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ビジネスパーソンの出版戦略:ライフネット生命社長・出口治明さんインタビュー(その3)「個人の出版は、日本の将来のためにもよいことです」

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ライフネット生命保険・代表取締役社長の出口治明さんのインタビュー、第1回目第2回目に続いて、今回は最終回となる第3回目です。

 

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■「ため」にしないこと

D 「それから2番目は『ため』にしない、ということですね。例えば『最強の名刺にしたい』とか、そのことで何かの利を追わないことですね」

N 「まず書きたいことを書く、ということですね」

D 「私はよく『人脈がたくさんある』とびっくりされるんです。普通のサラリーマンなのに、出口さんは異常だとよく言われます。例えば、米国財務長官のガイトナーさん。なんでガイトナーさんと知り合ったかというと、極めて簡単です。彼は29歳頃、1990年頃に赤坂の米国大使館で勤務していました。米国財務省から日本に派遣されていたのです。当時、日本の生保はたくさんお金を持っていて盛んに米国債を買っていました。だから、ガイトナーさんは、生保の外債投資に興味を持ったんだと思います。そこで、ガイトナーさんは、大蔵省に、生命保険会社の経営者か、投資担当の役員に会いたいから、紹介してほしいと頼んだようなんですが、誰も、尻込みして首を縦に振らない。そこで、私に、お鉢がまわってきたのです。まだ、一介の課長でしたが。私は、会いたいと言う人は、決して断らない主義でしたから、ガイトナーさんに会って仲良くなりました。理詰めの考え方をする人で、話が弾みました。カラオケにも、連れて行きました。当時、ガイトナーさんが米国の財務長官になるなんて、誰も思わなかったですよね。」

N 「それはまたすごいお話しですね」

D 「よく『人脈を作る本』というのがありますが、私は全部でたらめだと思いますね。来るものは拒まず、去る者は追わず、という方針で、私は誰とでも会ってきただけです。たくさんの人と会ったから、結果的に人脈ができたんですよね」

N 「確かに、出口さんの講演会で一回だけ名刺交換をさせていただいた私からのインタビューのお願いをこのように引き受けていただいて、本当に驚きました」

D 「私は30歳で東京に来てから、声が掛かるお座敷は全部受けようと考えて、その通りやってきましたから、人脈は飲んだ回数に比例すると思ったらいいのではないでしょうか。ただ、1度も、人脈を作ろうと思って飲んだことはないですね。」

N 「人のご縁というのはそのようなものなのでしょうね」

D 「だから本も同じですよね。自分で書きたいことがあったら、書くべきです。自分の利益にしようと思って本を書くと、どこかに『いやらしさ』が出ます。人脈も同じですよね。自分の利益を図ろうと思って人脈を作ろうとすると、『あ、この人は自分の利益のために近づいてきているんだな』と思うし、そういうのは人脈にはならないでしょう。だから、私は本を書くのも人脈と同じで、書きたいことがあるから書くべきだし、何か自分で得ることがあるから毎日人と会うのだし、それが結果的に、書いた本が最強の名刺になることもあるし、人脈になる場合もあります。でもそれは結果論であって、神様しか分らないですよね。そういうことを狙って、本を書いたり、人と会っても、ロクな事にはならない、というのが私の基本的な考えです」

N 「今日はいいお話しを伺いました」

D 「いえいえ、私はどなたに対しても思ったことしか言いませんから」

 

■個人の出版は、日本の将来のためにもよいことです

D 「よく『日本には成長戦略が必要』と言われますが、私は『成長』という言葉は、馬鹿げていると思います」

N 「政府やマスコミは、『成長戦略が必要』と言っていますね」

D 「GDPは、単純化すれば、人口 × 生産性 ですよね。でも日本の人口は大幅に減少していきます。だからGDPを増やすという発想ではダメなんです。大事なのは競争力です。必要なことは、政府の競争力、企業の競争力、大学の競争力、個人の競争力を上げることです。豊かな生活をしようとしたら、まず、個々のセクターの競争力をつけることです。競争に負けたら貧しい生活をするしかないんですよ」

