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ライフワークとしての学びを考えます。

一度身につけた型を壊してみると、成長できる理由

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型を破る(小).jpg

「仕事を型どおりやるのは上手い人が多いんだけど、型を破ってチャレンジする社員がなかなかいません...」

あるマネジャーさんが悩んでいました。

「型を破れない」のは、今の仕事に違和感や疑問を持っていないためです。
現在の型で解決できないことが起こると、人は違和感や疑問を感じて、それが型を破るきっかけになります。

工学博士の平塚貞人氏は、「基礎を学んで獲得した型だけでは、目の前の問題が解決できない時が訪れる。そこで型を破った新しい技術が必要となる。"ああでもない、こうでもない"と独自の工夫を重ねて試行錯誤を繰り返す。それが型を破ることです」と言います。
解決できない問題に対して、今までの前提を疑い、試行錯誤の繰り返しを行うことで、これまでの型を破ることができるのです。
型を破り成長するには、常に前提を疑う気持ちを持ち続けることが大切です。

ソクラテスは、よりよく生きるために、前提を疑い問答することを追求しました。

たとえば、ある人が「私、この人と巡り会って本当の愛を知りました」と言えば、ソクラテスは次のような問いかけをします。

「そもそも『真の愛』とはどういうことなのかね?さらに言うと、そもそも『愛する』とは一体どういうことなのかね?」

(せっかく喜んでいるのに、なによそれ?ずいぶんイヤな人だなぁ)と思ってしまいますね。
しかしこれは、現状で誰も疑問に思わない自明の前提でもあえて問い直すことで、新たな可能性を見出していくことができる思考法なのです。

私が、ある企業のインナーコミュニケーション向上のためにコンサルティングで入ったときのこと。
広報担当者さんは「トップのメッセージで社員のやる気が上がらなくて困ってます」とおっしゃいます。
でもトップを見ると、社員の前で部下の書いた台本を正確に読み上げています。これでやる気が出るわけがありませんね。

「そもそも、なぜこのやり方でやっているのですか?」と聞いたところ、トップは「うちの会社は今までずっとこのやり方でやってきたから...」とお答えになりました。代々受け継がれてきた型に対してまったく違和感を持たずやっていたのです。

そこで社員に対するメッセージを見直し、いったん台本を捨てて、トップ自身の言葉で話すことにしました。
すると地味ですが、トツトツとした語り口からトップの実直な人柄が醸し出されて、じんわりと伝わってきます。話しを聞いた社員の方々から「社長の言葉を聞いてやる気になった」という感想がたくさん届きました。

トップは型を破ることができたのです。

型どおりこなすことは大事なこと。しかしその型に一度疑問を持ってみることが、さらなる成長につながるのです。

【参考文献】
平塚貞人『守破離』鋳造工学 第86巻 第2号(2014年)
プラトン『饗宴』久保勉訳 岩波文庫(2008年)

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