田坂広志著『目に見えない資本主義』で、2年前に予見された世界が、3.11を契機に日本で『見えてきた』
昨日(2011/3/29)、内閣官房参与へ任命された多摩大学大学院の田坂広志教授は、リーマンショックに世界が揺れた2009年、「目に見えない資本主義」という著書を上梓されています。
当時、田坂先生は、プレジデント・ロイターに掲載されたこちらのインタビュー記事で、本書への思いを以下のように述べられています。
「経済危機を引き起こしたグローバル資本主義に対して、世界中の人たちが『やっぱり、あれはおかしかったよね』と思っている。この機を逃してはいけないと、世の中に一石を投じる意味で書き上げました」
「日本型経営に自信を失っていた人たちを元気づけたいし、働く喜び『働きがい』も取り戻したい。拝金主義に抵抗する庶民の英知など、日本は不思議な宝物を手にした国なんですよ」
本書では、資本主義の経済原理に起こりつつあるパラダイム転換として次の5つが挙げられています。
(1) 「操作主義経済」から「複雑系経済」へ
(2) 「知識経済」から「共感経済」へ
(3) 「貨幣経済」から「自発経済」へ
(4) 「享受型経済」から「参加型経済」へ
(5) 「無限成長経済」から「地球環境経済」へ。
2年前に田坂先生がこの「目に見えない資本主義」で描かれたパラダイム転換が、まさに今、3.11後の日本で起りつつあることを実感する方は、多いのではないでしょうか?
例えば、昨日(2011/03/29)の日本経済新聞のいくつかの記事を拾い読みしても、そのことを示すニュースが各所に出てきます。
以下は「大震災企業はどう動いた トヨタ、部品調達に総力―『一刻も早く思い強く』」という記事からの抜粋です。
---(以下、引用)---
工場が全壊し、従業員の安否が不明のままの取引先もあった。情報が入り乱れるなか、伊原(トヨタ調達担当専務)は福島県内にある素材メーカーのトップから一通のメールを受け取った。「もう納められない。レシピを公開するので他社に生産してもらってください」。自ら身を引く決断。秘中の秘である生産ノウハウを示すデータが添付されていた。「頭が下がる。一刻も早く再開しなければと思いを強くした」と伊原。調達部門の全員が胸を熱くした。
---(以上、引用)---
また、こちらは「一目均衡 震災が変える会社と社会の距離」 に書かれていた記事です。
---(以下、引用)---
コマツの野路国夫社長は地震から間を置かず社員に向けて「最も大切なことは被災地である東北、北関東の復旧に不可欠な建設機械をつくり、迅速に届けることです」という文書を出した。そこには「災害の復旧、復興支援が売り上げや利益に優先します」という異例の言葉もあった。
(中略)
今企業としての関心事は株価や業績ではない。「必要な地域でいかにスムーズに建機を使ってもらえるようにするか、供給責任の全うが最大の課題」と幹部はいう。
---(以上、引用)---
同記事は、以下のように結ばれています。
---(以下、引用)---
だが、一つ収穫があるとすれば、困った時は助け合うという共助の精神や規律正しさ、すなわちソーシャルキャピタル(社会的資本)が今も日本社会に根付いていると分かったことではないか。平時は営利組織である企業もその例外ではない。「売り上げや利益より復興優先」というトップの言葉は重い。
(中略)
....ハーバード大のマイケル・ポーター教授は「shared value(共益)」というコンセプトを最近提唱した。
企業は社会から遊離したまま、利益を生み続けることはできない。社会問題の解決を政府や非営利法人まかせにせず、企業自ら取り組むことで、持続的な富の創造やイノベーションが可能になる。そんな考え方だ。会社と社会が距離を縮め、互いに支え合う。復興に踏み出す日本にとっても非常に重要な課題である。
---(以上、引用)---
今、私たちは、日本発の「目に見えない資本主義」に向かう新しい社会の進化という、歴史的転換点(あるいは、日本的経営への大きな歴史的原点回帰)に立ち会っているのかもしれません。
田坂広志先生は、内閣官房参与としての立場で、日本国の存亡がかかった大きな課題(=福島原発事故)について、首相に助言をされる立場になられるとのこと。
はなはだ微力ながら、応援させていただきたく思います。