オルタナティブ・ブログ > マイク丹治の「グローバル・アイ」 >

 セールスジャパンの経営を始め、様々な事業活動に携わるマイク丹治が、日々仕事を通じて感じていることをつづります。国際舞台での活動も多いので、日本の政治・社会・産業の課題などについて、グローバルな視点から、コメントしていきたいと考えています。

金融システムを変えよう!

»

先週のeconomistに、アベノミクスに関するレポートがあり、三本目の矢が、既得権の抵抗にあって参議院議員選挙も控えているため、期待はずれになっていると指摘されている。

その中で、欠損企業の退場と新たな企業の誕生を促進するために、周知の企業統治の貧困を改善する必要があるという記述がある。だが、果たして、こんなに短絡的にわが国の企業統治を総括して良いのか、と感じる。

もちろんステレオタイプな欧米型の企業統治システムの観点からすれば、わが国の場合資本と経営の分離も不明確だし、そもそも社外役員が十分に機能していないし、現実に不祥事も起きている。そして、複雑な既得権益が存在し、企業市場の流動性も必ずしも高くない。

だが、一方で、そのような事態を招いたのが、わが国の企業統治の貧困なのか、それともわが国の風土に合わない企業統治システムを導入したからなのか、は必ずしも検証されつくしたわけではない。

戦後のわが国の成長を支えたのは、護送船団方式と呼ばれた間接金融システムであり、東西冷戦構造の中で一人勝ちの成長を許されたわが国産業を、メインバンクが支えることで、殆ど倒産などない中で経済は発展してきた。

しかし、国際化が進む中で、金融システムも透明性を求められ、また国際舞台で活躍する企業には、欧米基準での財務力が求められる中で、企業は直接金融中心型に移行を余儀なくされ、日本版金融ビッグバンが推し進められた。

また、日米構造協議の圧力の中で、企業システムの変革を迫られ、社外監査役、社外取締役、委員会設置会社など欧米流の機関や組織が導入された。

だが、わが国の株式市場は、一部ネット投資家の増大はあるものの、基本的には海外投資家と機関投資家によってコントロールされており、必ずしも期待された機能を果たしているとは思えない。社債やCPも限られた役割だ。

また、欧米流の会計基準や現在価値会計、更には企業統治の仕組みの中で、経営者は短期的な視野での経営運営を強いられており、更にこれをチェックする社外役員については今回も法制化を求める声があるが、これが現実に機能する仕組みもなく、人材も限られているというのが実情だ。

何も、すべてを否定するつもりはないが、少なくとも現在のわが国企業において、株式市場中心型の企業統治構造が機能しているとは思えず、それはそもそも企業の存在のあり方、もっと言えば金融構造を含めた経済全体のあり方の違いによるものではないかという気がする。例えば、やはり貯蓄は圧倒的に預金に流れていると言うように。

とすれば、日本の企業統治の貧困などという前に、まずはわが国の経済構造にふさわしい仕組みを再度考え直す必要があるのではないか

現実にファンドの仕事などに関わり、そのあまりに短期的な視野、そして収益至上主義の投資契約などをみるにつけ、以前自らが奉職していた長信銀の果たした役割の偉大さを感じる。長信銀だけではないだろう。おそらく戦後の日本経済の発展を金融面で支えた金融機関は、最大のリスクを取る現代の投資家たちですら取らないリスクを取って、企業を、産業を、経済を支えていたのだ

もちろん、今や日本の一人勝ちは許されない、つまり競争は激化している。また、バブルの崩壊以降BIS規制によって手足をもがれ、そもそも企業の成長を考えるとかリスクを取るとか、金融機関としての本来の機能を発揮することのできる人材と組織が崩壊している現在のわが国の金融機関に出来ることは限られているかもしれない。

だが、今一度、間接金融によって経済成長を支えてきた時代の仕組みを再考して、もちろん不適切なところは修正して、わが国の経済構造にふさわしい、これからの経済変革を主導し、支えていけるような金融システムに変えていけないものだろうか?

Comment(0)