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 セールスジャパンの経営を始め、様々な事業活動に携わるマイク丹治が、日々仕事を通じて感じていることをつづります。国際舞台での活動も多いので、日本の政治・社会・産業の課題などについて、グローバルな視点から、コメントしていきたいと考えています。

覚悟のない被害者意識とお上意識

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すぐ逃げたがる経営者

この間ある会社の経営者から相談がありましたが、一言で言えば負債を抱えて金融機関から圧力を受けている、一方で事業は継続したいし戦略はあるのだが、何とか金融機関からの負債を逃れる手立てはないか、というものでした。確かに、負債が重荷になって前に進めない、一方で金融機関は事業を理解し支援するというスタンスではなく、BISのリスクアセットだけを気にしているというのは事実ですが、思い切って事業再生や会社更生をするのは将来に傷がつくからイヤ、経営者としてはあまりに覚悟がないと感じました。

一方で先日、ある事業再生の専門家の話を聞いたのですが、温泉の再生が最近はやっていますが、一番うまくいくのは前の経営者がある意味でいい加減で、銀行への支払いなどせずに、給与も遅配を起こしつつ、ボイラーなどの設備はきちんと更新していたケースで、真面目な経営者で銀行にも少しずつ返済を続けていたようなケースでは、逆に設備が老朽化して買い手がつかないことがある、ということでした。

要は、きちんと借りたものは返す、失敗したら相応の責任を取るという覚悟と、一方で事業としての価値を維持する、顧客へのサービスを維持するという部分のバランスの問題だと思いますが、中小企業の経営者が金融機関から求められる個人保証に逡巡するとか、どうもわが国は法人として活動することに関する経営者の覚悟が欠けているように思います。

そして、一方では、自社の技術は優れていると思い込み、こんなに素晴らしい技術だから簡単に開発や試作のための資金は集まると信じ込み、資金の出し手が出てこないと不満を口にするということが頻繁に起こっています。確かに、わが国全体でリスクを取ろうという意欲が減退していて、必要以上に投資家が慎重になっているのは事実ですが、一方で経営者がきちんと投資家に対して技術や事業方針を理解できるように説明するのは当然であり、そのような整理すらされていないのに、資金を求めるというのも如何なものかと考える次第です。

ただ、わが国を再生させるためには、このような中小企業の中で本当に覚悟があり真剣に事業を推進しているところに対して、リスクマネーを供給することが不可欠です。その意味で、貯蓄限度の上がった郵便貯金で国債を大量に購入し、これで集まった資金を政府自らが中小企業のリスクマネー供給専門機関を通じて、BIS規制や従来のリスク判断とは異なる基準で積極的に中小企業に供給することが必要だと考えます。そして、この過程で、経営者の覚悟を確保し法人としての最低限の条件、つまり財務諸表の整備を促していくということではないでしょうか?

覚悟のない首相交代劇

翻って今回の首相交代劇を見ていると、政治家の覚悟のなさにもあきれます。私は民主党派でも自民党派でもありませんが、政権交代を旗印に昨年の選挙であれだけの得票を得て成立した鳩山政権なのですから、いろいろ難しい部分はあったし、確かに総理としての器という課題もあったかもしれませんが、やりぬいていただきたかったというのが正直な感想です。

残念なのは、今回の一連の動きの中で、政権支持率が下がったから、或いは参議院選挙にこれでは勝てないから、ということが一番の動機になっているように見えることです。確かに連立の一角が結果として外れたからというのは、政治構造的には大きな問題で、相応に大義名分になると言えるのかもしれませんが、でもそれについても内閣運営というより選挙協力がより重要であったように取れるのが残念です。

そして、その後の代表選挙の中で、派閥に近い動きが国民の目にさらされ、結局自民党と全く同じで何も変わっていないという印象を与えた、これは結構致命的だと思いました。

そもそも民主党は極めて未熟で稚拙な政党です。それはこれまで日の目を見てこなかった様々な利益集団に対するばら撒きで、整合性のない典型的ポピュリズムのマニフェストを作り、これを実現しようとして幾多の修正を余儀なくされてきたことからも明白です。その意味で、政治の手法も結局は利益誘導の自民党と同じだったと言わざるを得ません。

