オルタナティブ・ブログ > 永井経営塾 >

ビジネスの現場で実践できるマーケティングと経営戦略をお伝えしていきます。

ネット上の利他的行動に関する研究

»

いささか古い研究ですが、1990年代後半に米国で行われたネット上の利他的行動に関する調査研究事例があります。

現代でも有効だと思いますし、ブログの研究でも参考になりそうなので、概略をご紹介します。

●モッカスらのApacheプロジェクトの研究: プロジェクト発足の1995年から1999年までを調査研究

  • 400人の個人がコード開発に参加、このうちコアメンバー15名の貢献度が顕著
  • コアメンバー15名は、全体の変更要望に対応する開発のうち83%に貢献している一方、全体の障害レポートに関する開発のうち66%に貢献
  • 100個当りの障害レポートには平均して26人の開発者が対応しているのに対し、100個当りの非障害レポートには平均して4人の開発者が対応
  • 3975個の障害レポート中、上位15名の問題報告者が報告した障害レポートは全体の5%。2600人が1つの障害レポートを報告、306人が2つ、85名が3つを報告しており、一人当り最多障害レポート報告数は32
  • 50%の障害レポートが一日以内に解決。75%が42日以内、90%が140日以内に解決。解決時間は、優先順位、解決に必要な時間、さらに障害レポートがコード本体に修正を必要とするかどうか等で変わる

⇒つまり、ほぼ全ての新機能はコアメンバーにより実装・保守が行われているが、コアメンバーの障害対応に関する貢献度は新機能と比較すると低い。

(詳細は、Mockus, Audris, and Roy T. Fielding, et al. (2000) "A Case Study of Open Source Software Development: The Apache Server" を参照のこと)

●ラクハニとヒッペルによるUsenetニュースグループの一つであるCIWS-U上でのユーザー間互助行為の研究(1996-1999年のログデータ調査と、4ヵ月半間の実地追跡調査)

  • 回答は一般的に極めて早く、50%が翌日には回答。 一方、25%の質問には無回答。この比率は、時系列的に一定。回答を得た質問と得ない質問について調べた結果、質問の質及び明瞭さには違いは観察されず
  • ほとんどの質問は一部の高頻度情報提供者(Frequent Information Provider)が回答。トップ100人の回答者が50%の回答を実施。トップは同期間中2500の回答を行ったMark Slemkoだった
    ・Usenetを読む理由をアンケートした調査結果によると、情報提供者は学びのためにCIWS-Uを読んでいる
  • 既に持っている情報のみを提供する情報提供者は、平均4.0分間を回答に費やしている。情報を検索したり問題解決に従事する場合、情報提供者は平均9.33分を回答に費やしている。(有意水準5%で有意差あり。p=0.022) コミュニティへの貢献度が高い高頻度情報提供者は2分以内で、一般的な情報提供者は5分以内で、それぞれ回答を作成

(詳細は、Lakhani, Karim and Eric von Hippel (2000) "How Open Source software works: "Free" user-to-user assistance" MIT Sloan School of Management Working paper #4117を参照のこと)

以上から、実は、利他的行動を起こしているユーザーは思ったほど時間的コストをかけていないこと、及び、ネット上のごく一部のユーザーが利他的行動を行い、コミュニティ全体が便益を享受していることが分かります。

エリック・レイモンドが「伽藍とバザール」の中で、

ベータテスタと共同開発者の基盤さえ十分大きければ、ほとんどすべての問題はすぐに見つけだされて、その直し方もだれかにはすぐわかるはず。  あるいはもっとくだけた表現だと、「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない」。

と述べていますが、研究結果はこれを裏付ける結果となっています。

私は同時期(2001年頃)にカカクコムのクチコミ掲示板も調べてみましたが、上位100ユーザーにより27%の回答を行っている一方、上位100ユーザーで7%の質問を行っていました。 同様に、同時期にSETI@homeを調べたところ、約340万ユーザーのうち、上位1000人で全体の11.81%のワークユニットを解析していました。

恐らく日本のネットコミュニティでも同じ傾向ではないかと思います。

Comment(1)