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何を考えているのか分からない人と上手く仕事を進める方法

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夫に「クラシック音楽って何がいいんだかよく分からないんだよね」と言われたので、カルロス・クライバーのニューイヤーコンサートと「アマデウス」の映画を見てもらいました。すると、一回で「なるほど」と腹落ちしたことがあります。

他人と主観を共有することはとても難しいものです。

「美味しいとはどういうものなのか?」
「楽しいとはどういうものなのか?」
などの主観は、人によって異なるからです。

でも体験するとすぐに主観を相互に共有できます。

まさに「百聞(ひゃくぶん)は一見(いっけん)に如(し)かず」です。

これは相互主観性とも言われるものです。
大人は経験を持ちます。自負や持論も持っています。これまで生きてきた背景・文化も違います。心の歴史を持っているのです。そのため、人はそれぞれ異なった見方をし、異なる意見を述べます。相互主観を確立するには、異なる意見を持つ相手の視点に立って、相手の経験を自分の中でも持てるようにしなくてはならないのです。

経営学者の野中郁次郎氏は、「相互主観性の視点が大事」と言います。

野中氏は、2014年に生産中止となっていたパナソニックの高級オーディオブランド「テクニクス」を復活させた事例を紹介しています。

「感性価値の重視」を掲げたプロジェクトでは、プロ・ジャズピアニストでリーダーの小川理子さんとメンバーの技術者たちは「いい音」という主観を一致させ、相互主観性にまで高めなければならないと考えました。 小川さんは、技術者たちがつくりあげた音を一緒に聞き、音の良し悪しの品評会を行いながらオープンな対話を続けました。小川さんは、技術者たちとの表面的ではなく緊張感ある知的コンバットのプロセスを経て、最善・最適の判断を行い商品化に至ったのです。

技術者たちはそれぞれ、音に対する異なる主観をもっています。そんな彼らが、実際の音を聞いて「いま・ここ」の文脈を共有し、対話を通じて相手の主観を一度、受け止め、そこに自分の主観を入れ込み、一段階上の「いい音」に関する「私たちの主観」が生まれていったのです。これこそが、相互主観の確立を意味します。
(野中郁次郎,山口一郎『直観の経営「共感の哲学」で読み解く動態経営論』より)

相互主観確立のポイントは2点あります。

1点目は体験を共有すること。小川さんたちは「いい音とはどういうものなのか?」を知るために一緒に音を聴いて、品評会を行いました。

2点目は対話です。小川さんはピアニストです。アーティストと技術者では背景・文化が違います。お互いの文化に入って行くために対話を続けて、重なり合う部分を共有したのです。

人の内面を知る確実な方法はありません。それでも分からない他人と相互主観を確立するには、体験の共有と対話により、常に中立的な思考で物事を進めていくことが大切なのです。

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