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ビジネスパーソンの出版戦略:ライフネット生命社長・出口治明さんインタビュー(その2)「情報は、発信すればするほど、集まってくる」

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前回の続きで、ライフネット生命保険・代表取締役社長の出口治明さんのインタビュー、第2回目です。

 

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■「直球勝負の会社」を出版した経緯

永井(以下、N) 『直球勝負の会社』は、どのような経緯で出版されたのでしょうか?」

出口さん(以下、D) 『直球勝負の会社』の最後に書きましたが、ライフネット生命保険を創業する前に、この会社をどのように皆さんに知ってもらえばいいのか、随分、悩みました。日本で一番安い保険と広告宣伝費を潤沢に使うことは全く両立しないでしょう。そこで、いろいろな方に相談に伺いました。さわかみ投信の沢上篤人さんに相談に行った時、沢上さんが笑って、『それはね、本を書いて全国を辻説法して回ればいいんですよ』と教えてくださったのです。なるほど、と思いましたね。これが、1つのきっかけになりました。ゼロから始めたライフネット生命保険を全国の皆さんに知って貰おうと、パートナーの岩瀬と2人で、書けるものは書いていこうと決めたのです」

N 「会社のために書いたということですね」

D 「ただ、戦後初めてゼロから創り上げたライフネット生命保険の思いを、1人でも多くの人に知って貰いたいという強い気持ちが先にありました。宣伝だけなら、会社が出版してもいい訳です。でも、会社がお金を出して出版したものは、読者の皆さんが『結局、会社の宣伝ではないか?』と敏感に感じ取ってしまうでしょう。だから、『マニフェストに象徴されるまったく新しい生命保険会社を、ゼロから立ち上げた』というストーリーを、読者の皆さんがどれだけ面白いと感じてくださるかどうかがカギだと考えて、全力で執筆に取り組みました。会社で出版するという考えは、最初から微塵もありませんでした。書いたものを、面白く思ってくださる出版社があれば、出版しようと。幸いにも、取材に来られた記者の方が、編集者を紹介してくださいました。ライフネット生命保険の創り方が面白いと感じて下さったのです。私の本も、岩瀬の本も(ライフネット生命保険副社長・岩瀬大輔氏著 『生命保険のカラクリ』文藝春秋社など)、ライフネット生命保険はびた一文出していません。すべて、出版社の方から、『ぜひ、出版したい』と言われたものばかりです。最初の本と同じですが、世の中に出す価値があると、出版社の方が判断してくださったものを出さないと、出版する意味がないんじゃないでしょうか」

N 「市場が求めているかどうかで出すべきだ、ということですね」

D 「コンテンツがすべてです。私は一概に自費出版を否定する訳ではありませんが、どちらにしても『書きたい』という強い思いがなければ、出す意味がないと思いますね。『生命保険入門』は若い人に伝えたいという強い気持ちがあって、遺書のつもりで書きました。『直球勝負の会社』は、ベンチャーとして始めたライフネット生命保険のありのままの姿を知って欲しいと思って書きました」

N 「両方に共通するのは、読者のことを分っている出版社が『出しましょう』と言うかどうかが、判断基準だということですね」

 

■「小説5000年史」について

D 「一方で、『小説5000年史』はおそらくどこの出版社も出してくれないだろうと思っていますので、自分の趣味として、自費出版で出そうと思っています。私は生命保険だけの人間ではく、他にも好きなことが1つくらいはあった人間だったということを、本の形で残したいと思っていますから」

N 「それはよく分ります。私が最初に自費出版した本(『戦略プロフェッショナルの心得』)はマーケティング戦略の本だったのですが、実は最初に自費出版を検討した際、写真の本にすることも考えていました。私は真剣にプロの写真家になろうと考えていた時期があったのですが、プロの写真家になると逆に自分の写真作品が撮れなくなってしまうことが分って、プロになるのは辞めて、アマチュア写真家として作品を撮り続けることにしました。その時に考えたことを、『プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファー』というメルマガにまとめて、2004年頃から2年ほど配信していたんですよね。非常に熱心な読者が600名程いらっしゃったのですが、これは商業出版としては成り立たないので、将来、何らかの形で本にまとめたいと考えています」

D 「なるほど、それは是非読んでみたい気がしますね。私の場合も、私が歴史オタクだということを聞きつけた人がいて、声を掛けてもらって、サーチナという中国専門のサイトで中国史のコラムを書き始めました。何で簡単に書けるのかというと、『5000年史』の草稿があるからです。昨年、母校である京都大学(教養学部)で、卒業以来初めて講義をさせていただきましたが、テーマは、イスラーム世界でした。その準備も、『5000年史』があったので、それほど、時間を割かずにすみました」

 

■情報は、発信すればするほど、集まってくる

D 「永井さんのこの『ビジネスマンの出版戦略』という企画はすごく面白いと思うんですよ。情報発信というのはすごく大切ですよね」

N 「ありがとうございます」

D 「私が1981年に興銀に出向していた時に、山本さんという産業調査部の部長がおられました。早くから時代を見通していた人で、当時から『これからはITの時代だ。出口君、ITの情報を集めるべきだ』と言っておられたのです『どうすればいいんですか?』と尋ねたら、『簡単だよ。まず、組織を作って情報発信すればいいんだ』と言われたのです。山本さんは興銀の産業調査部の中に、『IT班』という組織を作られました。班というのはいわば、課ですね」

N 「最初に組織を作ったのは面白いですね」

D 「当時の興銀は智恵の塊でした。この興銀でITの専門組織を作れば、詳しい人達が向こうから勝手に集まってくる。例えて言うと、『俺は、剣道は一番上手い』と宣言すると、道場破りが向こうから来る、ということですね。山本さんの考えは、情報を集めるためには、情報を聞きに行くのではなく、まず、発信すべきだということです。まず『自分は良く知っている、こう思う』と言い切ってしまうんですよ。その結果、自分の知らなかった情報が集まるのなら、道場破りをされて看板を取られてもいいじゃないですか」

N 「今のブログやTwitterは、まさにそうですね」

D 「書きたいことがあるということは、好奇心があるということでしょう。だから書きたいことがあれば、情報発信をすると、志を同じくする人達が集まってくる可能性があるんですよ」

N 「なるほど、私がインタビューしている方で毎日ブログを書いている人がいるんですが、世の中で注目される前から、勉強しながら書いているうちに、色々な人が教えてくれて、専門家になっていかれました」

D 「それを山本さんは30年前から言っておられたのです」

N 「情報の本質的なことですね」

D 「だから、知りたいことがあれば、まず自分から情報を発信するということですね。『自分は知っている』と言ってしまって、看板を出す。そうすると、道場破りが出てくる。つまりさらによい情報が集まってくる。だから、書きたいことは書くべきだ、と思うんですよ」

N 「昔も今も変わらないことですね」

 

当掲載内容は、永井個人が、出口治明様個人にインタビューしたものです。必ずしもライフネット生命保険様の立場、戦略、意見を代表するものではありませんので、ご了承ください

 

(以下、次回の「個人の出版は、日本の将来のためにもよいことです」に続きます)

 

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