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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

新産業創造でリーダーとなるために、グローバルな説得力を磨こう

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 私は在米24年になるが「今だに英語に苦労している」と言えば驚くだろうか。もちろん、スピーチや通常のビジネスでは不自由することはないが、今でも難しいと思うのは、お互いあまり知らない者の集まるグループ討議でくさびを打つような効果的な発言をすることだ。

 私がアドバイザーを務めるシリコンバレーのあるベンチャーキャピタル(VC)が、定期的にアドバイザリーミーティングを催す。そこでベンチャー企業が招かれプレゼンテーションを行う。アドバイザーは、大手VCのパートナー、Googleなどの先進大企業の幹部、何度もベンチャーを興してきたシリアルアントレプレナー、など一家言のある人たちばかりだ。その中で、次々出る発言の中を割って意見を言い、議論をリードするのはなかなか難しい。こちらが発言した時には反応が無かったのに、あとで同様の意見を別のアメリカ人が発言したら他の参加者からの大きな反応があった、などという悔しい思いをすることもある。

 実は、この状況は、スピーチ、上司の部下に対する話、1対1の会話、などのようにすでに相手がこちらの話を聞くことが前提となっている場合と異なる。例えば、スピーチで言えば、以前に比べて日本の若者のスピーチの質が上がってきた。最近、起業を目指す人たちが短時間のプレゼンテーションする「ピッチイベント」が盛んだが、それに合わせて訓練が行われている。日本人だって、訓練すれば上達するのだ。

一方、先に紹介したグループ討議で参加者を説得するくらいの発言をすることは勝手が違う。これからこの能力が重要なのには理由がある。世界で新しい産業が勃興する時には産業界の波を作らなくてはいけない。国際標準やデファクトスタンダードなどの構築が重要な場合も多い。このような大きな波を自分に引き寄せるには、多くの人を国際的な場面で説得する力が必要となる。この能力が産業転換期で重要なのにも拘らず、それが日本企業が最も苦手とするところなのは心配だ。

 例えば、これからの成長が期待されているIoT("Internet of Things":「モノのインターネット」)の分野では通信・開発標準でいくつかの陣営がつば競り合いを演じている。しかし、そこで日本企業の影は薄い。IoTでは、IT・ソフトウェア分野に強い欧米企業とハードウェア・モノづくりに強いアジア企業の協力が欠かせない。よく見ると、全体を引っ張っているのは、IT・ソフトウェア系の陣営だ。概してハードウェア・モノづくり系の陣営は口べただ。ところが最近はそうとも言えなくなってきた。中国や台湾のモノづくり系企業はよく発言するし反応も速い。少しくらい荒削りでも寡黙よりはずっといい、というのが欧米人の意見だ。

 ではどうしたらいいか。基本はやはりロジック力だろう。敢えて単純化して言えば、日本人の思考は直感的、欧米人の発想は論理的だ。私もそうだが、直感的に結論が見えていることがあるが、その結論だけを言っても欧米人はついて来難い。愚直に論理を重ねていくことが賛同を得る道だ。私が先に触れたVCのアドバイザリーミーティングで苦労するのも、直感的に結論が見えている時に途中の思考回路を共有しないでいきなり発言する場合だ。これでは、共感は得られない。自分の考えを人前で論理的に話す努力と訓練が必要だ。

 グローバルで産業が発展する昨今、世界を舞台としたコラボレーションや説得力の必要性は高まるばかりだ。海外の留学生や駐在のビジネスマンは、スピーチはもとより、グループ討議での訓練を多く経験すべきだと思う。日本企業内にあっては、例えば、会議で空気を読まずに「なぜ」を連発する「問題児」を重用してみてはどうだろう。

(日経 2015.8.19)

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