N 「そのためには、まずは個人の競争力強化ですね」

D 「私は本を出すということは、個人の競争力強化だと思います。だから、今回の永井さんの企画がいいと思ってインタビューをお引き受けしました」

N 「ありがとうございます」

D 「個人の競争力を高めるには、まず自分が知っていることを情報発信することです。『自分はここまで知っている』と宣言するということは、『お前はここまでしか知らないのか?』という批判を受け止める覚悟が必要になります。でも、批判を受けたら、学び直せばいいだけですね。この結果、競争力を高めることができるのではないでしょうか。まず、『競争したい』という意思表示をすることが必要なんですよ」

N 「本を書くことは、まさにそうですね」

D 「『自分を開く』ということは、おそらく『競争する』ということと同義です。素晴らしいことですよね。個人を強くしなければ日本は強くなりません。日本の将来にとっても、本を書くということは、個人の競争力を高めて日本を強くすることに繋がると思います。そして、本を書く場合は、書きたいことを書くべきです。その結果何かを得たいとかいう邪心があったらその本は売れないと思います」

N 「本を書くことが、個人の力を強くすると言うことですね」

D 「東京大学総長だった小宮山先生は『自分は世界の大学のトップ10に日本の大学が一校も入っていないのが悔しくて我慢ができない。大学は本や論文を書くなどして、もっと世界に情報発信すべきだ』とおっしゃっていました。その言葉にほだされて、ライフネット生命保険を創業するまでは、東京大学のお手伝いをしていたのです」

N 「情報発信しないことには始まらないということですね」

D 「国立大学の先生は極端に言えば、一生本を書かなくても、地位が保証されているでしょう。大学の先生方は、『そもそも、国際ランキングで大学の順位を決める採点基準がおかしい』等という議論ばかりやっている。でも、文句を言っても始まらないんです。イソップの『すっぱいぶどう』の逸話と同じです。現在の日本の一番の問題点は、競争しようとしないことです。大学が競争力を高めるためには、情報発信しかありません」

N 「特に大学の場合、世界に向けて英語での情報発信が必要ですね」

D 「そうです。大学が好例なのでお話ししましたが、仮に採点基準が悪いのならば、ルールを変えるように具体的な行動を起こすべきです。内輪で『すっばいぶどう』の話ばっかりしていてもダメですよね。日本の問題は、企業も政府も大学も個人も、グローバルに競争しようとしないことです。競争しなければ、いい生活ができる訳がありません。日本の企業にはグローバルで見て真っ当な経営者が少ないという事実が、最近の株価にも現れていますよね。歴史的に見れば、より頑張った企業や町や国が、豊かになる、という単純な事実しかないですよ」

N 「競争力を高める出発点が、情報発信ということですね」

D 「本を書くということは、個人が、自分の知識や見識を世間に問うことになります。誉められる場合もありますが、罵倒されることもあるわけで、競争の場に自分をさらすということですよね。競争しようという意思表示なんです。だから、永井さんのお話しを最初に聞いたとき、直観的に、これは、いいことだな、と思いました」

N 「今日のお話しを伺って、とても勉強になりました」

D 「あくまで私が『こう思う』ということですから、永井さんには永井さんのお考えがあるでしょうから」

N 「本を出版される方々の中には、例えばコンサルタントとして独立するにあたって、名刺代わりに本を出したいという方もいます。でも、単に本を名刺代わりに出したいというだけではなくて、誰もが強烈な思いがあって書いておられるのですよね」

D 「それはそれで正直でいいと思います。人間はきれい事だけではないので。大切なのは、言いたいことがある、訴えたいことがあるということですね。ただ結果は、神様次第ですから、『くれるかもしれない』と思っていないと、ショックが大きいかもしれませんね」

N 「本日は本当にありがとうございました」

D 「またいつでもお越し下さい」

 

当掲載内容は、永井個人が、出口治明様個人にインタビューしたものです。必ずしもライフネット生命保険様の立場、戦略、意見を代表するものではありませんので、ご了承ください

 

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