迷走する尖閣諸島の中国漁船衝突事件で思った、日本における国際世論のマーケティングコミュニケーション戦略の必要性
沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件。
衝突事件を起こした中国漁船の船長を釈放したところ、中国政府は謝罪と賠償を要求。
日本政府はこれを拒否。
さらに中国は再反論。
私も日本人として、色々な思いがありますが、当エントリーではそのことは書きません。
一方で、この事例には、コミュニケーションの大切な学びが、凝縮されているように思います。
そのことを書きたいと思います。
日本政府は、中国人船長を釈放すれば中国は軟化するだろうという目論見だったようです。
しかし逆に、中国から「謝罪と賠償」を要求されています。
片山総務相は「日本側の方が少し大人の対応をした」と述べています。
確かに、私たち日本人の基準では、これは大人の対応なのでしょう。
しかし、「大人の対応」はコンテキスト(コミュニケーションを成立させる共有情報。前後関係や背景)が共有されている場合のみ有効です。
仮に日本では「大人の対応」として通じる行動であったとしても、コンテキストが共有されていない相手に対しては、残念ながら必ずしも「大人の対応」としては受け取られません。
このようなコンテキストが共有されている相手とのコミュニケーションでは、ローコンテキストコミュニケションが必要です。
コンテキストが共有されている状態では確認不要なことであっても、明示的・論理的にコミュニケーションを積み重ねるのです。
相手が、なぜあのような行動をし、何がねらいなのか?
こちらがこのような対応をすると、相手はどう思い、どのような反応をするのか?
こちらが「当然、こうなるはず」だと思っていることでも、本当にそうなのか、相手に一つ一つ確認していくことが必要です。
例えば、日本が強力な切り札として持っていた船長を釈放した場合、中国が様々な対抗策を取り下げるのかどうかは、必ず事前にあらゆるルートを通じて確認すべきことでしょう。
今回、これらを相手に確認できていない状態で、船長を釈放してしまったようです。
「時期尚早な対応」と言われても、仕方がないようにと思います。
また中国は「中国側は当然、日本側に謝罪と賠償を求める権利がある」と言い続けています。
当初より日本政府は「領土問題はないから毅然とやる」という方針で取り組んでいますが、その根拠がわかりやすく国際社会に伝わっていないように感じます。
この経緯をわかりやすくかみ砕いて、例えば国連総会のタイミングにあわせて米国の新聞に全面広告を出す、等の対応策も、必要でしょう。
また、捜査段階で本来は提示できないとしている中国漁船が衝突してきたビデオについても、司法と政治の判断で、国際社会に提示すべきではないでしょうか?
例えばYouTubeに掲載すれば、アクセス殺到かもしれません。
元々、領土問題は根が深い問題です。
そもそも「領土問題は存在していない」というのが日本政府の認識ですが、だからといって、「だから今回の問題については国際社会に説明は不要だ。領土問題は存在していないのだから」ということにはならないと思います。
ローコンテキスト社会の論理で考えるべき状況にも関わらず、日本特有のハイコンテキスト社会の論理で考えていることが、今回、コミュニケーションが成立していない1つの原因なのではないでしょうか?
日本が行っていることをわかりやすくグローバル社会に情報発信し、国際世論に訴えていくマーケティングコミュニケーション戦略が、今こそ必要だと思います。
幸い、日本の民間には、グローバルコミュニケーションとマーケティングコミュニケーションの両方に精通している専門家は比較的多いと思います。
国益を損わないためにも、政府レベルで、このような人材を、戦略作りと戦略の実行のために、どんどん登用していくべきではないでしょうか?