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設計の完成度をはかる 『見逃し率』 ~ 東証 清田氏の解説記事から

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東京証券取引所での事例を解説する記事の中で紹介されている。出典は、次のとおり。本エントリは、解説記事の一部抜粋だ。

清田 辰巳: 発注者視点からの工程別エラー管理指標の導入,SEC Journal, Vol. 5, No. 4, p. 226-233

SEC Journalは、IPA ソフトウェアエンジニアリングセンターの刊行物。ユーザ登録すれば、ここからPDFでダウンロードできるようだ。

見逃し率はウォータフォール型開発の設計工程を主な対象として、妥当な設計作業が実施されているかを推測するためのメトリクスだ。次の式で定義される。

工程nの見逃し率=工程nの見逃しエラー件数/(工程nでの指摘エラー件数+工程nの見逃しエラー件数)

ここで、見逃しエラーは、本来レビュー等で指摘ができるはずのエラーでありながら、見逃されたものを指す。実際には工程nの完了直後には見逃されたかどうかがわからず、工程(n+1)以降を進めている途中で、工程nで見つけることができた(であろう)エラーとして明らかになっていく。

同解説記事では、この見逃し率を次のように使うと紹介している。

  • 見逃し率が上限を超えた場合
    進行中の工程をいったん中断し、工程nの(中間)成果物の見直しレビューを実施する。見直しレビューで指摘されたエラーで見逃し率を再度算出し、上限を下回るようになれば、中断していた工程を再開する。
  • 見逃し率が下限を下回った場合
    実施中の工程(工程(n+1)以降)のやり方に問題がないか、書かれていない部分を推測で進めていないかを確認する。(清田氏の別文献(※1)において、見逃しが少ないということは検討が十分でない可能性があるため、と指摘されている)

(※1)清田 辰巳: 上流工程における発注者視点からの品質向上への取り組み (特集 ソフトウェアレビュー/ソフトウェアインスペクションと欠陥予防の現在) 、情報処理学会 学会誌 Vol. 50, No. 5, p. 400-404

同解説記事では、上述の見逃し率に加え、「すり抜け率」を紹介されている。こちらも興味深いメトリクスだ。詳細は原典を参照いただきたい。

記事公開以前に清田氏からこの話を伺ったときに非常に興味深いと思った。他の文献(※2)で類似の結果を確認していたし、私自身の過去の開発経験にも合致する内容だと思ったからだ。その時点では非公開情報であり、他では話すことができなかったが、今回の解説記事を参照し、出典を明記すればしゃべれるようになった。このような具体的な取組みがもっと共有されていけばと思う。

(※2)十九川博幸,森崎修司,松村知子,門田暁人,松本健一: 相関ルールを用いたシステム障害対応データの傾向分析、情報処理学会第70回全国大会

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