自治体通販「FB良品」に注目が集まる理由
通販に向く商品、向かない商品
既にネット通販で売ってないものはないと言ってもいいくらい、実にさまざまな商品が販売されています。車などはもちろん、設置工事の伴う大型商品も、実は販売数No.1はネット店舗だということが少なくありません。
それらはしかし、すべてが通販に「向いている」というわけではありません。
工事を伴う大型商品などは、意外と向いています。全国を地域割して、施工できる業者さんをネットワークすることで、商品の販売と工事をワンストップで提供する仕組みを作り、施工業者さんには常に研修会などでサービスレベルの均一化を図ることで、見積もり→工事に関する不安や煩雑さを解消し、同時に大きな商品を安価で自宅まで運んでくれるというメリットが提供できるからです。
実は、当社が運営している「おうちまわり.com」も、薪ストーブという工事を伴う大型商品が結構売れるのです。メーカー指定の各地の業者さんに工事を依頼するのですが、工事費用を入れると、かなりの高額商品です。
一方、地域の特産品、農業や漁業の人が商品の素材を生かして作った、いわゆる「第六次産業」の商品などは、とてもたくさん販売されてはいます。お店の地産地消コーナーなどはいつも人で溢れていて、消費者からのニーズも高い。しかし、実はあまり通販に向いてない商品なのです。もちろん、目指す規模にもよりますが、少なくとも億単位の年商を狙う通販ビジネスには向いていない。
理由は、大量に生産できない。時期によって生産能力や品質にバラつきがある。保存が利かない商品が多いなど、さまざまあるのですが、大きな理由は「通販を前提に作っていない」商品が多いということです(もちろん商品によりますが、傾向として)。
通販のキモ
これはどういうことかと言うと、ズバリ「粗利が少なすぎる」のです。通販は、無店舗である代わりに、商品を保管、配送する場所、梱包用の資材、同梱物の制作、電話やメールでの顧客サポート、顧客情報の管理などなど、後方作業に想像以上の手間がかかります。しかし、実は通販の本当のキモはここにあるというのが我々の考えで、私たちの自社通販(上記の「おうちまわり.com」)には、お客さんのさまざまな質問にお答えする「コンシェルジュ」が何人かいます。
しかし、それには当然コストがかかります。多くの通販のように、配送料を一律、あるいは一定金額以上は無料と設定すると、それらを負担する必要も場合によっては出てきます。
コンシェルジュの配置まではいかなくても、必要最小限の後方業務だけでも、実は結構コストがかかります。そのため、自社商品を通販する場合、その原価率は30%程度(粗利70%)に抑えないと、あまり利益が出ないということになります。そして、地方の農家の方などが、試行錯誤を繰り返して開発した商品は、このような「バックエンドコスト」を、ほとんど無視した原価率、つまり値付けの段階で、通販しても利益が出ない商品になっている場合が多いのです。
こうなると、通販向けの商品にするには、原料や容器を変えて、価格設定からやり直す必要が出てきます。しかし、こだわって作っている商品が多いので原料が高く、必然的に市場価格からはかけ離れた値段になってしまう。そうなると、よほどの付加価値をつけないと競争できないということになってしまいます。
「第三次」が軽視されている
他にも、生産が安定しない、後方作業をする体制がないなど、さまざまありますが、通販に向いていない一番の理由は「儲けが少ない」ということだと、私は解釈しています。第六次産業というのは、一次(農業、漁業など)・二次(加工)・三次(流通、販売)の各産業の合計が六で、それらが一体になって、新たな価値を生み出すことを目指しているものだと理解していますが、上記のような現状を見ると、第一次と第二次のみを視野に商品を作っており、第三次がとても軽視されているように感じてしまいます。
そのため、我々のような通販支援事業者や、さまざまなアウトソーシングサービスなどを活用することができない。もちろん、大手通販会社のようにバンバン広告を打つこともできない。そもそも、「第三次」の感覚が薄いので、すべてにマーケティング思考がない。
では、どうにも販売しようがないのかと言えば、そんなことはなく、現に全国1,000か所近くある「道の駅」や高速のサービスエリアなどは、この手の商品で溢れかえっています。つまり、流通に「公」の力を借りることで、地域商品を世に出しているのです。こういう仕組みがないと、地域はどんどん廃れていく。民間の介入が難しい以上、地域の活力を取り戻すためには「公」の力を借りるのは、必要性の高い施策であると思えます。
道の駅から「宙(そら)の駅」へ
そして、このスキームを「通販」に生かそうというのが、佐賀県武雄市から始まった自治体通販「FB良品」です。
これは、その地域で作られている商品を、自治体が主体となって販売しようという試みで、今のところ約10の自治体が参加、2013年中には20~30に増えることが見込まれています。武雄市の樋渡市長は、「200自治体に増やすのが目標」と公言していますが、そうなったらかなりのボリュームで地域商品が網羅されることになります。誰かが、これは道の駅ならぬ「宙(そら)の駅」だと言ったそうですが、まさに言い得ています。
このような自治体の取り組みに対して、「民業圧迫」という声も聞こえてきますが、私はそうは思いません。理由は上記に述べた通り、「公」でないとなかなか支援できない分野だからです。
異業種を跨いだ商品開発に補助金を出すのは、これまでも多く見られてきましたが、私はその成功事例は寡聞にして知らない。私の耳に入ってこないだけかもしれないので、もし成功事例があればぜひ教えてほしいのですが、これまで述べた通り、成功しにくい理由は明らかです。第一次と第二次はとても組みやすく、その二者間で商品を作ってしまってから、第三次を検討するパターンが多いからです。
そのような、従来型の補助金ではなく、公的機関が「場(プラットフォーム)」を提供する。そうすることによって、地域商品が広く世に出るきかっけができれば、商品開発で終わってしまう補助金よりも、よほど価値があると私は思います。
自治体が、お金を配分するだけでなく、ビジネスモデルを考え、提供する。そして、他の自治体へも横展開する。そのような、これまでにない取り組みに、私は大いに注目しています。