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ライフワークとしての学びを考えます。

超一流の指導者は褒めない。認める

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部下を認める上司(小).jpg

ある講座で、「どんなとき自分が成長できたと実感しますか」という質問に、かなり多くの人が「褒められたとき」と言っていました。
人は他人に「褒めてもらいたい」ものなのです。更に言うなら、尊敬する人から褒めてもらえばもっと嬉しいのです。

褒められることがモチベーションになり、努力を続けてスキルが向上するのは悪いことではありません。だから指導者は「とにかく褒めて、やる気をなくさないようにしよう」と考えがちになるのです。

しかし、褒めれば本当に人は成長するのでしょうか?

もし褒められることが目的であれば、褒められれば目的は達成されます。これ以上努力する必要はなくなり、成長は止まってしまいます。
もっとよくないのは、褒められないと努力しなくなってしまうことです。褒め方の差を他人と比較し始めることさえあります。

だから褒めて育てる指導者は、手を変え品を変え褒め続けなくてはならないモードに陥ってしまうことがよくあります。褒めの過剰サービスです。しかし褒めるだけでは課題が伝わらず、かと言って褒められることを期待している相手に本質を指摘をしてしまうと簡単にやる気を失ってしまいます。褒めながら人の成長を支援するのは意外と難しいのです。

天才バッターの落合博満氏は、人を褒めないことでも有名です。
その落合が、オリックス在籍中で当時25歳のイチローと対談したときのことです。落合は、唐突に驚くべき質問をしました。

「大リーグに行ってほしいが、その気持ちはある?」
「大リーグで(打順は)何番を打ちたい?」

すでに投手の野茂英雄選手が活躍していたとはいえ、野手がメジャーに挑むことは難しいと言われていた時代です。「君はすでに日本を出てメジャーに行く時期を迎えている」ということをサラリと言っているのです。落合は褒めているのではありません。現実を解釈して「認めている」だけなのです。

落合は一流の目を持って、イチローに一つの段階に達したという「お墨付き」を与えました。そして「俺だけが心配してるんだろうけど...」と言い、イチローの微妙なバッティングフォームの崩れについて的確にアドバイスをしています。

組織心理学者のエドガー・シャインは、良いコンサルタントはあくまで「課題指向である」と言います。クライアントとの関係は、友人ではなく、親密でもない関係を基準とするほうが良い支援をすることができるのです。

落合のように、一流の指導者はやたらと人を褒めません。そのかわり「課題指向」で的確に指示を出し、相手が成長すれば解釈して「認め」、更なる成長のために一段高い階梯へと背中を押すのです。

「褒める」という言葉は、「感心する」「賞賛する」という意味を持ちます。そこには「課題」や「問題意識」はありません。褒めることの危うさは、「褒めておけばよくなる」という安易な姿勢そのものにあるのです。

 
【参考文献】
E.H.シャイン『謙虚なコンサルティング クライアントにとって「本当の支援」とは何か』 金井壽宏監訳,野津智子訳,英治出版(2017年)

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