルの第一に挙げているのは、「きちんと人を選ぶこと」である。 期待を明確とし、それに合った人材を集めることが必要としている。
 これは、まさにアメリカ的なアプローチである。 終身雇用制が未だ続いている日本において、そのままこのやり方をとるのは難しいのではないだろうか。

 上記が本書でのリーダーとマネージャーの定義であるが、この二つの役割に共通していることがあるという。 それは、リーダー、マネージャー共に、生まれ持った才能が必要であり、誰もが努力すればなれるものではないと言う。

 僕なりに本書を整理してみた結果からは、本書を鵜呑みにしてそのまま実行はできないし、次世代のリーダー、マネージャーが知っておくべきこととしてはいささか壮大すぎる気がする。
しかし、各エピソードは大変興味深く、また参考になるし、具体的に示されている施策例については、そのまま実行できる/実行すべきことも数多く書かれている。

 その中でも、僕が既に始めていること、試行していることが、間違いではなさそうであるという項目をひとつだけ挙げておきたい。
強みのスイッチを入れる引き金: 引き金のなかでもずば抜けて効力を発揮するのは 『認知』 だという。 成果を認める。 そしてその観客は同僚である。 これは、僕の組織で始めている 『月間MVP賞』 で実現できていると思われる。 毎月、成果をあげた個人またはグループを月間MVPとして全員の前で表彰し、受賞者は全員の前で挨拶をする。 受賞者に対する商品は決して豪華なものではない。 MVPランチへの招待である。 このランチ、残念ながら原資がなくなり、僕のポケットマネーからなので、たいして豪華ではないのだが、それでも非日常なランチには特別な意味があると感じてくれていると思う。
 以上が、本書を読んでの感想である。
 Amazonのレビューを見ると絶賛されているものがほとんどであるが、最初に書いたように、この本が書かれた環境、背景を正しく理解しつつ読まないと、本書が複雑で入り組んだ構成となっていることも手伝い、ミスリードしてしまう可能性があると思う。
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