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老衰する日本の農業と、危機的な日本の食料自給状況

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私の父方の祖父と祖母は、神奈川県と山梨県との県境で農業を営んでいました。

祖父と祖母は8人の子供(父+叔父+叔母)をもうけました。

昭和20年代後半の祖父の家は、働き盛りの祖父母を中心に元気な8人の子供達が生活し、とても活気があったと思います。

8人の子供達のうち、7人は都会に出て、会社員や公務員になりました。

昭和30年代中頃に、父と母が出会い、東京オリンピックの2年前に私が生まれました。

私が小学生だった昭和40年代には、夏休みや正月等によく祖父の家で過ごしました。茅葺の大きな家に大勢の従兄弟達も集まり、川辺でバーベキューをしたり、虫を採ったりして遊んだ、楽しい思い出があります。

働き者の祖父は、畑仕事をする傍ら、林業も営んでいました。

この頃は、祖父の家も活気がありました。

祖父は、15年程前に88歳で亡くなりました。

葬式は祖父の家で行いました。土葬でした。葬式を取り仕切って下さった村の方が、「村の若い衆がお墓を掘っているから」と言っていました。「若い衆」と言っても、皆さん50歳以上でした。

5年前に、両親や叔父・叔母達と一緒に、梅を取りに行ったことがあります。

子供の頃は、人が沢山いた記憶があったのですが、この時は人影はまばら。ほとんど誰とも出会いませんでした。

梅林には梅が沢山生っていましたが、雑草も沢山生えていました。考えてみると誰も手入れをしていないので、100%オーガニックでした。

叔父の1人は祖父の家に残っていましたが、昨年事故で亡くなりました。

98歳になる祖母は現在、横浜の老人ホームで毎日を過ごしています。7人になった息子と娘達は代わる代わる見舞いにやってきます。

一方で、祖父の家の畑は誰も耕すこともなく、現在は耕作放棄地になっています。

 

このような姿は、日本の農業を象徴しているようです。

『「老衰」へ向かう日本の農業』という記事に掲載されている数字を見ると、衝撃です。

農業従事者総数:224万0672人

39歳以下 4.9%
40-49歳 8.1%
50-59歳 17.1%
60-69歳 30.0%
70歳以上 39.9%

2000年から2005年の変化
総農家数 3,120,000戸⇒2,838,000戸 (-9.0%)
耕地面積 4,830,000ha⇒4,692,000ha (-2.8%)
耕作放棄地面積 343,000ha⇒385,000ha (+12.2%)

(「2005年農林業センサス」から引用)

農業従事者の70%が60歳以上で、40歳以下がわずか5%、という数字の意味するところは、

■今後20年で急速に農業従事者が減少する。
■40歳以下の若い世代へのノウハウ伝承が全く行われていない。

農業従事者が半数になる可能性もありますし、ノウハウ伝承に至っては、IT業界で言われていたいわゆる「2007年問題」の比ではないですね。

5年間で耕作放棄地が12%も増えているのは、その先行指標であり、この数字は爆発的に増えてくる可能性があります。

 

この状況が進むとどうなるのでしょうか?

農林水産省のページによると、2003年の主要先進国の食料自給率は下記の通り。日本はダントツに低い数字です。

オーストラリア 237%
カナダ     145%
アメリカ    128%
フランス    122%
スペイン     89%
ドイツ      84%
スウェーデン   84%
英国       70%
イタリア     62%
オランダ     58%
スイス      49%
日本       40%

現在の日本の食料自給率は39%ですので、2003年の上記の数字からさらに下がっています。

このままでは、10-20年後には食料自給率は20%を切ることも予想されます。

将来、様々な理由で食料の輸入がストップする事態が考えられます。

輸出国の禁輸措置、日本の相対所得の低下、グローバルな配送機関の停止、等。

大規模な戦争が勃発したり、新型インフルエンザが大流行すれば、一気にリスクが高まります。数十年間の単位で考えると、このようなことが発生する可能性は非常に高いと思います。

このような場合に、周りを全て海で囲まれている食料自給率20%で1億2000万人を抱えている国で何が起こるか。

想像すると、慄然とします。

 

「では、そう言うお前は、父親の実家を継いで、農家をやるのか?」

と問われても、既にこちらで生活を築いてしまった私には、できません。

恐らく同じ立場にある、多くの人が同じでしょう。

だから皆、この問題に積極的に触れたがらないのかもしれません。

しかし、問題を回避しても問題は去ってくれません。

問題は問題として認識し、どのように取り組むべきかを議論することは必要なのではないでしょうか?

そしてマスコミ各社には、このような問題をもっと掘り下げて提起することを期待したいところです。

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