オルタナティブ・ブログ > 大人の成長研究所 >

ライフワークとしての学びを考えます。

大ボラで人が行動するのを、理論的に裏付けてみる

»

メガホンで話す女性(小).jpg

ソフトバンクグループの孫正義代表取締役会長兼社長、ファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長、日本電産の永守重信会長CEO。
この3名の方々はかつて「ホラ吹き三兄弟」と言われていました。

「ホラを吹くなんてとんでもない!」

真面目な方ならそう思いますよね。

でも、時と場合によっては「ホラ」を吹くことは大事なことなのです。
ちょっとしたことで人が動くか動かないか、更に言うと、ビジネスで生き残れるか生き残れないか、大きく差がついてくるのです。

いまからご紹介するのは実際にあったお話しです。

ハンガリー軍の小部隊が、軍事機動演習中にアルプス山脈で猛吹雪にあい遭難してしまいました。隊員たちは死の恐怖に怯えています。
すると1人の隊員がポケットから地図を見つけました。
「これで山を降りられる」と、全員が下山を決意しました。地図を見ながら帰り道を見つけ、無事下山に成功したのです。
しかし隊員たちの帰還を待っていた上官は、その地図を見て驚きました。
それは、アルプスの地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのです。

なぜまったく別の地図なのに、助かったのでしょうか。

命の危険が迫るパニック状態の中で地図を見つけ、「下山できる」→「命が助かる」というストーリーを全員で共有したことがカギになります。
地図が見つかったおかげで、下山する行動を取り始めることができたのです。「下山すれば命が助かる」というストーリーを共有しているので、一致団結して危機を脱したのです。もし下山を決意することができなければ全員遭難し、命は助からなかったでしょう。

これを社会心理学者のワイクが提唱する「センスメーキング理論」で説明することができます。

センスメーキング理論は、「意味をつくり、共有し、チームの方向性が与えられる」ということです。必要なのは、皆が納得して共感できる、魅力的な「優れた物語」です。
ワイクは、「『優れた物語』は、正確性があればそれにこしたことはないが、必ずしも必要ではない」と言っています。

人は感情で動きます。
物語に共感することで「聞いた話し」が「自分ごと」となって行動が変わるのです。

正確性は必ずしも必要ではないとはいえ、「ウソ」はダメです。不祥事会見で、知っていても「知らなかった」というトップがいますが、これはごまかすための大ウソ。保身でしかありません。

良いホラは、魅力的な物語で人が動き組織を成長させるものです。皆を幸せにするために自らを追い込んで、リーダーが腹を括るためのものでもあります。大きなビジョンなのです。だからホラは大きければ大きいほど良いのです。

未来を魅力的な物語で語る経営者は多くいます。

ソフトバンクの孫氏は、「人口知能は人の幸せとハーモナイズできる」。
日本電産の永守氏は、「未来は自家用ドローン。そのためのモーターを作っている」。
ファーストリテイリングの柳井氏は、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。
ユーグレナの社長・出雲充氏は、「ミドリムシが世界を救う」。

組織の価値観や理念が「優れた物語」によって共有され、納得されれば、人は共感して行動し始めるのです。
 
 
【参考文献】
K.E.ワイク『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』遠田雄志,西本直人訳,文眞堂(2001年)

Comment(0)