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非ITビジネスの経営者が納得したIT/DXへの理解が必要な理由

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DXが語られるときにもよく指摘されるように、IT企業でない企業の経営陣もITを理解すべきと言われています。IT企業でない企業の経営者になぜそう言われているのかを説明してほしいという依頼をもらいました。「いい話なので共有してもらったほうがいい」とブログへの掲載を同意してもらったので、そのときに説明した内容で納得してもらいやすかった部分を選んで紹介します。

ITシステムやITサービスがカバーする範囲が大きくなってきています。これまでであれば、ITシステム、システム開発者、運用者、オペレータのような狭い範囲で解決できていたような課題が、そうした人を超えるような範囲にも影響を与え、解決しにくい場合も増えています。範囲が狭く影響も深刻でないあいだは、関係者で課題を明らかにして解決することができたものの、範囲が広くなると簡単には済まなくなり、リテラシー(ITへの理解)が十分でない人への説明やお願いすべきことも増えてきます。

そうした説明やお願いには時間がかかったり、受け入れてもらいにくくなるため、狭い範囲で解決できていたときよりも時間がかかったり解決しづらくなったりすることも増えます。たとえば、ITへの理解があればセキュリティの問題の一部は、現状ではいたちごっこで新しい手口が現われ、それを素早く対策するというのが限界であることが理解できます。しかし、そうした理解がないと、セキュリティの問題はITに関わる技術者の怠慢であると断定してしまうでしょう。また、大きなインシデントがあったときには保守的なセキュリティ対策を講じることが多くなる傾向にありますが、「そっちはゼロリスクを目指しておけば仕事になるのかもしれないが、こっちは利便性を損なって大迷惑だ。仕事のジャマをしないでくれ」というようなやりとりが起こり、「また、文句言われるかもしれないからなぁ」とチャレンジが難しくなってしまうでしょう。

理由のもう一つは、ITを活用しないと実現できないようなビジネスが増えており、おおまかにどういうことができるかを理解しておかないと、ITを利用した同種のビジネスと比較して相対的に顧客価値が小さくなることが想像できないからです。ソースコード1行1行を理解して期待する振る舞いをような細かい作り方は知らなくてよいものの、ITでどういう情報や手順を自動化できるか、そのときにどういうリスクがあるかを知らないと潜在的な顧客価値を高められることに気づきにくいからです。

ここで注意したいのは、自分はITを使う側(作ってもらう側)なので理解できていなくてもよいと考えてしまうことはある意味では正しいのですが、相応のデメリットがあるのでバランスを取る必要があることです。作ってもらう側であっても、ITでおおよそできることを理解できていなければ、作るお願い(発注)も難しくなることです。ITシステムやサービスを発注したけれど、まったく期待外れのものができあがってきたときに、無理難題を押しつけたせいなのか、受注側に力量が足りなかったのか、カモにされているのかを判断することも難しくなります。

スマートフォンでも済ませることができるビジネスが増えている中、スマートフォンからどういうことができるかを使う側プラスアルファで知っておくことは必須です。それはスマートフォンを自分たちで作れるようになることとは別の話で、細かい部分はスマートフォンやITに詳しい人と相談しながらもおおよその仕組みは理解し、ビジネスやその顧客価値には精通し、スマートフォンやITとの組合せでどういうことができるかを考えることができることが必要になります。

私が説明した経営者は、これまで役員や自社のIT技術者に聞いてはみたものの「時代だから」「出遅れるから」といった理由で納得がいかなかったとのこと。ITに関して目利きになって自分たちのビジネスの顧客価値をどのようにして上げられるかを考えないといけない、適切な開発者を雇ったり開発会社に適正な発注をしないといけないと判断してくださいました。

この経営者は違いましたが、過去にはITを顧客管理、仕入れ、給与計算、経費精算、決裁等の事務手順と捉えている経営者もそれなりの割合でいました。事務手順は会社として重要な点ではあるが経営者層が細かく把握するものではないと考え、ITは重要ではないと考えていたようです。

そうしたリテラシーに関してはまだまだという感触で、以下のネタツイートが800 favを超えていて、同じように感じておられるのかなと思いました。

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