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競合と差別化する、バリュー・プロポジションの考え方

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差別化とは、お客様に自社の商品・サービスを選んでいただけるように、競合相手が真似できない違いを生み出すことです。

「競合他社からいかに差別化するか?」

これはマーケティングに関わる人達にとって、常に重要な課題です。ただ、どのように差別化すればいいのか、なかなか具体的なイメージが沸かないことも多いと思います。

例えば、「競合他社との差別化ポイントは何ですか?」と尋ねてみると、様々な答えが返ってきます。

「うちはスキルのある人材がいる。我々の人材そのものが差別化」

⇒人材は重要なポイント。しかし、競合他社と比べて何が優れていて、お客様にとってどんな価値があるのか、を明確にする必要があります。

「商品の性能は、ウチが業界一番」 

⇒競合他社が全く追いつけない性能があり、かつ、お客様にとって性能差が大きな意味を持つ場合は、大きな差別化になります。しかし、すぐにキャッチアップできる程度の性能差であったり、お客様にとって性能差が大きな意味を持たない場合、差別化にはなりません。

 

では、どのように差別化を行えばよいのでしょうか?

 

差別化を行う際、バリュー・プロポジションという考え方が役立ちます。

 

では、バリュー・プロポジションとはどのようなものなのでしょうか?

 

バリュー・プロポジションとは、

「(1)お客様が望んでいて、(2)自社は提供できるけど、(3)競合他社は提供できない価値」

のことです。具体的には図のピンクの部分がバリュー・プロポジションです。

 

Valueproposition_5

例えば、街の電器屋さんのケースで考えてみましょう。

ここでは、競合相手として、家電量販店を想定します。
家電量販店の価値・強みは、圧倒的な販売量に裏打ちされた価格競争力です。

一方で、街の電器屋さんが提供できる価値・強みは、街の住民であるお客様に対するきめ細かいサポートです。

私の経験で恐縮ですが、以前引っ越した際、前の家で使っていた照明器具の配線が断線し、新居に付けられない状況になりました。ハンダごてで断線部分を接続する簡単な作業なのですが、不器用な私の手に負えませんでした。

そこで家電量販店に電話しましたがメーカーに直接問い合わせて欲しいとの回答。あまり手間をかけたくなかったので近所の電器屋さんに持ち込んだところ、その場で5分で修理してくれました。料金2,000円。街の電器屋さんのフットワークのあるサポート力のよさを再確認した次第です。

さて、街の電器屋さんが対象とするお客様は誰なのかを考えてみましょう。

「とにかく安い商品を」と思っているお客様は家電量販店で商品を購入しますので、街の電器屋さんのターゲットにはなりません。「価格は少々高くてもよいから手厚くサポートして欲しい」というお客様が、街の電器屋さんのターゲットになります。

このように考えていくと、

『近所に住む、団塊世代の富裕層』

はターゲット候補になり得ます。定年退職間近でお金をある程度持っており、数十万円する大画面TV等のデジタル家電も購入を検討中。あまり価格には敏感ではないが、ますます複雑になっていくデジタル家電がトラブルにあった際に、自分では対応できないので、直接家に来てサポートして欲しい、そのような価値を求めている人達です。

以上の考え方を当てはめると、街の電器屋さんのバリュー・プロポジションは、下記のようになります。

・【お客様が望んでいる価値】団塊世代の富裕層が必要としている、手厚いサポート
・【他社が提供できない価値】大量廉価販売重視の家電量販店が提供できない、お客様の自宅まで直接サポートに出向けるフットワークの良さ
・【自社が提供できる価値】ますます複雑になっていく最新のデジタル家電による生活を、お客様が十分に楽しめるように支援できるサポート力

実際、高齢化が進む住宅地で、徹底した商圏分析と顧客管理を行い、サービスに重点を置いてお客様をサポートすることで、毎年2ケタ成長を続けているメーカー系の販売店もあるそうです。

この例で分かるように、バリュー・プロポジションを考える際のポイントは、ターゲットとなるお客様が絞り込まれていて、そのお客様が望んでいる価値を理解しており、かつ、競合他社は真似できない自社の価値も把握できていることです。

バリュー・プロポジションが明確になっていれば対象顧客や訴求ポイントが明確に絞れているので、そのままプロモーション戦略やチャネル戦略を展開することが可能です。

ここで例として挙げた街の電器屋さんの場合も、このバリュー・プロポジションを起点に考えると、色々なプロモーション戦略やチャネル戦略を展開できそうです。

ちなみに、IBMのマーケティング・マネージャー達はこのバリュー・プロポジションの考え方を徹底的に叩き込まれており、企画を立てる際には必ず「お客様にとってのバリュー・プロポジションは何なのか?」を明確にすることを求められます。

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