修羅場で一皮むける人、むけない人
なんか一皮むけたんじゃないか...?
結婚したばかりの頃はお嬢様風だった女性が男の子3人の母となって、久しぶりに会ったときの感想です。
そりゃあ男の子3人も育ててたら普通たくましくなるわ、と言う方に問いたい。
あなたの視点は素朴すぎはしませんかと。
「一皮むける」とは単に人が変わったとか、そういうこととは全く違ったプロセスがあるのです。
たとえば、知人のBさんは爬虫類好き。もちろんペットとしても可愛がっています。「彼ら(爬虫類)は脱皮のときが命懸けなんだよ」と力説します。
「脱皮中と直後は敵に捕食されやすく命懸けの行為になるんだ。で、恐ろしいのが脱皮不全。脱皮が上手くいかず古い皮が残ってしまうと大問題。血行障害を起こして最終的にはその部分が壊死を起こしてしまう。脱皮とは命の危険と隣り合わせなんだよ」
一皮むけるのは命懸けの修羅場。でも修羅場を乗り越えれば、チョウの完全変態のように、より強靱で美しい姿に変容するのです。
人も脱皮こそしませんが同じこと。一皮むける経験には、たいてい修羅場がセットになっていると考えられます。
冒頭の女性は、人知れず修羅場を乗り越えてきたのでしょう。「だからひと回り大きな人間に成長されているんだ」と納得した次第です。
仕事も同じで、キャリアの節目は慣れないことや初めてのことをしなければならないので修羅場になりやすいものです。
米国の有名なリーダーシップ研究機関、CCL(Center for Creative Leadership)では、組織の階段をあがるときの一皮むけるような仕事経験の特徴を「ハードシップ(修羅場経験)」と表現しています。
経営学者の金井嘉宏氏も「一皮むけた経験をした人は、その経験を境にひと回り大きな人間、より自分らしいキャリアを磨く人間に変われる。ひと回り大きな人間になるとは、人としての器作りでもある。たとえば『社長の器だった』と言われるか『副社長止まりの器だった』と言われるかの分岐点にもなる」と言っています。
だから名経営者と言われるような人ほど修羅場の数が多いのですね。これは、社長にならない人でも同じで、新規事業立ち上げ、異動、転職、独立など、キャリアの節目で訪れる一皮むけた経験は、人を脱皮させてひと回り大きな人間にしてくれます。修羅場にあるときは辛いものです。でも、節目に起こる一皮むける経験を避けずに受け入れることで、人はより強靱に美しく変容することができるのです。
【参考文献】
金井壽宏『仕事で「一皮むける」〜関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』光文社(2002年)
モーガン・マッコール『ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法』金井壽宏翻訳,リクルートワークス研究所 (2002年)