明らかにするのが難しい要求/実現するのが難しい要求を要求シンポジウムで聴講した
2013/3/8(金)に第7回要求シンポジウムに参加しました。要求シンポジウムの詳細はこちらから。4つの講演から構成されています。私は業務の関係で後半2つの講演しか参加できませんでした。後半2つのセッションは、楽天 森氏による「インターネットビジネスにおけるサービス開発: 「要求」のありようと開発方法の実際」、東京海上日動システムズ横塚氏による「俺の要求開発~二つの事例にのせて~」でした。
それぞれ私にとって気づきの大きいセッションでした。私が参加した1つめのセッションの森氏の講演で私の印象に残ったのは以下です。
楽天で海外展開されているサービスの中で、日本だけが特殊なものや海外のある国で特殊なものを紹介なさっていました。たとえば、中国向けのオンラインショッピングサイトでの価格交渉用のチャット機能です。こういった機能は文化や習慣を知らないと実現が難しく、そういった背景を把握しておかなければ要求を明確にするのは難しいという一例を示しておられました。
楽天市場で国内の特産品を売ろうとする利用者(販売者)も全員が全員ITに詳しいわけではなく、「商品名」の欄にセールスポイントを入力される場合があったりして検索が難しくなる例を示されていました。そのような多様性も考慮しておかなければ期待するシステムを作れない場合があるそうです。奥行きを感じました。
私が参加した2つめのセッションの横塚氏の講演で印象に残ったのは以下です。
要求開発ができていればイノベーションが起こる。システム開発をしたけれども何も起きませんでしたというのは、もったいないという大前提を最初に示された後、具体的な事例として、保険の契約をキャッシュレスにした事例、保険に関わるシステム開発を開発に携わるメンバが楽しいものにするという事例を紹介されていました。
1つめの保険の契約をキャッシュレスにする事例は20年以上前の話で、キャッシュレスにするという要求自体はあまり複雑でなく明確です。しかしながら、社内、監督省庁、慣習、代理店といった様々な利害関係者が持つ考え方、制約、慣習が実現を阻むことは容易に想像できます。保険の契約者(エンドユーザ)が現金を持って自宅で待ち、代理店が契約のために契約者の自宅に出向いて現金を受け取って、契約するという一般的な考え方を根本から変える必要があります。キャッシュレスの実現により、様々な恩恵があったそうですが、そのうちの一つとして、集金の金額間違いといった手戻りが大きく減ったことを示しておられました。
もう1つの事例は、保険に関わるシステム開発を楽しくするための仕組み、環境づくりです。この事例はITシステムの開発ではありません。横塚氏は東京海上日動システムズの代表取締役社長であり、社長が取り組む要求開発といえそうです。イノベーションを起こすためには社員が熱意を持っている必要があり、熱意を持ち続けてイノベーションにつなげるためには、社員に自由度があり、自律して考えられる状況が必要と考えておられるそうです。そのための一つの方法として上司と個人目標を設定して査定するといった評価をせず、ルールで縛らないようにしているそうです。これも表現するのは簡単なのですが、相当な苦労がありそうです。
森氏のセッションでは、気づいていない要求を背景、慣習に着目し、多様性に敏感になり受入れることによって明確にしていくタイプ、横塚氏のセッションではあるべき姿は比較的明確であるものの、個々の関係者の要求をふまえてどう実現していくかを考えていくタイプが示されたと感じました。
横塚氏のセッションの最後で「to beは寝言であり、いくらでも言うことができる。それを現実に変えていくのがイノベーションであり、戦略である。今の日本に元気がないと言われる理由の一つはto beばかりでその実現がおろそかになっているのではないかと思う」としめくくられていました。この一言も私にとって印象的でした。