フェルミ推定で組織の地頭を引き上げる
某講座の課題として「地頭力を鍛える」(東洋経済新報社 細谷功著)を読んだ。
正直な感想として、本書はフェルミ推定をところどころで説明しつつ、著者の独自の理論をバラバラと展開している印象が拭えず、「とっちらかっている」という感想であった。 また、フェルミ推定によって「地頭力を鍛える」というのも無理があるな、という印象である。
とは言え、あらためてフェルミ推定を思い出し、"フェルミ推定で組織の考える力を向上させられそうだ" という発見ができたことは有益であった。
そもそも 「フェルミ推定」 とは何か?
調査が難しく正確な数値を得られないような事柄に対して、数値を仮置きして概算の回答を導き出す方法である。
代表的な例題として以下がある。
「アメリカのシカゴには何人のピアノの調律師がいるか?」
- シカゴの人口は300万人とする
- シカゴでは、1世帯あたりの人数が平均3人程度とする
- 10世帯に1台の割合でピアノを保有している世帯があるとする
- ピアノ1台の調律は平均して1年に1回行うとする
- 調律師が1日に調律するピアノの台数は3つとする
- 週休二日とし、調律師は年間に約250日働くとする
そして、これらの仮定を元に次のように推論する。
- シカゴの世帯数は、(300万/3)=100万世帯程度
- シカゴでのピアノの総数は、(100万/10)=10万台程度
- ピアノの調律は、年間に10万件程度行われる
- それに対し、(1人の)ピアノの調律師は1年間に250×3=750台程度を調律する
- よって調律師の人数は10万/750=130人程度と推定される
このように、フェルミ推定は "ロジカルシンキング" の考え方であり、「個人の地頭力を鍛える」 というよりも、「組織に所属するメンバーの考え方を標準化し、組織の地頭力を引き上げる」 ことに有効ではないかと考えた。 地頭の定義にもよるが、組織がロジカルシンキングできるためには、ロジカルシンキングな意見に対して、メンバー全員が 「理解」 することが大切である。 そのためには、メンバー全員がこのフェルミ推定のような考え方を、日常的に使っている必要があるのではないか思うからである。
と言っても、ピアノ調律師の数を推定するようなことが日常に起こるわけではない。
本書においても、以下のような例題が挙げられている。
- 世界中で1日に食べられるピザは何枚か?
- 琵琶湖の水は何滴あるか?
- 日本全国にゴルフボールはいくつあるか?
- 日本全国における餃子の皮の1日の消費量は何㎢か?
これらの例題も、日々直面する課題ではない。
では、組織のメンバーが日々直面する課題でフェルミ推定が使えることはないものか? と考えたところ、以下の例題を思いついた。
「行列のできている飲食店の待ち時間を推定する」
例えば、人気のラーメン屋の待ち時間を推定するには以下の方法が考えられる。
- 行列に並んでいる人数は30人
- 店内の座席数は15席
- 注文してからラーメンがでてくるまでの所要時間は5分
- ラーメンを食べる時間は10分
- つまり一人あたりの店内滞在時間は15分
- 15席15人の平均滞在時間は15分であるから1分に1人が食べ終わり店を出る計算
- 並んでいる人数は30人
- 1分に1人づつ店に入れるので、最後尾に並んだ僕が店に入れるのは30分後
これであれば、誰しもが経験する課題であり、この課題に対して上記のような "概算" を思考すればフェルミ推定を実践でき、ロジカルシンキングの習慣がつくだろう。 普段、そんな考え方を皆ができていれば、ロジカルシンキングな意見に対して 「感情的」 に反応してしまい 「組織の思考停止」 状態を起こしてしまうことがなくなり、結果として "組織の地頭を引き上げる" ことになるのではないかと思ったりするのである。