そして、だからこそ、鳩山政権は、普天間の問題を始め、ことの難しさが分かったのだから、マニフェストに拘らず、利益誘導型でもなく、本当に国民のためになる政治を、これまでの経験を踏まえ、更には幾度となく失敗を繰り返しながら、覚悟を持って進めてほしかったと思います。普天間の問題は本当に鳩山氏の対応は稚拙そのものだったと思いますが、一方で沖縄にだけ負担を負わせたくない、という思いはそれだけ強かったのだと感じます。そこから再度スタートすれば、例えば思い切って沖縄近海の領海内に可動式のメガフロートを作ってすべての米軍をそこに移転するという発想も生まれたのではないでしょうか?

結局は被害者意識・お上意識の日本人の問題だ

実はこの経営者や政治家の覚悟のなさは、彼らだけの問題ではありません。わが国は全員が自分は弱者であり、政府の何らかの支援を受けるのが当然だと思っているのです。確かに本当に機会が与えられず困っている人たちを含めて、社会的弱者に対して生活を保証することは国家としての責務だと思います。

でも、例えば子供手当、何故今子供を持っている人たちは手当てを受ける必要があって、これまではないのか、或いは将来はずっとこの制度はあるのでしょうか?子供がいたら、生活費を切りつめても子供のために割くのは当然のことです。この制度は、そもそも所得税を払っていない世帯に一番税引き後のメリットがある形です。でも、そもそも所得税を払っていない世帯が3割以上もある、これはすべて弱者なのでしょうか?少子高齢化対策であれば、もっと子育てしやすい社会を作ることのほうが大事ではないのか、などなど特定の人たちにメリットを与えることで利益誘導にするのではなく、普遍的な形で政策課題に対応すべきではないのか?と考えます。

もうひとつだけ言えば、それこそ基地問題です。米軍がいろいろな問題を起こすから出ていって欲しい、でも自分では防衛に携わりたくない、というのが大部分の日本人だと思います。もちろん誰も怖い目には遭いたくありません。それにわが国は平和憲法を大事にしているのですから。

でも、我々が自分の国と国民を守らなければ、誰かに守ってもらうことが必要になります。それにわが国の防衛のためだけではなく、アジアはまだ不安定な状況にあることから、その安全のためにも今や沖縄周辺は唯一の重要な拠点であり、アメリカはこれを外すことは出来ないと思うのです。

だとすれば、わが国に米軍基地があることは致し方ない、そこで沖縄だけの負担がいけないからでは他の地域でと言ったら、必ずどの地域も反対だというはずです。つまり、わが国の国民は自分で自分を守ることも放棄して、アメリカに守ってもらう場所を提供することも放棄して、でも自分たちは弱者だから政府は何かしてくれるべきで、アメリカは当然のようにどこにいても守ってくれる、と思っていることになります。

そのような我々日本人が、長期自民党政権を支え、鳩山政権を作ってきたわけです。ですから、一番大事なことはまず自分たちが出来ること、やるべきことは何かをもう一度真剣に考え、「ください」姿勢や自分は弱者だから助けてもらえるはずだと考えることは改めることです。

そして、新たに成立した菅政権には今度こそ利益誘導ではなく、痛みを伴っても真に国民が幸せになる運営を期待したいと思います。年金だってあきらめなければいけないかもしれないし、医療サービスも保険カバーには限界が出来るかもしれない、高速道路もやっぱり高い料金を払う必要が出てくるかもしれない、でも何とかみんなが夢を持って生きて行け、子供たちに豊かな未来を約束できるような、そんな日本です。改めてケネディの就任演説を思い起こしてほしいと思います。「君たちがわが国ために何が出来るかを問いたまえ」

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