BoxのようなSaaSはSlackやZoomなどとのベスト・オブ・ブリードでより良い顧客体験を提供できる
IT業界で度々耳にするカタカナ語に、ベスト・オブ・ブリード(Best of Breed)がある。マルチベンダーでそれぞれの良いものを組み合わせて、より良いものを構成する。クラウド、特にSaaS系ではベスト・オブ・ブリードでやるべきと主張するのが、ビジネスユースのコンテンツシェアサービスを展開しているBoxだ。
Boxの年次カンファレンス「Box Works 2019」が始まる前に、このイベントに参加するプレス向けプレイベントとして「International Media Program Day」が開催された。最初のセッションは「Best of Breed CPO Panel」と言うお題で、BoxのCPO(Cheaf Product Officeer)のJeetu Patel氏をモデレータにし、PagerDuty、Slack、Zoomの製品担当者が集い、彼らが協業で進めているベスト・オブ・ブリードとはどのようなものかが語られた。
オンプレミス時代は、ソフトウェアに関しては1つのベンダー製品を網羅的に採用することが多かった。その替わり、サーバーやストレージ、ネットワーク、OSなどはそれぞれ別々のベンダー製品を組み合わせて、ベスト・オブ・ブリード構成を取ってきた。
それがクラウド、それもSaaSの時代になると、さまざまなSaaSを組み合わせてより良い顧客体験の得られる仕組みを構成するようになる。SaaSの場合は、既に機能としては完結したものがクラウドで提供されている。それだけを単体で使うことももちろんできるが、いくつかの機能を組み合わせることでもっと良い顧客体験を実現できる、そう言うのがBoxやSlackの主張だ。このSaaSのベスト・オブ・ブリードの連合軍に対立する存在は、網羅的なサービスを1つのベンダーで提供しているMicrosoftやOracleとなるだろう。
現状の多くのSaaSがAPIを用意しており、他のサービスと容易に連携できるようになっている。BoxやSlack、ZoomなどはたんにAPI経由でデータのやり取りをできるようにするのではなく、それぞれの開発部隊がさらに1歩も2歩も踏み込んで、互いにディスカッションをしながら、複数サービスを利用しているユーザーの顧客体験を向上させる統合化の開発を行っている。「それぞれのプロダクトに境界はありません。たとえば、BoxはSlackとのインテグレーションで、今まで以上のユーザー・エクスペリエンスを提供できるようになりました」とPatel氏。
ベスト・オブ・ブリードのためにどうインテグレーションするかは、かつては顧客側の問題だった。しかしながらSaaSの時代には、ベスト・オブ・ブリード構成をとれるようにするかは、サービスを提供するベンダー側の課題だとも言うのだ。
ベンダー側が率先して他のサービスと深く連携できるようにし、新たな顧客体験を実現する。そうすることで、サービスを単独で利用するだけでは味わえない顧客体験を得られるのは確かだろう。自分たちにとってベストなクラウドサービスの組合せを見つけ出せるようにするのは、SaaSの時代には必要なスキルセットなのだろう。
とはいえ、複数サービスを組み合わせるとなれば、トータルでのセキュリティやガバナンスをどうコントロールするのかなど新たな課題も出てくる。そういった新たな課題を克復するためにも、それぞれのSaaSがより密に連携する必要があるわけだ。
ところで、このSaaSのベスト・オブ・ブリードは、SIerに依存する日本市場では少し敷居が高いかもしれない。自分たちの環境に合わせたサービスを選ぶのは企業側のIT部門などの役割であり、用意されているAPIなどを使って自分たち流にインテグレーションするのも、ユーザーサイドでやることが前提となっているからだ。この部分をSIerに依存するようだと、SaaSを使う俊敏性や柔軟性も損なわれ、さらには手間やコストもかかってしまいメリットは大きく減ることになりかねない。
SaaSのベスト・オブ・ブリードを最大限に活用するためにも、日本の企業は内製化を進めて自分たちで複数サービスを自分たち流に統合できるようなスキルは身に付ける必要があると言うことだ。