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シリコンバレーのサムライ・ウルフが、イノベーションについてつぶやきます。(時々吠えることもあります。)

40兆円を生んだ若者の示す未来

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 去る5月25日、アメリカで最も歴史ある大学、ハーバード大学で卒業式が行われた。異例だったのは、招待された講演者の年齢が、卒業する学生と10歳ほどしか離れていないことだった。講演者の名前は、マーク・ザッカーバーグ(33歳)。世界中で19億人が使うフェースブックの創業者でありCEOである。現在のフェースブックの企業価値は40兆円以上あり、トヨタ自動車の企業価値の3倍近い。そんな若き起業家が、これから大学を巣立ちアメリカを引っ張っていくであろう約2000人の若きエリートたちを前に発した言葉は衝撃的だった。

 それは、「大人」たちの価値観から決別し、自分たちの世代--「ミレニアム世代」--の目的意識を醸成すべきだ、という宣言だった。大学は先輩の培ってきた価値観を継承していくかび臭いイメージがある。その最高学府の卒業式で彼は言い放ったのだ。「(先輩たちがそうであったように)自分の目的を見つけるだけでは不十分だ。我々世代の挑戦は、皆がそれぞれ目的意識を持てるような世界を作ることにある」と。

 彼の言う「目的」の意味は広く、むしろ「生きる意味」に近いように思う。自分が必要とされている気持ち、未来には自分を賭けられる今よりもっと素晴らしいことが待っている、という意識である。目的は幸せの源泉なのだ、と言う。

 待てよ。この話は中年以上の日本人にとって何か懐かしい響きを与えないだろうか。戦後の焼け野原から復興し、今日より明日は豊かな社会になっている。こうした希望はまさに幸せの源泉だったと思うし、日本社会の全員がその感覚を共有していた。

 しかし、社会に出た時から不況・デフレ続きで成長を経験してこなかった日本の若者世代にこの感覚はない。では、日本の若者世代が「自分は必要とされている」と感じ、「未来には自分を賭けられることが必ず待っている」と思うために、今何が必要なのだろうか?

 そのためのヒントをザッカーバーグは示唆してくれた。

 すなわち、次世代の人たちは、大人のしたり顔に惑わされず、とにかく行動するのみだ。現代のようにネットワークで人や企業がつながると、仮説検証のPDCAサイクルが超スピードで回転する。とにかく始めれば、フィードバックループがぐるぐる回るようになる。

 ザッカーバーグはこう続ける。

 「アイデアは完成してから目の前に現れることはない。アイデアの創生や実現に努力する中でやっと少しずつ明らかになっていくものだ。最終的な目的地が最初から見えている人なんていない。とにかく始めるしかないのだ。」

 彼の言葉を借りれば、「世界規模の変化であっても最初は小さいところから始まる。最初は誤解されることを覚悟しよう。誰でも大きなビジョンで追いかけるものは『狂っている』と思われる。はっきりものが見えるまでは、ブレーキをかける人が多くいる」という。

「賢い大人」の愚かさ

 問題なのは、彼の言うように「はっきりものが見えるまでは、ブレーキをかける人が多くいる」ことである。プレーキをかけるのは、往々にして経験多い「賢い大人」たちだ。彼らは、「とにかく始める」というような安易な真似はしない。失敗した時のしっぺ返しを知っているからだ。

 ある優良日本企業で若手の社員と未来事業のビジョンを作ったことがある。そのビジョンを社長に答申した際の言葉が忘れられない。

 社長は「私だって新規事業は立ち上がって欲しい。だから、君たちの案がどれだけ確実に事業となるのか、私を納得させてもらいたいのだよ」と言った。

 実はこれこそが、イノベーションを阻害する決まり文句だ。言った本人すら、これがイノベーションの芽を摘んでいることに気が付いていないのである。

 過去の成功体験に縛られている「賢い大人」を最初から納得させることは不可能だ。もし逆に納得させられる案であったら、それはイノベーションからは程遠いと考えるべきだろう。そもそも最初から未来の全貌は見えない。ザッカーバーグの言うように、行動を通して失敗と成功のサイクルを回していくしかないのだ。

 では、現代社会を築いてきた大人たちはどのような態度を取るべきか?

 それは、自らの成功体験を一度アンラーニングし、未来についてはセンスがないことを認識する、すなわち「知らずを知る」ことだろう。

 とはいえ、私自身も賢い大人側にいた。80年代にマサチューセッツ工科大学に留学したため、インターネット技術はその黎明期から知っていた。だが、95年のインターネット商用化の時にはその社会的インパクトの大きさは想像できなかった。

 ヤフーの創業者には「収入モデルを早く見つけないと早晩破綻するよ」と助言したし、グーグルがベンチャー企業だった時は「サーチエンジンでは事業にならない」と意見していた。字数制限があるツイッターは戯言だと言って憚らなかった。そして携帯ゲームは社会の片隅のあだ花だと思った。事業創造コンサルティングのプロ中のプロだった私の「大人の」予想は見事に外れたのだった。

未来を導くベンチャー企業

 しかし、2000年代からシリコンバレーの数多くのベンチャー企業の分析を始めてからは様相が一変する。その後いろいろなキーワードで広く知られるようになる技術領域や事業モデル、新しいパラダイムを描けるようになったのだ。

 例えば、あらゆる場所に設置されるカメラやセンサーのデータマネジメントとその分析は、現在では、ユビキタス、ビッグデータ、IoTのパラダイムだ。パンドラのような音楽サービスも予想した。アップルがiPhoneを極秘裏に開発していた頃、現在のスマートフォンの原型を創造し、アップストア("App Store")と同様の仕組み、位置情報や時間の紐付け、クラウドコンピューティング、いろいろなアプリケーションのオープン化とマッシュアップなど、アップルのビジョンとほぼ同じものを描いていた。

 それは、私が経験を積んで賢くなったからではない。私の周りにいた次世代を担う人たちが「ベンチャー企業」という枠組みで有象無象の取り組みをしていたからだ。私は仲間と共に、数千に及ぶ玉石混淆の取り組みをするベンチャー企業の活動を丁寧に読み解いていった。

 未来に向かって果敢にチャレンジするのがベンチャー企業だ。シリコンバレーでは、毎年何千社というベンチャー企業が生まれてはその多くが消えていく。未来に向かって目的意識を持って果敢にチャレンジするベンチャー企業の数々。これらから学ぶことは山ほどあり、未来に示唆を与えてくれる。

 フェースブックに並ぶシリコンバレーの巨人、アップルの共同創業者、故スティーブ・ジョブスは、スタンフォード大学の卒業式の招待講演で有名なフレーズを残している。"Stay hungry, stay foolish." 現代社会を築いてきた大人こそが自らの成功体験を一度忘れて、未来を予測することについてはセンスがないことを認識することだ。すなわち「知らずを知る」である。

 大人たちは、謙虚になり、未来に向かって邁進する次世代の考えや動きを真っさらな気持ちで見よう。そうすれば、ザッカーバーグが言うように、全ての人が目的意識を持てるような社会の構築につながり、次世代の若者に未来を託すことができるだろう。

(週刊ダイヤモンド 2017年7月)

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