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倉重英樹著「シグマクシス経営論Z」...平易な言葉で書かれた経営書ですが、実は深い問いかけをする本です

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日本IBMの大先輩である倉重英樹さんが書かれた「シグマクシス経営論Z」を読了しました。

本書は、創業5周年で2013年12月18日に上場を達成したコンサルティング会社「シグマクシス」を創業した倉重さんが語る経営書です。

 

この本は、とても平易な言葉で、やさしく、かつ読みやすく書かれています。

しかし一方で、実は怖い本です。

熟練経営者として多くの実績をあげられた倉重さんならではの深い洞察に基づいて書かれています。

誰にでもわかる平易な言葉から何を掴み取るのか、読者に深い問いかけを投げかけてくる本でもあります。

 

いくつか引用します。

---(以下、p.41から引用)----

 では、ビジネスのスピードは一体どこで決まるのでしょう。3つあります。「意志決定(デシジョン)のスピード」、「コミュニケーションのスピード」、そして「プロセスのスピード」です。

---(以上、引用)----

さらに倉重さんは「100点の答案は作るの大変だし実行するのはもっと大変。60点でもいいので、方向性をしぼり、現実的な目標やハードルを設定し、まずは組織を動かしてみる方がいい」(p.44-45)とおっしゃっています。

私が「100円のコーラを1000円で売る方法2」で書いた、「網羅思考から論点思考」「三カ月の完璧な企画よりも、半日の仮説検証」を、「100点満点よりも、60点」というように、よりわかりやすい言葉で述べておられます。

 

---(以下、p.80から引用)---

 このようにスピード重視で動かしていく時、私たちが大切にしているのが「PoV (Point of View) = シグマクシスの視点」です。これは様々なテーマにおいて、①世の中の変化、②それによってもたらされるであろう経営課題、③その解決策の3点セットです。一言で言えば、私たちなりの「仮題」です。

...クライアント企業を取り巻く環境を一通り理解すれば、「このあたりが課題なのではないか」ということはおおよそいくつか思い浮かびます。そこで私たちのPoVの中からこれはご興味あるだろうというものを選んで、経営者の方にお話しします。

---(以上、引用)----

PoVは、倉重さんが代表を務めておられたPwC Consulting Japan時代からあった考え方です。

2002年にIBMがPwC Consultingを買収した際、IBMもPwC ConsultingからPoVを学びました。そして私も日本IBM在職中は、ソリューションマーケティングを展開するために、コンサルティンググループが実践していたPoVについて学びました。

現在「オフィス永井」でお客様にご提供している個別研修も、このPoVの考え方を応用し、お客様と議論を深めるスタイルで進めています。その意味では、倉重さんのこの考え方を間接的に受け継いできたのだな、と実感します。

 

---(以下、p.117から引用)----

...この考え方の背景に横たわっているのは、「人財は教育ではなく学習で成長する」という考え方です。

....「あれを勉強しろ」「この研修を受けろ」と組織から社員に求めるのではなく、成長したい、という社員の意欲を支援していくプログラムと環境を追求するのが、経営者の仕事だと考えています。

---(以上、引用)---

ともすると人材育成責任者は、「全員必須研修」として全員が研修を受けたかを厳しくチェックすることもあります。確かにコンプライアンス関連などでは、このタイプの研修も必要な場合があります。しかしすべての研修に、このスタイルが有効なわけではありません。

倉重さんがおっしゃるように、人は自ら成長したいと思って学ぶときが、一番成長します。

その意味では、研修は、深い人間洞察を必要としているのでしょう。

私もお客様にワークショップをご提案する際には、ノミネーション制ではなく、「是非参加したい」という希望者を募る形式をお勧めしています。

 

---(以下、p.154から引用)---

トップクラスの営業マンに共通するのは、2つのことです。まず一つはお客様のことを徹底的に知ろうとしています。....優秀な営業マンは相手とものすごく親しくなる。...緊密なリレーションができていれば、何か問題があった時は、「彼に頼めばなんとかしてくれるかな」と思ってくれるからです。...

もう一つ、彼らがやっているのは、仮説提案をひたすら相手にぶつけていることです。...仮説ですから100点満点の説でなくてもいいわけです。「私はこう思っています」というものを明確にして、それを持っていくと相手の反応で、「あ、今のは外したな」とか「これは当たった」とか感触が分かります。それを繰り返すことで、相手の本質的な課題を探っていく。優秀な連中ほど、この繰り返しを嫌がらない。

---(以上、引用)---

これも日々実践していきたいことですね。

 

私が日本IBMに新卒入社した1984年、倉重さんは私の所属部門の統括本部長でした。22歳の私にとっては、まさに雲の上の人。当時倉重さんは41歳。若き幹部候補生の筆頭でした

1993年に日本IBMを退職されるまでの9年間、私は倉重さんとお話しする機会はありませんでした。

昨年暮れに倉重さんが代表を務められる日本IBM OB/OG会があり、同じIBM卒業生である大里真理子さんのご仲介で、初めて倉重さんとお話しする機会をいただきました。

大里さんが「永井さん、本を出しているんですよ」と紹介されたところ、倉重さんは「おお、是非読みたいな」。後日、本をお送りしたところ、メールでご丁寧な御礼をいただきました。

倉重さんの部下になった人たちが、倉重さんを慕う理由がよくわかる気がします。

 

この本、折に触れて、読み返したいと思います。


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